テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ごめんな?___
「………」
彼から送られてきた5文字の連絡。 なんて答えて、送ればいいのか分からない俺は、既読だけをつけてスマホをポッケに入れた。
今は12月31日、23時過ぎ
俺も含め、世間は皆んなして年越しを迎える。大切な家族や恋人と迎える人や、親友や仕事友達と酒を囲みながら時間を忘れて楽しむ人だっている。
そんな中、俺みたいな孤独に越す人だっている。
「……いるま…」
無意識に大好きな恋人の名前を呟いた。
年末、年越しはいるまから2人で過ごそうとクリスマスから計画していた。
2人で顔を寄せ合い、1つのスマホを見ながら、見たい映画や食べたいものも決め、年を越したら幸せな時間を過ごそうと、お互い顔を赤らめながら約束をしたのも覚えてる。
クリスマスも2人で過ごしたが、仕事の忙しさもあって、食事に行ってプレゼントを交換し合ったくらいで。
『この日の為に、俺仕事全部終わらせたからさ』
そう言ってくれたいるまの顔も思い出せる。
そんな嬉しそうに笑う彼の為に、できるものなら手料理を振る舞わせようと自分でサプライズを決めては、彼のいない時にスマホで調べたりもしていた。
でも、そんな楽しみな年越しを迎えようとした一昨日。いるまの 仕事先の同僚が、書類や契約ミスをしてしまった。
上司や他の同僚に頼っても、皆んなして予定を入れてしまって、怒られたり無視されたらしく、いるまにヘルプを頼まれてしまった。
部屋の空いていた扉から覗いてみれば、お願いされては、明後日の俺との約束を守る為にも断ってくれていた。
だが通話時間が長く、きっと同僚の人もこればかりは身を引けないのだろう。通話中の彼の顔は、冷静だけどほんの少し怒りを混じっていた。
そんな仕事でも頼られるこんなにかっこいい恋人の姿を目にしたからなのか、これで失敗して彼の仕事がなくなってしまったら、と心の中に不安に駆られたのか
『…行って、きなよッ…』
俺は言ってしまった。
そんな俺の言葉に、通話中のいるまは目を見開いてこちらを見ていた。
『お前ッ、何言ってッ…、!!』
『っ…俺は、大丈夫だからさッ笑』
不安そうにこちらを見る彼に、俺は口角を上げることしか出来ない。
昔から自分が我慢すればいいと思って耐えて、自分より他人を優先してきた。でも無意識に精神的に追い詰めてる事が多い俺を、いるまは1番知っている。何回もそれで怒られて、喧嘩もしてきた。
通話中なのに、いるまは俺に何かを言おうと口を開こうとする。けれど、吐き出されたのは彼の吐息だけで、心苦しそうに掴むスマホを握りしめた。
そんな冷たい空気に包まれながら、数分はお互い何も言わずつっ立っていた。きっと俺もいるまも、自分の気持ちを曲げたくないんだろう。
せっかくの休みで、大切な人と過ごせる日で、ずっと前から約束していたのに。
泣き出したい気持ちを必死に抑えながら黙っていれば、彼はスマホを耳につけて言った。
『…分かった。行くから、今のうちに終わらせれるもんは頑張って終わらせろ』
そう言うと、俺の耳にも聞こえてくる程の、通話越しの彼の同僚の謝罪と感謝する嬉しそうな声。二言、三言話を交わした後に、彼は通話を切った。
俺を見る目は悲しそうで、申し訳なさそうな暗い顔をしている。かっこ良くて、優しい笑顔をする彼を見たいのに。
俺が、こんな顔をさせてしまったのか。
『…ごめんな、なつ…』
『んなの、今年くらい大丈夫だよ笑』
そう言っても、彼の顔は曇るだけ。すると、俺の元に来て抱きしめてくれた。俺に安心感をくれる体温が、俺の心を締め付けさせる。
『…ね、』
『?』
いるまは俺からの約束は彼は守ってくれる。ご飯の約束も、2人で過ごす日も、LINEの既読も。 そう信じて、俺は顔を上げる。
『…その代わり、早めに帰ってきてな…?』
彼を行かせるには、自分でも分かる情けなくて弱々しい小声。でもいるまは聞き取ってくれたのか、暗く曇った表情から真剣な顔へと変わった。
『分かった。絶対帰る』
そう答えてくれる彼がいるだけで、十分俺は心が満たされていた。苦しいけど、頑張って上げてた口角は自然と嬉しくて笑えるものになっていた。
