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「ついにお付き合いなされたのですね、メリッサ様!! ああ、なんて素晴らしい……まさに運命ですわ!」
昨日の薔薇園での「お姫様抱っこ強制連行事件」から一夜。
私は、王宮のサンルームで聖女マリンに両手をぎゅっと握りしめられ、至近距離から熱烈な視線を浴びていた。
マリンの瞳は、まるで宝石箱をひっくり返したかのようにキラキラと輝いている。
「ま、マリン……声が大きいわ。それに『付き合う』だなんて、そんな……私はただ、その……」
「隠さなくても大丈夫ですよ! レオン様が昨夜、それはもう幸せそうな、それでいて凄まじい覇気を纏いながらメリッサ様を運んでいく姿、王宮中の噂ですから! 私、感動して一晩中眠れませんでした!」
(……恥っっず!推しに運ばれる姿が全方位に公開処刑されるなんて、聞いてない!)
顔から火が出るどころか、全身が発火して灰になりそうだ。
そもそも、私がマリンと仲良くしたのは、彼女とレオン様をくっつけて
自分への殺意を逸らし、平和に推しを愛でる隠居生活を送るためだったのに。
「私、本当に嬉しいんです! 私の大好きなメリッサ様と、尊敬するレオン様が結ばれるなんて!」
「マリン…」
「ねえ、メリッサ様?これからは毎日、お二人の馴れ初めを……いえ、昨夜の『続き』がどうなったか詳しくお聞きしてもいいですか?」
「毎日!? しかも続きって、何もないわよ、何にも! 」
「というかマリン、あなたにはもっと他に……素敵な王子様とか、探すべきお相手がいるでしょ!?」
必死に話題を逸らそうとするが、マリンはふわふわとした笑顔のまま、私の腕に「えいっ」と抱きついてきた。
「あら、私にとってメリッサ様以上の『素敵』なんてこの世にありませんもの!もしレオン様がお留守のときは、私がメリッサ様を独占してもいいですよね?」
守るべき、儚いヒロインだったはずのマリン。
それが今や、私の周りの誰よりもバイタリティに溢れた「メリッサ強火オタク」に進化している。
(私の周囲、どうしてこう極端な性格の人しかいないの!?)
と、そのとき
背後から空気を凍りつかせるほど冷ややかで、けれど心臓を震わせるほど甘い声が降ってきた。
「……マリン様。あまり僕のメリッサに触れすぎないでいただけますか?僕の我慢にも限界がある」
振り返るまでもない。
私の腰を、当然のような所有権を主張して抱き寄せたのは、近衛騎士の制服を寸分の狂いもなく着こなしたレオン様だ。
「レ、レオン様! お仕事は……!? 訓練の時間じゃ……」
「今、休憩に入りました。貴女の顔を見ないと、集中できなくなりそうなほど、飢えていましたので」
(物騒なこと言わないで! 推しの口から出る言葉が全部重すぎる!)
レオン様はマリンを鋭い眼光で軽く牽制すると、私を自分の胸元へと引き寄せた。
そして、大勢の侍女や騎士たちが見守るサンルームのど真ん中だというのに
私のこめかみに深く、吸い付くような熱いキスを落とした。
「ちょっ……! やめてくださいっ……みんな見て……っ!」
「嫌ですか? 昨夜、あんなに熱く僕の名前を呼んで、僕の腕の中で蕩けていたのに」
「ひゃぅっ! そ、それを今ここで言わないでっ!!」
耳元で囁かれる、昨夜の密事。
彼の低いバリトンボイスが鼓膜を震わせるたびに
昨夜の、あの指先から唇まで奪い尽くされた感触が蘇り、私の心臓はオーバーヒート寸前だ。
「あらあら、お熱いことですわ!でもでもレオン様、メリッサ様をあまりいじめないであげてくださいね? 」
「泣き顔も可愛らしいですが、彼女の笑顔は私の宝物なんですから」
「分かっています、マリン様。彼女の涙を拭うのは、僕だけの特権ですから」
(……誰か、私を助けて────!)
右からは、純粋な愛と興奮で迫ってくる聖女マリン。
左からは、逃がす気など毛頭ない、独占欲の塊と化した近衛騎士レオン様。
本来なら、物語のヒロインとヒーローとして結ばれるはずだった二人に
左右から挟まれて愛でられ、奪い合われる悪役令嬢の私
ゲームのシナリオは粉々に砕け散り、私の人生は
「推しからの過剰なまでの溺愛ルート」という、公式ガイドブックのどこをめくっても載っていない
未踏の領域へと、フルスピードで突っ走っていた。
「メリッサ、午後の公務が終わったら、今度は僕の部屋でゆっくりと語り合いましょう。……明日の朝まで、帰しませんが」
「いいえ!メリッサ様、次のお茶会では私が手作りのお菓子を…!」
「だから、心の準備が……1ミリもできてないって言ってるでしょぉぉぉぉ!」
私の叫びは、二人の深すぎる愛の言葉にかき消され
今日も王宮の青空に虚しく、けれど幸せそうに響き渡るだけだった。
───こうして、私の「全力逃走劇」は
世界で一番甘くて重い「執着溺愛ルート」という名のハッピーエンドへと、強制的に書き換えられていったのであった。