帰って晩ご飯を用意する。
にゃーんとタロウがやってきた。
「あんたのご主人、ゴミ袋と猫を間違えて事故っちゃったんだよ、ドジだよね?でも、優しいとこ、あるよね」
は!何言ってるんだろ、私。
自分で自分にツッコミを入れる。
離婚届はまだバッグの中にある、果たしてこれをどうしたものか?
「こんな時は洋子さんだな、やっぱり!」
独り言を呟きながら、洋子さんにLINEする。
〈お久しぶり!元気?また時間があったら話を聞いてほしいんだけど〉
ぴこん🎶
《お?とうとう離婚した?いいよいいよ、話聞くよ》
〈じゃあ、いつ、どこにする?〉
ぴこん🎶
《来週なら何曜日でもいいよ、場所は最近できた和食のお店、どう?ほら、国道沿いの》
ということで洋子さんと、話ができる。
それだけで少し気分が落ち着いた。
こんな風に気持ちがフラフラする時は、第三者に聞いてもらう方がいいと思うから。
「ただいま」
旦那が仕事から帰ってきた。
「おかえり、ご飯できてるよ」
「あぁ、ありがと。汗かいたからさきに風呂行くわ」
「え?あ、そう、どうぞ」
いま、ありがとって言った!
ご飯を作ってありがとって言われたのはいつぶり?もう記憶にもない昔かもしれない。
先に食べようかと思ったけど、なんとなく待っていることにした。
「今日は暑かったな、ビール、ビール、と」
言いながら自分でビールとグラスを出す旦那。
「未希ちゃんも飲む?」
「うん、ありがと」
おおっ、私からもありがとが出た。
ありがとの連鎖だ。
その晩ご飯は、テレビもつけず事故の時の話や、仕事の現場での話で盛り上がり楽しい時間になった。
楽しいとご飯の味も美味しくなる気がした。
「そっか、離婚届までは書いたわけね、旦那さんも美希ちゃんも」
「うん、いつ出してもいいからって言われてさ。そしたら反対に、まだ出さなくてもいいかな?とか思っちゃって」
天ぷら定食、洋子さんと二人して同じもの。
カツや天ぷらって、主婦は家庭ではなかなか揚げたては食べられないから、こういうとこではやっぱりそういうものを食べてしまう。
「話を聞いてて思ったんだけどね…」
「うん、なんでも言って」
「離婚届は提出して、そのまま同居したら?」
「え?同居?」
「いやだってさ、住むとこもなかなか決まらないし引っ越すのも大変でしょ?」
「そうだけど、それじゃ意味がなくない?」
美味しいね、人が作る天ぷらは!とか言いながら。
「離婚の?意味はあるよ、責任がなくなるじゃん!」
「責任て?」
「妻としての、というか奥さんとしての?家事もできるだけそれぞれがやってさ。同居する代わりに、未希ちゃんはちゃんとその分の家賃や光熱費を払う。そうすれば旦那さんもローンが助かるでしょ?」
「なるほど…」
「引っ越すのはもっと後にして、離婚届だけ出せば?あ、その時にちゃんと一筆書くようにね、家賃や光熱費や食費や家事のこと。そうやって、あくまでシェアハウスにすればいいんじゃないの?」
憎みあっての離婚じゃないみたいだしね、と付け足す。
私だけじゃなくて、旦那にもメリットがあるわけか、一考の余地はある。
「それにね…」
と続ける洋子さん。
「その、彼氏?結婚しちゃったらさ、寂しいと思うよ。だから誰かと一緒にいた方がいいって。でも、未希ちゃんは誰かに縛られるのは窮屈になるのかもね、お互いに熱烈なときはいいけど」
「洋子さんは一人暮らししてるじゃん?」
「一人だけど、今は元旦那と仲いいからまったくの一人ってわけでもないよ」
「そうか…」
でも、そんな私の身勝手なこと、旦那は認めてくれるかな?とも思う。
「一つ屋根の下だと、距離を取るのは難しいかもしれないけど、離婚届だけきちんと出していれば気持ち的にはラクでしょ?その上でどうしても嫌なら引っ越すことにして」
「そうだね、考えてみるよ」
「なんなら、あと2、3人ルームメイトを探してみる?」
ニヒヒ、といたずらっぽく笑う。
話し合いは必要だけど、いい考えかもしれないと思った。
世間的に見れば、結婚してるのか離婚してるのか判断できない生活だけど、自分の中での気持ちは軽くなる気がした。
旦那とのシェアハウス?
それって、いいとこ取りじゃん!と思った。
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