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これは、とある介護士の、不思議な能力の話。
夢見 叶(ゆめみ かなえ)。女性、介護士。
「今日はいい天気ですね〜。昨日の雨も嘘みたいにカラカラですよ〜」
叶は、おじいさん――高橋さんが乗った車椅子を押していた。
晴れ渡る空の下、二人でゆっくりと散歩をしている。
「あぁ、いい天気だ。絶好だな」
高橋さんは、空を眺めながら呟いた。
「こんないい天気の空は、飛ぶと気持ちよかったんだ」
ブゥゥゥン、と大きな音が空に響く。
「わっ、大きな飛行機ですね!」
「……あぁ、あれはT-102だ。あれはわしが乗っていた機体だ」
高橋さんは懐かしむように、その飛行機を見つめていた。
「……懐かしいなぁ。また、乗りたいなぁ」
その様子を見ていた叶は、ふと口を開く。
「……乗ってみますか?」
「ははっ、もうわしは老いぼれだ。乗れなんかしないさ」
高橋さんはクスッと笑った。
「……乗れますよ。高橋さんが良ければですけど」
「……ありがとう、夢見さん。その気持ちだけでも嬉しいよ」
「……高橋さん。目を、閉じてください」
叶は車椅子を止め、ストッパーをかける。
「……? あぁ、いいが。なにか付いたか?」
高橋さんが目を閉じる。
そして、叶はそっと手をかざした。
「目を開けてください。機長」
「……機長……?」
叶にそう呼ばれた高橋は、ゆっくりと目を開けた。
――そこは、離陸前の飛行機の操縦席だった。
「……なっ、なんだ……これは」
「機長。時間ですよ」
高橋の横には、副操縦士の服装をした叶がいた。
「……あ、あぁ。時間か……それじゃあ、出発しよう」
自分の機長の服装を確認したあと、操縦桿に手をかける。
その瞬間、手が自然に動いた。
忘れていたはずの操作、感触、感覚。
覚えていなくても、体が覚えていた。
「……T-102、離陸します」
高橋は、しっかりと無線を入れた。
「OK、グッドラック」
無線の向こうから、懐かしい音質の声が返ってくる。
飛行機はエンジンを回し、ゆっくりと滑走路を走り出す。
そして――空へ。
「機長、挨拶。忘れてますよ?」
副操縦士の叶が、マイクを軽く叩いた。
「あ、あぁ。すまない。えー、当機をご利用の皆様――」
アナウンスを終えると、自動操縦に切り替える。
「……あぁ、覚えている。懐かしい」
ぽつりと呟いた、その時。
「高橋、何をブツブツ言ってんだ?」
隣から、男の声が聞こえた。
「……!! 木梨!! お前、何して――」
「……はぁ? 何してって、そりゃ仕事だろ」
木梨と呼ばれた男は、呆れたようにため息をついた。
「……木梨……あぁ、まだ生きてたんだ」
高橋は、噛みしめるように彼を見つめる。
「なんだお前っ、気持ちわりぃな! 勝手に殺すなよ! 俺はお前の相棒だろ? 死なねぇよ!」
「いやいや、そうだったな。ははっ……えっ」
木梨にツッコまれ、ふと前を見る。
ガラスに映る自分の姿に、高橋は息を呑んだ。
そこにいたのは、若かりし頃の自分だった。
「……あぁ、そうか。これは、夢だ」
「おーい高橋、ブツブツ言うなよ。あれ見ろよ。デケェのが近づいてるぜ」
「……あれは」
視線を前に戻す。
そこには、大きな積乱雲が立ちはだかっていた。
「……よし、木梨。上昇して突破するぞ。アナウンスを頼む」
「了解、機長。こっちは任せな」
「……ははっ。久しぶりで腕がなるわ!」
高橋は心底楽しそうに操縦桿を握った。
積乱雲を抜け、無事に空港へと近づく。
「T-102、着陸します」
「おかえりなさい」
無線の声が、優しく返ってきた。
相棒の木梨とともに、機体は滑走路へ降り立つ。
――安全に到着した。
「お疲れ! 高橋! 今夜は飲みに行こうぜ!」
「ああ! もちろんだ! ぱーっと飲もう! 黒川と西村も呼ぼう!」
「いいねぇ! 決まりだ! いい店予約しとくわ!」
楽しそうに笑う木梨を見て、高橋も微笑む。
「……あ? おーい高橋〜? 高橋! おー……い……」
「……さん。……橋さん。高橋さんっ」
「おはようございます、高橋さん」
木梨の声が遠のくのと同時に、叶の声が聞こえてきた。
「……ん、んん? あぁ、寝てたんか。すまん。太陽が気持ちよくて」
目を開けると、そこはいつもの散歩の帰り道。
車椅子は施設の前に止まっていた。
「……いい夢、見れましたか?」
「……あぁ。すごく懐かしくて、楽しかったよ」
「ふふ。それは良かったです」
「……ありがとう、夢見さん」
「いえいえ、私は何もしてませんよ〜。さあ、お昼ご飯の時間になりますよ。急ぎましょう!」
叶は車椅子を押し、施設の中へと入っていった。
「そんでな! すんごい懐かしい夢を見たんじゃ! 夢見さんのおかげじゃ!」
おやつの時間、高橋さんは楽しそうに語っていた。
「夢見さん! あたしも思い出したい夢があってね!」
「ちょっと抜け駆けしないでちょうだい!」
「あんたこそよ!」
叶のもとに、次々と人が集まってくる。
「わっ、待ってください! そんな急に来られても〜っ!!」
夢見 叶。
夢を見せ、叶える物語。
――完。