そんな約束をして、今朝、彼は家を出て行った。
家でテレビを見ながら恋人の帰りを待つ。
最近のテレビは面白い番組が減ったのか、毎年やってるエンタメ番組が終わってしまったからか、どれを見ても面白くないものばかりだった。
彼と決めた映画のCDも、買っておいた食べたいお惣菜も、俺が作った手料理だって用意できている。セルフレジまで急いで行って買ったゴムだってあるし、風呂だって入って身体は綺麗にしてある。
あとは、いるまを待つだけ。
でも、
「もう、間に合わんかな…w」
気づけば23時半。 そんな恋人は今頃、まだ仕事に追われてるのだろう。
俺が住むマンションの両隣のご近所さんは、他の家は、きっと暖かい部屋で、温かいご飯を食べながら、楽しそうに過ごしているんだろう。
恋人が居ない、冷たくて、凍えそうになる程寒いリビングで待ち続けている自分が惨めに感じてくる。
そんな自分が嫌になって、ソファに降ろしてた腰をあげて、適当なジャンパーだけを羽織っては外へと逃げた。
俺は寒がりで、外に出る時はマフラーと手袋を常備しているが今はもう全てが面倒くさくて、これくらいで持ってくるのもおかしくて。
どうせ、きっと、あったって寒いばかり。
リビングに居るよりかはまだマシな寒さだ。
暗くて誰もいない、俺だけが歩いてる住宅街に足を踏みしめて行く。今日は少しだけ雪が降ったのか、踏みしめる度に雪の柔らかい音が耳に入る。
周りを見てみればもう夜が遅いってのに、家のどこもまだ灯りが点いていた。宴を楽しんでる大人達や、 夜遅くまで起きれる特別な日だからか起きてる子供達が居るんだろう。
そんな温かい家庭から孤独を押し付けられる前に、俺は気持ち早足で歩いて逃げた。
約束を破らせた事も、他の人の幸せを考える事も、全てが俺の心も頭もごちゃごちゃにさせる。今は、何も考えたくなかった。
何も考えたくなくて歩いていると、気づけばあまり通らない道へと着いた。
この歳にして迷子になるなんて、馬鹿らしい。そんな自分に乾いた笑いが込み上げてくる。こんな俺を、彼以外に見つけてくれる人なんかいるんだろうか。
すると、視界に小さなベンチが写った。見てみると、滑り台と2つのブランコと、街頭に照らされてる古ぼけた小さいベンチしかない小さな公園だった。 俺は公園に入り、何となくでベンチへ向かった。
少しだけ積もった雪を手で適当に振り払って座る。年季が入ってるのか腰を降ろしただけで、ギシッと古い木の板の音が鳴った。まだ濡れていて尻が冷たいが、街灯の暖かい光 の色が俺の心を癒してくれてる気がする。
「…いる、ま…」
少しずつ寒くなってく身体を抱えながら、彼の名前を呼ぶ。呼んだ時に吐き出された白い息は、暗い夜闇に紛れるように静かに消えていく。
今は23時50分。約束まで残りわずか。
「もう、間に合わんかッ…w」
また乾いた笑いを吐き出しては、ベンチの背もたれに身体を預ける。雪が着いていたけれど、今の俺にはどうでもよかった。
目を閉じて、彼を思い出す。
『年越しまでに絶対仕事終わらせっから、少しの間だけ、我慢してくれん?』
クリスマスの日、2人で食事をした帰りに寄ったイルミネーションを見ながら、約束してくれた時の彼の安心させられた笑顔。それだけの約束でも、俺は仕事も家事も、彼に褒められたくて今まで頑張ってきた。
『なつ、これ美味そうじゃね?』
スマホに写った1枚の写真を指を指しては、俺に見せてくれる無邪気な笑顔。俺も食べてみたくなって調べてみたら想像の5倍の馬鹿高い値段に、2人して口をひくつきながら財布と相談して、結局諦めたんだっけ。
『絶対に、帰ってくるから』
今朝、仕事に行く彼を送り出す時に言ってくれた言葉。何回も聞いた約束を忘れるわけないのに、何回も俺に安心をくれた。俺も今だけ素直になりたくて、仕事に行く前のキスをせがんだら、いるまは驚きながらも嬉しそうに笑っては優しく与えてくれた。
『ぅわ、これめっちゃ美味いっ…!』
仕事終わり、腹を空かせた彼の俺が作った手料理を大きな1口で食べては、美味しそうに頬張る姿を想像する。どれを食べても、美味しいも不味いも関係なく感想をくれる彼が俺は大好きで、夕方だって1人黙々と沢山の品を作ってはサプライズを楽しみにしていた。
