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「なーるほど。それであんな質問だった訳だ。」
エブラはまだツボってるのか笑顔のままだ。
エブラには、俺がトールの知り合いの息子である事、そして父に連れられて方々を旅しており、ある日起きたら父とはぐれてしまい、いつの間にかここへ来ていた事を話した。
これは嘘。
また、イギリスは初めてで、イギリス人の見た目をよく知らなかった。
だから、サーカスのみんなの見た目が普通なのだと思って、「俺って変かな?」という質問になったこと。
これは本当。
ここまでを説明し終え、今に至る。
「ここがシルク・ド・フリークっていうサーカスなのは聞いてるよな?」
「うん」
「シルク・ド・フリークは、見た目が普通と異なる人達でサーカスをやる所なんだ。だから、見た目的には、リュウの方が普通なんだよ。おかしいのは俺らの方さ。」
エブラはニヤリと笑って俺を見た。
「そうだったんだ。なんだか失礼な事聞いちゃったよね?」
俺は反省した。
見た目がどうこうというのは、例え思ってしまったとしても軽々しく口に出していい物じゃないんだ。
「いいよ、慣れてるし。それにさっき「失礼じゃなきゃ聞いてもいい」かって言ってたろ?失礼な事を言われる準備は出来ていたさ。」
エブラはケラケラ笑いながらそう言った。
「でも…。」
そう言ってもらえるのは嬉しいが、申し訳無さだけはどうにも拭えない。
エブラは軽く息をつき、仕方ないなという顔で俺を見た。
「サーカス見習いのリュウ君!反省してるかどうかは、今からの仕事ぶりを見て評価しようじゃないか!反省している分だけ、存分に働き給え!」
エブラはまるで偉い上司になったかの様に腰に手を当て、俺を見上げながら言った。
「わかりました。エブラ先輩」
小学生の子にたしなめられるとは、参ったな。
「そこは先輩じゃなくて座長が良かったな。」
エブラは口を尖らせて軽くスネていた。
こうしてみるとただの小学生か。
「それより仕事は?何すればいい?」
「もうすぐ夕方か。夜からチケット販売になるから、それまでは看板とか大道具のペンキ塗りかな。よし!一丁やってやるか、リュウ!」
それから俺はエブラに付いて、サーカスの準備作業を一緒にやった。
バイトなんてした事ないから、こういうのは新鮮な気持ちだ。
ここの人達はみんな優しくて、いつも笑っている。
きっとここが家なのだろう。
俺は仕事をしながら、ふと過去の事を思い出していた。
俺、上杉龍也は、親族全員がスポーツ選手のスポーツ一族だ。種目は問わず家族の誰もが何らかのスポーツをやっている。
オリンピック選手は2人に1人の確率で排出するほどだ。
俺の両親は、父がレスリング、母が水泳だ。
弟は野球で、俺が柔道。
両親共にオリンピック選手で、俺ら兄弟の期待値も大きい。
弟は来年高校生だ。プレッシャーというのをあまり感じないらしく、このまま行けば推薦で入った高校で活躍する事間違い無いだろう。
俺はというと、正直プレッシャーを感じている。
始まったのは中学2年生ぐらいからだ。
別にスランプという訳じゃ無いが、何か強制されているかのような心境になってしまうのだ。
柔道は好きだ。
だが、家では柔道以外の話も多く、他校、コーチ、オリンピックなどの話ばかり。
思春期だからだろうか、家が窮屈に感じるのだ。
だから高校も推薦を蹴って自分の行きたい高校へ進学した。
別に弱小校という訳ではないが、推薦された高校に比べれば見劣りする程度だ。
両親からは猛反対されたが、結果『タイミングの悪い反抗期』という事で、俺の望む高校に進学させてもらえた。
入学式は退屈だったけど、面白い奴に出会った。
トラだ。
入学式の後にふっかけられた喧嘩に決着がつかず、何だかんだで仲良くなった。
それからたまに喧嘩をしては勝った負けたの繰り返しで、今の勝敗は同じくらいだったと思う。
喧嘩なんて今までした事が無く、日頃のストレスを発散出来た。
それからというもの、プレッシャーが少しずつ解れていっているような気がしていた。
そういえば……別に柔道が変わった訳でも、家族が変わった訳でもないけど、柔道にも前より楽しく取り組めるようになったし、家族とも最近笑いながら話せるようになった。
俺が変わったって事なのかな?
それとも成長?
よく分からないけど、トラと出会った事で俺が変われたんだとしたら、これから色んな人やモノに出会っていけば俺はまだまだ変われる、成長できるって事だよな。
………。
なんか、トラのおかげって感じがどうも許せないな。
「おーい!リュウ!」
エブラから声が掛かる。
「そろそろ夜更けだ。チケット販売に行こう。クレプスリーが待ってる!」