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❄️
JUJU 五 夢
第1話
高専の廊下は、いつも少しだけ静かすぎる。
人がいないわけじゃない。
ただ、普通の学校みたいな騒がしさはない。
それが当たり前になってる自分も、少し変だと思う。
「ねぇ、そんなとこで突っ立ってると邪魔なんだけど」
背後から聞き慣れた声。
振り返るまでもなく、誰だかわかる。
「…ごめん」
軽く体をずらすと、そのまま隣をすり抜ける白い影。
五条悟。
相変わらず目立つ。隠す気あるのかないのか分からない白髪に、やたらと背が高くて、やたらと距離が近い。
「最近ぼーっとしてるよね、君」
歩きながら、何でもないみたいに言う。
「そう?」
「そう。任務でもないのに上の空って、珍しいじゃん」
図星で、少しだけ言葉に詰まる。
別に理由があるわけじゃない。
ただ、最近ちょっとだけ考えることが増えただけだ。
例えば—— 悟の事とか。
「何もないよ」
そう言うと、彼はちらっとこっちを見て、少しだけ口角を上げた。
「ふーん」
絶対、信じてない顔。
でもそれ以上は追及してこない。
その代わり、なぜか歩幅を合わせてくる。
「任務ないならさ、ちょっと付き合ってよ」
「どこに?」
「んー、散歩?」
適当すぎる。
「却下」
「即答ひどくない?」
「理由が雑すぎるから」
そう返すと、彼は面白そうに笑った。
「じゃあさ、理由つける」
「いらない」
「僕が暇で死にそうだから」
「自分でなんとかして」
「冷たっ」
わざとらしく肩をすくめる仕草。
でもそのまま、当然みたいに隣を歩き続ける。
拒否したはずなのに、結局一緒にいるこの状況がもうおかしい。
「……ねぇ」
「なに?」
「結局ついてきてるじゃん」
先に言われて、少しだけムッとする。
「ついてきてるのはそっちでしょ」
「えー、どっちでもよくない?」
軽い。
全部が軽いくせに、なぜか距離だけは近い。
気づいたら、さっきよりも肩が近くて、腕が触れそうになっている。
意識して一歩離れると、すぐにまた詰められた。
「逃げるなって」
「逃げてない」
「嘘。さっき離れた」
即答。見てる。
「…たまたま」
「はいはい」
全然納得してない声。
そのまま、彼はふっと顔を寄せてくる。
距離が、一気に近くなる。
「顔赤いよ」
「……っ」
反射的に顔を背ける。
「赤くない」
「いや赤いって。ほら」
顎に軽く触れられて、無理やり向けられる視線。
逃げ場がない。
「やめて」
少しだけ強めに言うと、彼は一瞬だけ動きを止めた。
——その一瞬だけ、ほんの少しだけ。
表情が変わった。
「…ふーん」
すぐに戻る、いつもの軽い顔。
でもさっきの一瞬が、やけに引っかかる。
「まぁいいや」
そう言って、あっさり手を離す。
「その顔、僕以外に見せない方がいいよ」
「は?」
意味がわからない。
「無防備すぎるってこと」
軽く言うくせに、声は少しだけ低い。
「……別に」
「別に、じゃない」
ぴたりと足が止まる。
それに釣られて、こっちも止まる。
「ねぇ」
さっきよりも、少しだけ真面目な声。
「自覚ないでしょ」
「何の」
「そういうとこ」
曖昧すぎる言い方。
でも、なぜか目が逸らせない。
「……ない」
正直に言うと、彼は少しだけ目を細めた。
「だろうね」
次の瞬間、また距離が近づく。
さっきより、もっと自然に。
逃げる隙を与えないみたいに。
「じゃあ、教えてあげる」
耳元で、低く囁かれる。
「僕しかいないとこで、その顔して」
ぞくっとするくらい、近い声。
心臓がうるさい。
「……意味わかんない」
なんとか言い返すと、彼はくすっと笑った。
「わかんなくていいよ、今は」
そう言って、何事もなかったみたいに歩き出す。
置いていかれないように、結局また隣に並ぶ。
——最初から、全部計算されてる気がする。
少し悔しいのに、嫌じゃない。
むしろ、
「……なんで笑ってんの」
「いや、君さ」
横目で見ながら、楽しそうに言う。
「ちゃんと僕の隣に戻ってくるなって思って」
図星すぎて、何も言えない。
「ほらね」
勝ち誇ったみたいな笑顔。
腹立つのに、
「……うるさい」
それ以上、何も言えなかった。
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