「いるま……」
気づけば残り時間1分を切った。
スマホを握る手が強くなる。
もっと、彼に甘えたら、仕事なんか行かせなかったら、俺もいるまもこんな事にはならなかったはずなのに。
「っいる、ま……」
俺に不安を与えないようにずっと笑ってたいるまが、家から出る時の見せてくれなかった少し寂しそうな顔が、玄関の扉の隙間から見えていたから。
「…ッぃるまぁ…」
全部、自業自得だった。
どこからか、賑わう人達の声がする。
3,2,___
あぁ、もう、時間になるな。
瞑る目を強くする。1人寒く寂しい場所で、出てきそうな本音を隠すように、
「ッなつっ___」
時刻は24時。
スマホの画面の日付は1月に変わった。
現実を見たくなくて目を瞑っていた時、上から聞き覚えのある声が聞こえた。思わず、目を開いてしまった。
そこには街灯の逆光で影ができてあまり見えない、俺の後ろに立っているからか顔が反対に見えるけれど、俺が会いたかった人がいた。
「…いるま……」
俺を見下ろす彼の顔は、仕事の疲労で少しやつれていた。ここまで必死に走ってきたのか、口から出る荒く白い息が出ては空に消えていく。
俺が座っていたベンチの背もたれに腕をおっかかりながら荒い呼吸を整えてる姿に、俺はベンチから立ち上がってはそんな彼を見つめていた。幻覚でも見えてるんじゃないかって、思ってしまったから。
「ッ…おかえりっ…」
「はぁッ、…ッただいま…」
返ってくれた返答を耳にして寂しかった気持ちは次第に薄くなり、嬉しさが込上がってくる。 いるまの元へ近づき、額から垂れてる汗を指先で拭ってあげる。
「…風邪ひくぞ?」
「お前に、言われたくねぇわッ…」
いるまが吸っては吐いた息は整ってきて、顔をあげる。巻いていたマフラーを取って、俺の首に2、3回巻いて残った両端を結ぶ。
「…下手やのに、良くやるよな?w 」
「うっせぇなw」
できたリボンはブッ格好だけど、彼の優しい不器用さが伝わってくる。彼の体温が残ってるマフラーに顔を埋めていると、さっきまで笑っていたいるまの顔が曇っていた。
「…ごめん、間に合わんくて…」
「んなのいいよ。お疲れ」
慰めるように優しく声をかけても、いるまはまだ顔がくぐもったままだった。
きっと、俺が朝から寂しい思いをしていたのを、彼はずっと気にしていたんだろう。帰ってきてくれただけでも、俺は十分嬉しいのに。
「でもさ…」
いるまは言葉を続ける前に、俺の頬に手を触れた。マフラーどころか、俺より少し小さくて男らしい手まで温かくて、このまま触れていたかった。
「ッずっと、寂しそうな顔してんじゃん…」
彼の親指が、俺の涙袋をくすぐった。
「ッんな顔、してねぇって…w」
「してる。お前をずっと見てたから分かる」
俺の身体も、心情も、全てバレてるくらい見透かされる。
「我慢すんなって、あれ程言ったのに」
俺らの喧嘩は何時でもこれだった。精神的に追い詰められて、いるまが慰めようと話しかけてくれるのに、俺が八つ当たりをして、傷つけて、泣いてばっかで。
「俺は、お前が大事だから、言ってんの」
そんな時は、お決まりのように彼から言ってくれてるこの言葉。
「だから、今だけは、無理すんな」
「……だ、からッ…」
脳内に出てくる言い訳と理由が出てきては、すぐに消えていく。言ってしまったら、彼を悲しませるものでしかないはずだから。
「ッ俺、はっ……」
いるまにしか溶けれない俺の苦しい心が、聞いてて落ち着く優しい低音と、触れてるとこが温かくなる体温が、自然と俺を溶かしてく。
「ッ…寂しかったぁ…」(ウルッ
いきなり俺の心臓は押しつぶされるように、悲しかった気持ちが吐き出てしまった。
言葉にしたせいか、視界に写っていたいるまの顔がぼやけてく。そんな俺のかっこ悪いとこも、いるまは悲しそうな顔も、馬鹿にするような顔もせず、笑って抱きしめてくれた。
「ッ…俺、ずっと、楽しみにしてた…」
1回吐き出してしまった本音は、次々と自然に口から出てしまう。一緒に、頬に温かいものが流れてくる感覚がして、彼の背中に縋り付くように握りしめ、肩に顔を埋める
