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「風、早く乗って!初日から遅刻したらどうすんのよ!」
母親にせっつかれ、車に乗り込む。
「風が学校に行っている間に、お母さん、おばさんの家に荷物運んでおくからね。お父さんの仕事の都合もあるから、お母さんたち、学校が終わる前に発たなきゃいけないの。寂しいと思うけどごめんね」
「うん、全然大丈夫」
全然寂しくなんてない。私は、これから始まる日本の高校生活にワクワクしていた。
私、舞川風(まいかわふう)の一家は父親の仕事の都合でアメリカに住んでいた。しかし私のたっての希望で、私だけ日本の高校に転校させてもらうことになった。
静岡にあるおばさんの家で面倒を見てもらえることになったので、両親も安心している。
正直アメリカでの生活は最悪だった。
だから日本に帰って絶対すると決めていること、たくさんの仲間に囲まれて青春学園生活を送ること!そして、少女漫画みたいに胸キュンいっぱい運命的な恋をすること!
期待に胸を膨らませ車の窓から外を眺めていると、横断歩道で信号待ちをしながら変な動きをしている人がいた。
あの制服、同じ高校の人だ。
彼は横断歩道の前でキョロキョロと左右を見渡し、電柱に近づき、またキョロキョロとし、突如頭を抱えて電柱から離れ、しゃがみ込み頭を抱える。
うわーめっちゃ不審者やん…。なにあの人。
ちょうど彼の横を車が通り過ぎる時、彼が顔を上げて一瞬だけ目があった。
え…、けっこうイケメンだったかも…。
思わず振り返って、後ろの窓ごしに小さくなっていく彼の姿を見ようと必死になる。
また立ち上がって電柱に近づいて、キョロキョロして、のけぞって頭を抱えている。
顔はイケメンやったけど、やっぱり動きがめっちゃ不審者やん…。
「今日からうちのクラスに転校してきた舞川風さんだ。お父さんの仕事の都合でアメリカに住んでいたそうだ」
「えー!帰国子女じゃん!すげえ!」
担任の河合先生の言葉を遮って歓声が上がる。
「みんな仲良くしろよー!じゃぁ舞川、自己紹介しろ!」
「あ、はい、舞川風です。中学1年のときからアメリカに住んでいました。よろしくお願いします」
“帰国子女“と言う洗練された言葉にランランと期待の目を向けていたクラスの皆が、一瞬ポカンとする。
「え、なんで帰国子女なのに関西なまり?」
あれ、気づかない間になまっちゃってたかな?私は完全な関西弁というわけじゃないけど、イントネーションや語尾が関西なまりになる癖がある。
「うちのクラスにも関西出身いるよ!なぁ、レン!」
1番窓際の後ろから2番目の席の男子生徒が立ち上がる。
うわ、この人もさっきの不審者に増してイケメンやん。
れん「え、出身どこどこ?」
ちょっと眼光鋭くて、冷たい感じのする都会的な顔の雰囲気とは全く似つかわしくない、ソフトなハイトーンボイスの関西弁。
帰国子女の私が関西弁なまりなのと同じくらい違和感。
「あ、あの、出身はここ、静岡です…。じ、地元民なんです」
またクラス中の生徒の頭に「?」がポワンと浮かぶ。
「えーなんだよそれ!帰国子女で地元民なのに関西弁て変なのー!」
クラス中が爆笑する。
違う。この笑いは好意的なもの。意地悪で笑ってるんじゃない。
わかってるのに、足がガクガク震えてくる…。
「さーせっ!遅れました!」
教室の前の扉から、息を切らした男子生徒が顔が出す。
あっ!さっきの横断歩道の不審者!?
