「ウィルー!」
ある少女が僕の名前を呼びながら駆け寄ってくる。
僕には昔よく遊んでくれた女の子がいた。
僕は水辺や野原を駆け回って笑顔が絶えなかった。
2人を繋ぐ手はきっと未来でも離れる事はないのだろうと勝手に思っていた。
勿論幸せの終わりはやってくる。
彼女はある日から忽然と姿を見せなくなった。
噂では魔女に連れ去られたのだと言われていた。
魔女は強い「悲しみ」「怒り」「孤独」「絶望」などの負の感情が、体の中を巡っていくと、心“ひび”が入る。
そして、そのひびが深くなりすぎると 「魔女化」が始まる。
魔女化は体が変貌し、ツノや手が竜のツメの様になるなど人それぞれだ。
「魔女化」は15歳までの少女に現れる。片目は色を失い、永遠を生きてしまう。
魔女は人に危害を加える者として殺される。
陽の光が似合う彼女は波の泡沫の様に溶けて消えていってしまった。
生まれた時から聞いているハイエンツ教会の鐘の音は、そんな僕の記憶を飛ばす様に風と共に鳴り響く。
昔の記憶が薄まるのと引き換えに僕は何事もない穏やかな日を過ごしていった。
月日が経つうちにもう僕は16歳になっていた。
歩道を歩いていると、綺麗な白髪の少女が見えた。過去の少女も白髪だった。
少し戸惑いながらも、その背中に近づく。
「あの……」
振り替えった女性はとてもあの少女に似ていたが何処となく雰囲気が違った。
多分ここら辺の学校に通っている女子学生だろう。ここらで有名な制服を着ていた。
僕は聞いてしまった。
「7年くらい前に魔女に連れ去られた少女知りませんか?」
目の前の女性は目を開いて僕の肩を勢いよく掴んだ。
「え?あ!あの子を知ってるの!?」
「ええっと…はい」
僕は焦り、目がグルグル泳いだ。
「あすみません。つい…」
女性は手をどけ、我に返った。
「魔女に連れ去られた子は私の妹なんです。」
僕は女性を見つめた。情報が手に入るかもしれないと思った。
「ええっと、その…ここで話すのもアレですしあそこのカフェで話しません?」
女性はカフェを指差した。
「私…お母さんに気に入られててですね…えっと、あの子は私よりも頭も悪かったしお母さんから見放されてたんですよ。
それであの子毎日外に行ってて夜遅くに帰ってきてお母さんに叩かれてたんです。
それが毎日続いて…あの子外出て行ったっきり戻って来なくて……」
「貴方は助けなかったんですか?」
「あっ私はプリマヴェーラと言います。」
「…プリマヴェーラさんは助けなかったんですか?」
「はい。でも、あの子もお母さんに気に入られればよかったんですけどね…本当に可哀想です。」
「なんで“あの子”って言うんですか?」
「え…………?」
「もしかして名前知らないんですか?よくもまぁそれで姉だなんて名乗れますね。」
僕も彼女の名前を覚えていないので人の事は言えなかった。
「あっ、そんなつもり無くて…」
「宜しければ母にも話聞いてみます…?もしかしたら力になれるかも…!」
この女は懲りない様だ。
まあ一応話しておいて損はないだろうと首を縦に振った。
「ここです!」
彼女は大きな家の扉をノックした。
流石、有名な制服を着ていただけある。
「あらプリマヴェーラ、おかえりなさい」
「ただいま。お母さん!」
「そちらの方は…?」
「さっき会った人だよ!あの子について聞きたい事があるみたいなの。」
「私にはこの娘1人しか居ませんよ…?」
は…………?
「あの子は私達の娘だと思った事なんてありませんよ。厄介者がいなくなって制裁するわ。」
この人は何を言っているのだろう。
ずっと母の愛情を受けたかったはずなのに、コイツらの勝手な考えで苦しんでいたなんて考えると余計に苛立ってくる。
「もう結構です。ありがとうございました。」
僕は振り返る事なく道を進んだ。
next 10♡
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