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「いや〜ありがとよ、トラ」
バートンがようやく俺を解放してくれた。
これで無銭飲食の件はチャラだ。
「シルク・ド・フリークのチケット買えるといいな。」
そう言って微笑むバートンに別れを告げて、俺はある場所に向かって歩いた。
向かった先は、パブからちょっと離れた公園だ。
外国の公園って初めてだな。
辺りはすっかり夜更けであり、町は街灯と建物の中の灯りに照らされている。
「あのおっさん、本当に来るのか?」
店の電話で連絡すると、元警察のおっさん、もといケビン(・ジャキンス)は公園で会おうとだけ言っていた。
そんだけなら店で言えっつーんだよ。
メモにも電話番号しか書かれてない。
俺は公園の名前が書かれた所でケビンを待つ事にしたが、一向に姿を現さない。
「もしやドタキャンか?夏じゃなかったら凍え死んでるぞ。」
夏かどうか知らないが、日中の暖かさから夏だろうと思われる。
なのに、夜は少し冷えるみたいだ。
「もしかして…。」
俺は公園の中で待ってるんじゃないかと思い、公園の中に入る事にした。
公園内のアスファルト道も街灯に照らされており、不自由なく歩く事ができる。
しばらく道沿いに歩いているとベンチに横たわる人影が見えてきた。
「おっさんか?」
俺は死んでるのかと思い、おそるおそるベンチに近付き横たわる人の顔を覗き込んだ。
ケビンだ。
「死んでんのか?」
俺はそっとケビンの手首を取り脈を測った。
「………生きてる。」
じゃあ、寝てるだけか。
「おっさん!おっさん!こんな所で寝たら風邪ひくぞ!」
俺はケビンの体を揺すった。
ケビンは、寝起きかのように目を覚ましてゆっくりと体を起こした。
「すまんな、急に睡魔が襲ってきて眠ってしまっていた。」
呑気な警察官もいたもんだ。あぁ、元だったか。
「そんなことより、俺に依頼って何?」
宿も探さなきゃだし、早く要件を済ませねぇと。
「サーカスの情報を警察へリークする。そのために、古い劇場にいるサーカスに忍び込んでこのカメラで写真を撮ってきて欲しいんだ。」
「あ?何でそんなこと…自分でやりゃいいじゃねえか。」
「俺は脚に怪我を患っている上、フリークショーが吐き気がする程嫌いなんだ。正直見たくもない。だが、犯罪行為を見過ごすわけにもいかない。だからお前さんに頼むんだ。」
「場所はあんたも知ってんだろ?こんな回りくどいマネしなくても、警察にタレコんで古い劇場を調査させればいいんじゃねえのか?」
「そんな事は、サーカスの話を聞いた後すぐに通報したさ。だが、古い劇場には何も無かったと言われたよ。俺は妄言を吐くと思われているから警察には信用してもらえない。パブを出た後に自分の脚で古い劇場に行ったが、確かに何も無かった。だが、俺の勘が確かにあると言っている。」
古い劇場には何も無かった?
バートンのおっちゃん、まさかホラ話だったのか?
まぁ別に対して興味も無いけど。
このケビンっておっさんもホラ話を真に受けるとはな。
「おっさん、そこまでして無いならサーカスなんて話がウソってこったろ。俺もあんたも信じ過ぎてたって訳だ。こんなホラ話のために深夜の公園で密会だなんて、今にして思えば時間の無駄だな。」
さっさとバートンに教えてもらった宿を回ろう。
「おい待て!少年!」
「トラだ」
「トラ、待ってくれ!サーカスはあるんだ!」
なんだ?このおっさん、妙だな。
「サーカス見た事ねえのに、何で言い切れる?」
俺がそう言うと、ケビンは下を向いた。
「俺がまだ警察官になりたての頃、ここじゃない町で1度だけフリークショーを見た事があるんだ。見に行った時は勤務じゃなく、プライベートで友人と行った。ショーを見た感想は、正直ゾッとしたよ。世にはこんなにも恐ろしいバケモノ達がいるんだと思って。」
ふーん、おっさんサーカスの事知ってやがったのか。
しかし、バケモノね…。
ケビンは話を続ける。
「俺はショーが終わった直後、こっそり警察に通報しようとしたが、フリークの1人に阻止された。結局サーカスを後にしてから通報し、同僚とサーカスのあった場所に行ったが、もぬけの殻だった。それから今日までサーカスの話はとんと聞かなくなったのだが…。だから、パブでサーカスの話が聞こえた時には恐怖を覚えた。あのバケモノ達は生きているのだと、しかも俺の住む町に来ている。」
ケビンの身体が震え出した。
寒気でもするのか?
「おい、ちょっと大丈夫か?」
「アレは生きていてはダメだ!我々人間に危害を加え、洗脳しようと企んでいるに違いない!バケモノ達は俺達が知らない所で勢力を拡大して………。」
ケビンが訳の分からないことをブツブツ言い続けている。
やばい奴だな、コイツ。
「病院行った方がいいぞ、おっさん」
俺がそう言うと、ケビンの震えがピタッと治った。
そして、ギョロリと目玉を回し、俺を眼差した。
「なんだと…病院?お前も俺を洗脳しようとしているのか?お前もバケモノの手先か!!!!!」
ケビンはベンチから立ち上がり、ポケットからバタフライナイフを取り出して俺に向けた。
「落ち着け!おっさん!」
「バケモノめぇええええ!!!!」
ケビンはナイフを俺に向かって突き刺してきた。
俺は右に体捌きをして躱し、ケビンの脚をかけ前方に転ばせた。
ケビンは地面にうつ伏せに倒れ込んだ。
俺はすぐさまナイフを蹴飛ばして排除し、ケビンの両腕を背中に回して押さえつけた。
「はぁ、一体何だってんだ。」
ケビンの様子を見ると、どうやら転んだ衝撃で頭を打って気絶しているようだった。
「警察官だった…ね。」
さてと、このおっさんどうしたものか。
俺はとりあえず一息つくために、ケビンから離れ、ベンチに座り込んだ。
「ほう…この程度では死なないか。」
「!!!?」
さっきまで光っていた街灯が切れかけの電球のように点滅し始めた。
それに、これって殺気か?
とにかく嫌な感じの何かが近付いてくる。
「外界の子供がここへ何しに来たんだ?」
暗闇から声が聞こえてくる。
そしてゆっくり暗闇からその姿を見せた。
ニヤニヤと笑いながら現れた男は、丸眼鏡を掛けた小太りの初老の白髪頭で、片手には心臓に似た形の時計を持っている。
悪趣味だな。
男の周りには顔をフードで隠した小さい人が3人付いている。
小人か?
「旅行に来たんだ。あんたは?」
俺は昂っているんだろう。
この男が危険な存在だとわかればわかるほどに、ワクワクしている自分がいる。
その様子を見た男はニヤニヤと笑った。
「軽い忠告に来ただけだ。私はデズモンド・タイニー。気軽にデスと呼んでくれ。」
「俺は武田寅吉。気軽にトラと呼んでくれ。」