眉毛のキリっとした、ちょっとワイルドな感じ。
ぜーはー息を切らして、走ってきたせいか前髪が上がっていて、その乱れ具合が少年っぽさを感じる。
河合先生「岸ー!お前また遅刻か!」
「ほんっと、さーっせ!どーも横断歩道渡るのが苦手で…」
彼は片目をくしゃっとして手刀を切りながら、ペコペコして教室の中に入ってくる。
「横断歩道渡るのが苦手って、お前は小学生か!」
ワハハハハハ。教室中が笑いに包まれる。
「岸、転校生の舞川風さんだ。仲良くしろよ」
河合先生の紹介に、岸くんがニっと微笑みながらぺこりとする。
目があって、慌てて私もペコリとする。
「だいじょぶ?足」
岸くんが私の前を通り過ぎるとき、小声で声をかけてきた。
「え…?」
私は何も答えられず、一瞬時間が止まったように岸くんと見つめ合う。
「あ、ここ段差あるからね。気をつけて」
私が立っている教壇の段差を指差した。
あ、「足、大丈夫?」ってそういうことね。足、震えてたの、バレてたのかと思った…。
「あ、はい。大丈夫です…」
「そぅ?ならいいけど!」
岸くんは、またニッと笑顔を作り、「うんうん」と頷いてから、教室の後ろに進んでいった。
さっきの関西弁のれんくんの斜め前の席らしい。
眉毛のキリっと感とか、ちょっと少年っぽい雰囲気。
第一印象としては、なんとなくラピュタのパズーに似てるな、と思った。
「じゃぁ舞川、永瀬の後ろの席に座れ」
「風ちゃん〜ここやで〜!俺の後ろ!可愛い子、大歓迎やで~」
永瀬くんが手をひらひらさせて手招きをして呼んでいる。
席につくなり、永瀬くんが関西人ノリでガンガン話しかけてくる。
れん「こいつ~、岸くん言うねんけど、めっちゃ面白いねん!
学校の近くの横断歩道、押しボタン式信号なんやけど、自分がボタンを押してずらずら車止めちゃうのが申し訳ないって言ってな、なかなかボタン押せへんのよ!
それでしょっちゅう遅刻してくんのよ!」
岸「いや~だってさ、信号がない横断歩道なら、車が切れたタイミングでささっと渡れるのにさ、俺が渡った後も、誰もいない横断歩道で車がじっと待ってるの見てるといたたまれなくなるんじゃん~!?
しかもボタン押してから青になるまでちょっと時間があるから、タイミング測るのが難しいのなんのって!」
あ…さっきのあれって、そういうことだったんだ…。
それで何度も横断歩道の前で頭抱えておかしな動きしてたわけね。
じゃあ、うちの車が通るときも、ちょうどボタン押そうとしてたのに、うちの車を止めないようにするためにボタン押せなかったんだ…。
れん「それでずっとボタン押せなくて、しょっちゅう遅刻するっていう…」
「わかるーそれ!」
突然バサっと、窓から顔が飛び出した。
え?窓から!?ここって2階だよね…!?
河合「平野!お前、どっから入ってきてんだ!?」
平野「えっ!?ふみふみ、もういたの!?ちぇ~っ!こっから入れば遅刻バレないと思ったのにぃ~!」
河合「いや、余計目立っとるわ!」
登場があまりにインパクトあり過ぎだけど、それ以上にこの平野という人も、ものすんごいイケメンでびっくりするんですけど…!!
岸くん、れんくんもイケメンだけど、この平野くんって人が一番正統派のイケメンかも。
しかも何よりめっちゃ小顔!
さっきからイケメンばっか登場するんだけど、ちょっと私が離れている間に、いつの間に日本の顔面レベルはここまで高くなったの!?浦島太郎の気分やわ…。
平野「あれ~?転校生!?俺、平野紫耀です!よろしく!」
平野くんは、私の隣の席に座った。
れん「お前どうやって登ってきたん?」
平野「野球部のネットがあったから丁度いいと思って!俺も、今日あの横断歩道で手こずってなかなか渡れなくてさ!」
れん「いや、この話、”そんな奴おるぅ~!?”っていうオチで終わる予定やったのに、”分かる~!”って共感したらあかんやつ!」
また教室中が爆笑に包まれる。
れん「せっかくツッコミの腕がうずくボケの逸材がいるのに、同じクラスに天才的な天然が二人もおると、逆に話が収集つかんくなってオチがつけづらいわ!」
岸「え?天才的な天然が二人って、紫耀とあと誰のこと?」
れん「お前や!」
ありさ「結局きれいにオチついとるやん!」
ぎゃはははは!
