テラーノベル
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「惨めだなぁ、アタシ。ホントに、ずっと惨め」
ボロボロ涙を流して頭を抱える様は、誰から見ても惨めで虚しいものに違いなかった。その姿は自身が考えるよりも、さらに無様で可哀想に決まっている。
私は他人からどう見られているのだろうか。
無様な奴め。
お前のような奴はさっさと死んでしまえばいい。
そんなふうに思われているに決まっている。
そうに違いない。
「でも……」
奴隷に落ちてしまったあの時から、考えることすらなくなった思考に、今の自分がどれだけ幸せだったのかを気付かされた。
パワハラ紛いな言動も、ちょっとした小突きも、無理強いも、無茶も、恫喝すらも。
「全部、全部、全部、そこには愛があったっす。えぐっ、親方やおやっさん、いつもムチャなことばっか言うけど、えぐっ、絶対に”死んじゃえ”とは言わなかったっす」
悪魔が現れたあの日以来、彼女にとっての日常は確かに変わった。絶対に訪れるはずのない世界が広がった。
“希望を持って生きるのがそんなに苦痛か?”
問われた意味を理解できたことが、どれだけ幸福なことだったのか。彼らに与えられたものの意味を初めて知った。
「嫌っす。まだ、死にたくないっす。まだだもん、やっと、私の人生、まだ始まったばっかだもん。希望、持ってみたいっすもん。みんなみたいに、普通に!」
いつ死んでもいいと思っていた。
誰かが殺してくれさえすれば、すぐ楽になれる。
十年後も、二十年後も、三十年後も、ただ苦しいだけの地獄が続くのならば、これ以上、生きている意味などない。
「愚図で、ノロマで、バカで、間抜けで、取り柄もなくて、ただ生きてるだけのアタシだけどさ、やっと普通に、普通に生きられるようになったんすよ。もう、もう二度と、誰かに取られてたまるかぁ!」
辛うじて残っていた兵士の腕を掴んだチャマルは、「もう少しでいいから奴らを食い止めて!」と懇願してから、自分は震える膝をドンドンと叩き、階段を駆け降りた。そして続けざまに攻撃を放っていた魔道具が備えられているエリアを探して走った。
できることは限られている。
魔法も使えない。
スキルもない。
攻撃できる術もなければ、守る手段すらない。
「そんなアタシができることなんて一個しかない。叩かれて、叩かれ続けてカチコチになった、このバカみたいに頑丈な体の中に眠ってる魔力を、使ってもらうことくらいしかないんだよ!」
閃光が放たれた大まかな位置を想像し、城壁を裏から探し回ったチャマルは、ついに壁と擬態された扉を発見し、部屋へと飛び込んだ。中では魔力の充填状態に陥っている魔道具が目映いばかりの光を放っていたが、あまりの熱にたじろぎ、尻込みしてしまった。
「す、凄い熱っす。恐い、恐いよぉ、えぐっ」
恐怖という感情に押し潰されること自体が異質になっていた過去。
それがどれだけ異常だったのかを自覚するも、今この瞬間だけは過去の自分に戻るんだと言い聞かせ、チャマルは蒸気を発する魔道具へと一歩一歩近付いた。
充填が追い付かず暴走寸前の「排除くん」は、今にもはち切れんばかりに唸りをあげていた。恐ろしいほどの熱を発する動力部を見下ろしてゴクリと息を飲んだチャマルは、ガタガタ震えながら、魔道具に両腕を掲げた。
「ま、魔法は使えないっすけど、お前は魔力だけは沢山内に秘めてるって、昔親方に言われたことあるから……。大丈夫、きっと大丈夫!」
魔法どころか、魔力のコントロールすらできないチャマルにできること。それは自らのエネルギーの根本である魔力を、魔道具に吸わせることだった。
加減ができないチャマルにとって、その行為がどんな未来に繋がるかはわからない。最悪の場合は死、という、どうにもならない恐怖に苛まれるが、もはや迷っている時間はなかった。
壁一枚を挟んだ側からは、今にも迫りくる亡者たちの呻きが聞こえているのだから……
「度胸っす、女は度胸っす、ドワーフの女は、いつだって度胸って、親方が言ってたじゃん。迷うな、迷うなよアタシッ!」
目を瞑ったまま動力源に触れたチャマルは、あまりの熱さに顔を歪めた。しかしそれでもすがりついて跪き、祈りを捧げるように道具を抱え、「おねがいじまずー!」と叫んだ。
彼女の体がボワッと発光し、指先から激しく閃光が散り始めた。バチバチと激しく音をたてた魔力が、花火のようになって周囲を激しく照らした。
「熱い、痛いッ、死んじゃうよぉ」
バチンと光がはぜ、左手小指の爪一枚が剥がれて飛んだ。痛みすら感じることのなかった肉体は、いつからか当たり前の痛みに顔を歪め、嘘のように全身が震えていた。しかしその様子がまるで嘘のように、現実と虚構の狭間で揺れ動く、おかしな感覚に陥っていた。
「もうずごじ、もうずごじでいいがら、みんだと一緒にいたいっす。おやがたのせいとか、みんだがへんだきがいちゅくるから悪いって言ったけど、全部ウソっす。またみんだと、いっぱいお酒飲んだり、お話したり、笑ったりしたいっすぅ!」
秒毎チャマルの魔力を吸い取った「排除くん」は、炎天下で清涼飲料水をがぶ飲みする小学生のように魔力を蓄え、その力を一点に集め、発射台へ移行させた。ほとんどの魔力を吸われたチャマルは脱け殻のように膝をつき、シワになった指先をどうにか魔道具の背に添え、「撃ってぇぇぇっ!」と叫んだ。
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