「…泣いてませんよ」
今日も彼がこの世界に来た証を守っている
突然帰って行った彼はとはもうかれこれ5年以上も会っていない
帰って来れないのだと直感で感じる
けれど、約束してくれたんだ。
「いつ、迎えに来てくれますか…?」
ーーーー
「あの、そこ私の家です」
「…ありゃ?」
誰だろうこの人。
自分の玄関の前にある階段にどっしりと座っている男性が居た。知人でもないし、友人でもない
見た目は、白髪のもっさりとした髪型、それとは裏腹に少しタレ目。目の色は青緑系の色をしている
声は落ち着く感じの声だが見た目が少しヤクザ気味
「私…借金ってしましたっけ?」
「いや、うちで見た事ないわ」
あまりに見た目があれだったので一応聞いてみたが、どうやら私に用があるのではないらしい
良かった〜!見た目がアレすぎて気づかないうちにカード使いすぎたのかと…!
少しチラッと彼の方を見ると、名簿帳のようなものを持っており、階段に座っている
髪をクシャッと上へかきあげても後がついていたのかまた垂れ下がってくるようだ
「というか、上山ってやつ居らんかった?ここに住んでたと思うんやけど」
上山…心当たりがない。
「いや…近所でも聞いた事ないですね。」
「ふーん…ならこの家の前の持ち主の名前ってなんだったか覚えとるか?」
前の持ち主…?
ん〜…どうだったっけな〜?
確か…あぁ!杉山さんだ!
頭を捻って前の持ち主の名前を思い出す
「いえ、上山って名前では無かったですね」
「そか。迷惑かけてすまんな」
「い、いいえ…!」
「ボソ いい加減金返しやがれ。上山」
結局借金取りだったのか…
上山とかいう人いい加減払った方がいいと思う。
そうこう考えてる内に、先程の男性はもう居なくなっていたあー、帰ったんだな。
私にはどうでもいいことだけど
ー
そんな事を考えながら、家の鍵を開ける
ガチャッ、と音がしたのを確認し玄関を開ける
まだ寒い時期なのだから暖房をつけてない家の中は少しばかり冷たい
玄関に上がると頑張ってオシャレ風にしたリビングはどこへ行ったのやら、あちこちゴミが散乱している
服も片付けず、放置のまま。
(あー、後で片付けないと)
これでも片ずける方だ。…多分。
「…でもさぁ……あの人イケメンだったな〜。」
いや、考えちゃうでしょ?
イケメンって頭に残っちゃうじゃん。今日ばかりは仕方ないことだと思う。
「でも、ヤクザっぽかったよなぁー」
「はぁ…今わかんないことばっか話してる自分が怖い」
キッチンまで歩く
キッチンマットをしばらく変えてないのか、少しばかり濡れている。
氷水をコップに注ぎ一気飲み。まだ少しぬるい水が喉に流れ、後から冷たい水が流れ着く
乾いた喉が水で潤っていく
「…やめやめ!きっとイケメンでも中身はやばい!…きっと!」
失礼かもしれないがこう考えなかったら私がどうにかなる
なぜ、イケメンに執着しているか。
…
正直、私は面食いだ。否定出来ない
オマケに男運も悪い。
だけど、イケメンだけで警戒してしまっている理由は今日の昼頃に遡る
ーーー
「別れよう」
カフェで彼氏である文也が突然切り出した
何を言ってるのか分からなくなり、頭が真っ白になった
「ちょ、き、急になんで…」
「他に大切な人が出来た」
彼は私が分かれる返事を待っているのだが、そもそも浮気をしていたのか?
と考え、さらに困惑する
大切な奴って…
(私がいながら…?)
散々、好きだの愛してるのだの言ってきたくせに。
イケメンの彼が出来て私の人生は順風満帆だった
性格も良くて、人当たりもいい。
優しくてイケメン。
欠点はもちろんあるけど
そんな彼が好きだった
彼も私が好きだと言ってくれた。
だけど
頭をフル回転したけれど答えが見つからない
何処で飽きてしまったのか。
私のどこが嫌になったのか
冷めた、なんて簡単には言えない
重たい感情を胸にテーブル席から立ち上がる
「…それじゃあバイバイ。」
荷物を持ち代金をテーブルに叩きつける
音が大きかったせいか、周りの雑音は消えていた
少しでも怒っている立ち振る舞いをしないと泣いてしまいそうだったから
カフェのドアに手をかけた時、後ろを振り返り
涙目で彼に視線を送るが興味が無いのか、スマホ片手にドリンクを飲んでいる
悔しくて、泣き出したいのをぐっと堪えた
私を裏切った元彼に
「一生不幸になっちまえ」
とお呪いをかけてあげた
我ながらなんて醜い最後だったんだと思う
「はぁ…居酒屋1軒行こ」
今日はやけ酒確定だ。
友達でも呼んでこの重たい感情が無くなるのだろうか?
片手に持っていたスマホのトーク画面には以前、友達と話した会話が写っている
スマホをポケットに入れ直し、重い足取りの中毎週金曜日に通ってる居酒屋に足を向けるのであった。
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