クラス中が爆笑の渦に包まれていて、私も自然とその中に入って笑っていた。
岸くんが頭をポリポリかきながら笑っていて、振り返って私と目が合い、アヒル口で小さくうなずいて目配せしてきた…ように感じた。
休み時間になると、早速転校生の洗礼を受けた。
みんなに囲まれ質問攻め。
「ねぇ!なんで静岡出身の帰国子女なのに関西弁なの!?」
れんくんの隣の席のショートカットで背の高い女子がまず話しかけてきた。
「あ、あ〜、なんか向こうにいたときよく喋ってた日本人の友達が関西弁で。うつっちゃって…」
「え〜なになに〜?もしかして彼氏とか!?好きな人のしゃべり方ってうつるじゃんね!?」
「え、いや、そういうんやなくて…」
「密かに好きやった人とか!?」
横かられんくんが口を挟む。
「そういうんでもなくて…」
他のみんなもやいのやいのいろいろ聞いてくる。
あ、ダメだ、この囲まれる感じ。座ってても、また足が震えてくる。
「まぁまぁ、お前らあんまいっぺんに質問せんときーや!風ちゃんはもう俺が目つけたんやから、あんま手出すなや!」
れんくんがみんなから私をガードするように両肩に手を回してきた。
え?何?
もしかしてこれは、学校一のイケメンに転校初日になぜか気に入られて、強引に言い寄られる少女漫画パターン?
私の運命的な恋の相手はこの人なの?
でも、私イケメン苦手なんやけど…。
「ごめんね〜、コイツほんとチャラいから。誰にでもすぐ口説くから気にしないで」
さっきの活発女子がグイッと体を割り込ませるようにして、永瀬くんを引き離す。
れん「誰にでもちゃうわ!お前、俺はほんまはめっちゃ人見知りやねんぞ?風ちゃんだけ特別に運命感じてんねん!」
「はぁ~!?どこが人見知りなわけ〜!?」
なんだ、誰にでも言ってるのか。
二人はまだギャーギャーやっていて、そんな二人のやり取りにみんなの視線が移ったので助かった。
放課後。
まだ部活も決まっていないし、今日はとにかく引っ越しの荷物を整理しなきゃいけないのでそのまま帰宅した。
叔母「風ちゃん、荷物片付いた~?」
「うん、だいたいね~」
叔母の家では昔は旅館をやっていたそうで、その建物を使って何代か前からうちの学校のサッカー部の寮をやっている。
寮生が入っている部屋を私に一つあてがってもらい、食事などは寮生と一緒に、ということで住まわせてもらうことになっている。
だから荷物は服と勉強道具くらいで、ほとんどのものは寮の設備として備わっているのでかなりありがたい。
「ただいま~!腹減った~!おばちゃ~ん!今日の夕飯何~?」
玄関からどやどやとサッカー部員達が入ってくる音がした。
「あれ!?舞川じゃん!ここで何してんの!?」
ドヤドヤと入ってきた先頭に、岸くんと平野くんが立っていた。
「えぇっ!?そっちこそなんでここに!?」
平野「俺ら、サッカー部の寮生なんだよ。ここに住んでんの。舞川こそ何でいんの!?」
「あーーっ!風ちゃんみっけーー!やっと会えたーーっ!」
2人を掻き分け飛び込んできた男の子が、そのまま突っ込んできて私に飛びついてピョコピョコと飛び跳ねる。
「海ちゃん!」
「風ちゃん!会いたかったよ~!」
「私もだよ~っ海ちゃん!え!すごい背伸びた~!かっこよくなったね!」
「え~そぉ~?風ちゃんに褒められると嬉しいな~!」
岸「え?何何?海人。二人、どういう関係!?」
海人「え?風ちゃんはね~、僕のいとこだよ?」
「いとこ!?」
岸くん、平野くんが目を丸くしている。
「あ、私、両親はアメリカに戻っちゃってるので、叔母さんの家に居候させてもらってます。ここの寮母さん=海人のお母さんがうちの母の妹」
岸「…てことは、これから俺らと一緒にここに住むってこと!?」
風「っていうことに…なるんやね」
「お、女の子だぁ~~~っ!!うぇ~~いっ!!」
他のサッカー部員たちが一斉に野太い歓声を上げた。
そっか、男だらけのサッカー部寮に女一人で乗り込んできたってことになるんやな…。
なんだか、すごい波乱の高校生活の始まりの予感です…。