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旦那が帰ってきてから、晩ご飯を出す。
「いただきます」
「どうぞ」
プシュッと缶ビールを開けて、グラスに注ぐ、二人分。
「はい」
「ありがと」
「ご飯食べたらさ、話があるんだけど」
一瞬、旦那の動きが止まった。
「食べてからでいいから」
「うん」
「私、お風呂入ってくるね」
髪を乾かしながら考えた。
何から話せばいいのだろうか?
いきなりシェアハウスしませんか?でいいのか。
キッチンへ戻ると、テーブルは片付けられていて、リビングで二本目のビールを飲む旦那がいた。
私は離婚届を持って、旦那の向かいに座る。
「あのさ…」
「?」
「あの、離婚届、書いてくれてありがとう」
「あぁ」
「それで、あとはこれを提出すれば法律的には夫婦じゃなくなるんだけど、相談したいことがあるの」
「なんのこと?」
風呂上がりに喉が乾くのは、緊張してるからか。
ビールを出してくる。
ごくごくと飲んで続ける。
「立て替えた税金分は残り半分以上あるし、私はまだ住むところが決められない。だからね、離婚してもせめて、住むとこが決まるまではここに住ませてほしいの、もちろん、家賃も光熱費も払うから」
「え?」
「シェアハウスにして欲しいんだ、ここ。そうすれば私は慌てて引っ越さなくていいし、少しでも家賃を払えば進君もラクになるかなって」
少し考える旦那。
「でもそれじゃ離婚しても変わらないんじゃないのか?」
「ううん、妻としての責任はなくなるし、同じように夫としての責任も果たさなくていいよ。家事も基本的には別々にしてさ。最近、いろんなこと進君が自分でやってくれるから、私もラクになったんだよね。ホントはご飯も勝手に作ってって言いたいけど、それはほら、まだどうしても無理がありそうだし」
「まぁ…料理は苦手だな」
「ご飯に関しては、食費を出し合ってやろうよ。でも私が作るのが当たり前じゃないってことはおぼえておいて。そのうち自分で作ってもらうけど、できるようになるまでは教えるから。その方が材料も光熱費も無駄にならないし」
缶ビールを飲み干して、少しかんがえているようだ。
離婚を言い出した嫁が、家を出て行かないという選択をしたことをどういうふうに理解しようか、悩んでいるのだろうか。
「言ってることが、すごくわがままだとわかってる。でも、これが一番いい気がする」
「まぁ、それはわかる」
「もしも、進君に好きな人ができて結婚したくなったらそう言って。私はそれまでに引っ越すようにするから」
「もう、結婚はいいや」
ポツリと言う旦那。
そりゃね、バツが3個も付いたらイヤだろうな。
「それから、離婚したらお互いの家族のことも、責任を負わなくていいからね。私、進君の家族苦手だし」
「それは、いいかも」
「だよね?進君も私の家族、苦手だもんね」
にゃおーんとタロウが旦那にすり寄ってくる。
「わかったよ、その方向で決めよう」
「ホント?じゃあ、離婚届を出す前に細かい決め事話し合っておこうね」
「うん」
なんだか、ワクワクした。
離婚できることがうれしいのか、慌てて引っ越さなくてもいいことがうれしいのか、まだ旦那と住めることがうれしいのか…。
あれこれと細かい決め事を話している間、旦那も楽しそうにしているように見えた。
『覚書』
・家賃はローンの三分の一
・光熱費は折半
・食費は月に二万ずつ出し合う
・家事は基本的にそれぞれ
・あくまでもシェアハウスの同居人
・一階が進、二階が未希
・プライベートは干渉しない
・問題が起きたらその都度話し合う
・それぞれの家族には離婚したことを告げる
「こんなものかな?」
「だいたいそうだね、あとはその都度、だね」
「できるだけ早く引っ越すようにするつもりだけど…」
「それは…急がなくていいよ、お金を返せてない俺の責任もあるし」
「じゃあ、近いうちに提出してくる、ん、違うな、一緒に提出しに行こうよ」
「離婚届を?」
「そう!あんまりいないよ、こんな夫婦は」
「いないだろうね」
覚書の最後に、今日の日付と二人の名前を書いた。
キッチンやリビングなどは全部共用だから、当番制で掃除をすることにした。
学校の寮みたいだねと笑う。
掃除が雑でも、文句は言わないと約束もした。
「でもさ、離婚届を出すだけで、今までと特に生活は変わらないよね?変なの」
私が言う。
「この歳になると、いきなり生活が変化するとついていけないかもしれないから、ちょうどいいよ」
「そうかもね」
その頃、貴君はお見合いという名の食事をしていたと、次の日に聞いた。
「どんな人だった?」
「わりと、グイグイくる感じの女性だった。年は10歳下で」
「付き合うの?」
敢えて、結婚するの?とは聞かなかった。
「付き合う、イコール結婚するになるから、もう少し考えてみる。あっちから断られることもあるし、まだわからない」
「そうだね、相手が貴君を気に入ったかどうかも問題だもんね」
10歳も下なら、可愛いんだろうな。
そしてわがままも聞いてあげるんだろうな、なんて勝手に想像してしまう。
考えないようにしても、嫉妬心が湧いてくる。
私じゃダメって最初に言われてるのになぁ。
何か始めよう、貴君のことを考えなくなるくらい熱中できる何か!
せっかく家事からも解放されるし、自分の時間も増えるんだし。
何か、探そう。