どれほど経っただろうか。いくら見慣れない景色とは言え、もう散々見回ってしまった。きっと今間違え探しをしたのなら小物の位置まで答えられるだろう。一向に開く気配のない扉にため息をついて、ふかふかとした柔らかさで僕を受け止めてくれるベッドに身を投げ出す。窓の外から見えた景色は段々とオレンジ色に染まっていってしまった。若井も、元貴も心配してくれているだろうか。
「藤澤様。」
いつの間に寝ていたのか、掛けられた声に瞼を開く。直ぐに視界に入ってきた女性、氷室さんと言ったか。彼女から向けられた優しい笑顔が目に入る。
「少しお部屋を移動しましょう。」
ぼんやりとした頭のまま、差し出された手を素直に取る。
繋がれた手を引かれたまま共に扉の外に出れば、広い世界が広がっていた。長い廊下に沢山の部屋、そして綺麗なシャンデリア。壁に飾られた絵画も高そうで迂闊に近付けない。
「あの、ここって?」
「ここは……私達の居場所です。」
少しだけ迷った様子を見せた後、紡がれた言葉にハテナが浮かぶ。曖昧にも程がある応えで、よく理解出来なかった。言葉の意図を深く聞こうと口を開いた時、前方にある一室の扉が勢いよく開く。
「ふざけんなよ!!!!閉じ込めておいて何が着いてこいだ!?誘拐だろ!ゆ!う!か!い!」
あまり外見で判断するのも良くないが、明らかに見た目の治安が悪い男だった。唾が飛び散りそうな勢いで部屋の中に向かって叫んでいる。
そんな男の様子を見ていれば、ふと目が合ってしまい、大声で話しかけられてしまう。
「おー!!お前ももしかして連れてこられたのか!?なんか変な奴らしか居ねえからよ、やっとまともそうなやつと会えたわー!!」
話し振りも、こちらに向かってくる歩き方も下品で思わず眉間に皺が寄る。
男が近くに来た時、氷室さんが僕と男の間に立ち塞がるように前に出る。そして、今までの様子からは想像も出来ないような厳しい口調で言い放った。
「何してるの天海(あまみ)、2人は接触させないようにと言ったでしょ。」
目の前の男に、と言うよりかは部屋の方へと言い放っていた。初めて聞く名前に困惑していると、部屋の中から1人の人物が出てきた。
「申し訳ございません。」
高めの身長に、執事服を着ており髪型は、さっぱりとしたセンター分けだ。今時では珍しい片眼鏡、通称モノクルを付けている様子をじっ、と見つめているとあることに気付く。庇うように後ろに下げている右手から、赤い液体が指に沿うように流れ落ちていた。
「ですがその…」
「言い訳を求めているんじゃないの。いいわ、私と変わって。」
「はい……。」
再度口を開いた執事服の人に、氷室さんが強い口調で言葉を発す。
「さあ、行きましょう田崎様。言うことを聞いて頂けるのなら、私も痛いことをせずに済みますので。」
氷室さんが男の腕を強く掴み、変わらない表情のまま告げる。当事者じゃなくても何処か不気味さを感じると言うのに、きっと男の人は相当怖いだろう。そう思い表情を伺えば、案の定変な汗をかいていた。さっきまでのでかい態度はどこに行ったのか。
「も、勿論。綺麗なお姉さんに言われたらね〜……。」
ぎこちない笑みを浮かべながら廊下の奥へと歩いていく2人の背中を見送る。それと入れ替わるように近付いてきた執事服の人が申し訳なさそうに眉を下げて、言葉を紡いだ。
「藤澤様、お初お目にかかります。私、天海と申します。先程はお見苦しい所をお見せしました。」
そう言い、深々と頭を下げる様子を慌てて制止する。
「全然、大丈夫ですから!頭上げてください!」
「…申し訳ございません。氷室に代わってご案内致します。」
顔を上げた天海さんの手から1滴の液体が溢れ落ちる。本人はそれに気付いていないのか、歩みを進めようとしている。そんな様子に、ポケットに入れておいたハンカチで思わず手を握ってしまう。
「血、出てますよ!これ使ってください。」
驚いたように振り向く天海さんと瞳がかち合う。あまりまじまじとは見ていなかったが、綺麗な瞳の色をしている。日本ではあまり見ない、いや、ほぼ見ないかもしれない、海のような瞳だった。
「あぁ、すみません。後で綺麗にしてお返しします。」
動揺してキョロキョロと見定まらない視線が新鮮で、思わず微笑んでしまう。
「ちゃんと清潔にして、絆創膏貼ってあげてください!」
振り向いたままの天海さんの口元が何か言葉を言いかけたが、直ぐに閉じられてしまった。そんな様子を誤魔化すように薄い笑みを向けられる。
「…お気遣いありがとうございます。西山様も待っておりますので、行きましょう。」
細められた瞳の奥で揺れていた切なさは、何故だろうか。
コメント
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うーん⋯まだ話がよく見えないな。でも面白い!!