それでもいるまは嫌がらず、俺の言葉に耳を傾けていた。
「うん」
「でも、もしッ、仕事失敗しちゃって、いるまが困っちゃったらって、心配になって、」
「うん、」
「俺からッ、行かせたのにッ、ひとりぼっちが、寂しくなっちゃって、」
「うん、うん」
いるまは俺の背中を優しく撫でたり、あやすように優しく叩いてくれている。
「ッでも、仕事、頑張って終わらせて、帰ってくるからっ、準備して待っていよって、」
「うん」
「食べたい物も買ってきて、俺ッ、いるまに、メシ作って、食べてもらいたくてッ、」
「ッ、うんっ…」
「見たい映画も借りて、お風呂も入って、エッチの準備だってしてっ…」
「うんっ」
「でも、帰ってくんの遅くて、またひとりぼっちが寂しくなっちゃってっ…」
「…そっか」
吐き出したいものを全て吐き出した。
いるまは、困ってるんだろうな。
そんな顔を見たくなくて、今の俺の顔も見て欲しくなくて、彼の肩から顔をあげれなかった。俺の背中を撫でていた手は、次に俺の頭に乗っては優しく撫でていた。
「なつ、ごめんな?」
1時間前にLINEで来た謝罪。改めて彼の口から聞くだけで、俺の心臓がまた押しつぶされる。
「ありがとう。めっちゃ嬉しいっ…」
いるまは顔をあげたのか、俺の耳元に彼の吐息と優しい声色が触れた。 俺の頭を撫でながら、また俺の頬に両手を包んで、顔を持ち上げられる。
「ふふっ、そんなかわいー顔すんなよw」
きっと今の俺は泣きそうになってる不細工な顔をしてるはずなのに、彼にとってはどんな俺でも可愛く見えてるんだろう。
「今日一緒にいれなかった分、年末は一緒にいような?」
俺の額に彼の額が触れた。俺より体温が高くて熱くて、風邪になってるのではないかとほんの少しだけ心配しそうになる。それでも、彼の言葉に必死に耳を傾けた。
「俺、今日めっちゃ頑張ったから、年末年始長めに休み入れてもらったんだ」
「ッ、」
「一緒に、飯でも食いながら、借りてきてくれた映画も見て過ごそうな?」
「…っ、うんッ…」
「夜はいっぱいイチャついてさ、 昼に起きて寝ながらゲームでもすっか!」
「一緒に、風呂も入るっ…」
「いいよ?風呂にジュース持ってきてネトフリでも見ような笑」
彼がいれば、楽しい事がどんどんと増えていく。俺の心を少しずつ温めてくれる。
「いるまっ…」
「ん?」
「っ…大好きッ…////」
俺がどんなに小さな愛を伝えても、彼は聴き逃しもしないで、ちゃんと1回で聞き取ってくれる。
「うん、俺も愛してる」
そして、俺の欲しい言葉もくれる。
だから、恥ずかしくて言えなくても、俺は彼にだけは、こうやって愛を伝え続けられるんだ。
さっきまで1人で歩いてた道を、今度は2人で歩いてく。年越しを終えたのかさっきまで灯りが点いていた住宅街は、暗くなって眠りについたとこが多くなっていた。
お互い手袋もしないで素手で繋ぐ。それでも寒くて、いるまのポケットに繋いだままの手を入れて温まった。
「この道、知ってんだね」
「まぁ、たまにこの道で帰ってっからさ」
1番帰り道を知ってる彼に誘導されながら、自宅への道を1歩ずつゆっくり踏みしめて歩いてく。
「家帰ったら飯にする?風呂入る?」
飯はあとは温めて盛りつけをすればできあがるし、風呂も沸かし直して俺も寒い身体を温めたいから2人で入る事もできる。
どちらも恋人と過ごせる2択を彼に聞いてみたが、考える素振りをしてから俺に言った。
「なつは、どっちがいい?」
優しく笑ってそう聞くいるまに俺は戸惑う。
彼から言われたばっかの言葉を思い出す。いるまに甘えてこなかった、我儘も言わずに我慢し続けた俺は、素直に言い放った。
「…いるまが、いいッ…///」
そう言うと、いるまは嬉しそうな笑顔を見せては俺の握る手を引っ張るように帰り道を歩いた。 自分の耳が赤くなってる事に気づきながら寒さのせいにしておく。
寒い夜風に吹かれ凍えた身体を温めたく、急いで家へと帰って行った。
コメント
4件
見てるだけで幸せになれるなんて……この世に生まれてきて良かったぁぁ泣 我慢しすぎちゃう🍍くんとそれを怒ってくれる📢くんめっちゃいい、幸せになってください…
好き
今年もよろしくお願い致します🎍