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あれからいくばかの時が過ぎ、公爵はゆっくりと身体を起こした。
ソファの上には、先程まで自らの腕に抱かれ泣いていた執事。少々血を吸いすぎたか、今は静かに寝息を立てている。
…初めて執事に会った時は、彼はまだ小さく幼くて、手足も小枝のように細くボロボロの布切れのような服を身につけており、風呂に入れるために脱がせるまでは性別も分からないほど髪が伸び放題で困惑したものだが、何故自分の屋敷に来たのかと聞いた時、
「ぼくは、イケニエなんだって」
と、淡々と答えたのを覚えている。
当時はその生贄を寄越した町を丸ごと燃やしてやろうかとも思ったが、今となっては良い人材を送ってくれたと思っている(だが感謝はしない)
吸血公爵。その名の通り、自分は人の血を定期的に吸わないと生きて行けない。
元々はごく普通の人間だったのだが、数百年前に呪いを受けて吸血鬼となってしまってからはこの駄々広い屋敷に最低限の使用人達と共に、ほぼ1人で暮らしてきた。
そんな時に、生贄として放り込まれて来た幼子は自分を見ても怯える事も泣き出すことも無く、本当に淡々としていて、吸血鬼の自分よりも人間味がない子供だった
「……それが今では、随分と可愛らしくなって」
知らず、口元が緩む。たかだか数年だが成長を見守り、共に暮らしていくうちに愛着がいつしか愛情に変わり、気づいた時には泣き叫ぶ執事の身体を公爵自身のもので貫き、激しく突き上げていた
(…あれ以来、執事の態度が遠慮なくなった気もしないでは無いが)
いまだに起きる気配のない執事をひょいと抱き上げ、公爵はそのまま執務室から続く寝室へと向かう。
公爵の自室という割には殺風景な部屋。公爵はそのベッドに静かに執事を寝かせると、公爵自身もその隣に横になる。
普通、使用人と屋敷の主が同じ部屋、同じベッドで寝る事など有り得ないのだが、執事が屋敷に来てからずっとこうして並んで寝るのが習慣になっているのだ
(どうせ、誰も見る事は無いからな)
静かに寝息を立てている執事の髪を指ですくうように撫でる。顕になった首筋には真新しい傷痕が……
「お前は、俺のものだ。この傷痕は、お前が俺のものだという、言わば印だ」
低く囁き、執事の首筋に唇を落として、公爵も静かに目を閉じた───……