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中央トレーナーである友人から、担当バの子も一緒に遊びに行きたいということを快諾した所までは良い。良いけれど。なんだか物理的な距離感が近いと思ってしまうのは、友人以外に友達がいないからそう思ってしまうのだろうか。それとも、担当バの子が有名なウマ娘だから無意識に緊張しているのか。
「少々表情が固いように見えますが…やはり、あまり知らないウマ娘と一緒では気まずいでしょうか」
気まずいどころではない。むしろ、興奮と人見知りとテンパりでずっと掛かっている。友人もにこやかに私達を微笑むばかりじゃなくて助けてほしい。私が人見知りだってことを知ってて何故ドリームジャーニーと隣同士、しかも私が真ん中で配置されているんだ。私がドリームジャーニー最推しだってことを知ってるのなら恨む。いや、多分友人のことだから知ってて善意でしてるまであるだろう。
キョドりながらもドリームジャーニーさんに決してドリームジャーニーさんが嫌な訳では無いと話す。ドリームジャーニーさんはほっとした様子で、尻尾を私に巻き付けていた。これは、多少は好かれている証で合っているのかな?だとしたら嬉しいと思いつつ、目的地まで慣れない3人横並びをして歩いていく。
やがて、海風と子供のはしゃぐ声。至る所にさりげなく主張する海洋生物のオブジェが立ち並んで、早く中に入りたい気持ちをぐっと抑える。最も、付き合いが長い友人の前では今更だけど、ドリームジャーニーさんの前では少しでも大人っぽくいたい。
「…ふふ。私もワクワクしてきました。早く見て回りたいですね」
「あ、あそこが入口かな?ネット予約してて助かったね。あんなに行列ができてる」
友人が言っている行列に目を向けると、流石は人気水族館。チケット販売所が見えないところまで行列が続いている。私たちはスマホで予約していたから横目に歩くことができるけど、案外ああやって待つ時間も退屈では無いんだろうな。
QRコードを係員さんに見せて、改札を抜ける。改札を出た先はもう夢のような海の中。眩しくないライトの下には魚たちの影。揺らめく水面の模様も一緒に泳いで、自然と顔が柔らかくなるのを感じる。
色とりどりな群れと、岩陰に隠れる無骨な1匹狼。悠々と気ままに動く自由人。円錐形の道を面白そうに行ったり来たりする大きな海の犬。入った途端からこんなに面白い世界が広がっていて、横にいる二人も同じ光景を前に目を奪われているみたいだった。
そこから熱帯、深海、クラゲ、アシカショーなんかも三人一緒にはしゃぎながら見て回っていった。ドリームジャーニーさんは色々な魚の解説文を読み込んでいたり、友人はそれを見て何かレースに使えそうなことを閃いていたり。私は写真を撮るのが好きだから、そんな二人の様子を隠れて撮って。
いつの間にかもう夕方に近い時間になっている事に気がついたのは、ドリームジャーニーさんだった。もうあらかためぼしいものは楽しんだし、ここで終わりかな。まだ出ていくには寂しいけれど、友人と最推し…ドリームジャーニーさんと一緒に楽しめたのが嬉しかったからこそだろう。だから、柄にもなくまた次に遊べる日を今から楽しみにしている自分がいる。別に次も一緒に遊びに行くなんて確証も約束もないけど、それくらい共にいる時間自体が楽しいと素直に思えた。
「最後にあちらの大きなメイン水槽を眺めてみたいのですが…よろしいでしょうか?」
ドリームジャーニーさんが私と友人へそう提案して、私達は即座に了承した。でも、この水の世界から出る前にもっと余韻を楽しみたいと思う人は多いのか、歩く度に人混みが段々と増えていく。身長が近いドリームジャーニーさんと私は、気を抜いたらすぐに人波に流されていってしまいそうだ。
度々はぐれそうになるのを気合いで人の間を通り抜ける。友人も気を使って私と離れないようにしていてくれるけど、やはり厳しい。あわあわと焦りながらひたすら背後を追うことしかできない。せめて、もう少し人がいなければ──
「良ければ手を繋いでくれますか?この人混みではすぐにはぐれてしまいそうなので」
少し前を行くドリームジャーニーさんから、手を差し伸べられた。少し迷ったけど、このままはぐれるよりかは迷惑をかけないと思いその手を取ることにした。
久しぶりに、友人とだって滅多に繋がないのに。手と手が触れて密着し、互いの熱をはんぶんこにするような感覚も久しく忘れていた。同じくらいの手なのに何故か自分より大きく感じてる。
視線が目の前じゃなく、結ばれた手に。腕、肩、ドリームジャーニーさんの横顔へと移る。もう人混みなんて一切見えない。目に入らない。こうして繋がっているだけで、こんなに歩きやすいなんて。なんだか心臓の鼓動がいつもより大きく聞こえて、全身が少し熱い。こうなっているのはきっと。友人とすらろくに手を繋いだことがなくて、こうした物理的接触に慣れてないからだ。
ドリームジャーニーさんと手を繋いでいて無性にドキドキしていると、この水族館で1番大きくて幻想的な水槽にもうたどり着いてしまっていた。
これは、なるほどこの人混みも納得できる。そう思える程に泡の一つに至るまで綺麗で、落ち着ける空間だ。でも、そんなのより私は。ドリームジャーニーさんの顔の方がよっぽど綺麗で可愛くて。ずっと見つめてしまいたくなる。
たった、手を繋いでくれただけ。そのそれだけが私には何より嬉しかったんだ。自分と触れ合ってくれる。軽い接触すら私には飛び跳ねて嬉しくて幸福なこと。それは他の人からすれば当たり前かもしれないけど、今まで人との関わりが友人以外になかった私からすればどんなに衝撃的なことか。
「ごめんね、ちょっとお手洗いに行ってくるからここで待っててくれないかな?」
危なかった、あのままだったら見つめてしまっていたと自分を恥じながら友人へ返事をする。
あぁ、なんだろう。周りに沢山人がいるのに、未だ手を繋いでいるからか私とドリームジャーニーさんの二人っきりになった感覚になって。またも横にいるドリームジャーニーさんの顔に見惚れてしまう。
この一瞬の時間。ゆっくり流れているようで刹那に消える一時を、スノードームみたいに丸めて閉じ込めてしまいたい。閉じ込めたあとは、時々見返しては1人ではしゃいで。永遠に忘れられない宝物として頭の奥の奥にしまっておくんだ。そう、私を貫いている彗星の目も全て。
きゅっ、と。心臓が跳ねる。ドリームジャーニーさんの、宝石みたいにきらきら眩い目が私と交差し合っていたそれは、つまり。私が惚けながらドリームジャーニーさんの顔を見ていたことがバレているわけで。
「どうかジャーニーと、呼んでくれませんか」
逆上せて上擦った声が微かに漏れる。予想もしていなかった言葉に、頭は白一色に染まる。惚けて冷めやらぬ熱が、身体の内にこもり続けて止まらない。いや、ドリームジャーニーさんが言った言葉を反芻して意味を噛み砕いてゆっくりと飲み込むと同時に、心拍と顔の温度が跳ね上がっていく。
無意識に手に力を入れてしまう。そうなれば、より深く手と手を繋ぐことは必然だった。後悔した時には遅く、ドリームジャーニーさんと心の距離が近くなるような錯覚を覚えた。
魔性の、誘惑の言葉だ。そんなことを言われては、私は。みっともなく、仲良くなれたと舞い上がってどうにかなってしまいそうになる。強い眩暈をぐらりと浴びたかのように鈍くなる脳で、与えられた都合のいい言葉に抱きつきながらゆっくりとその名を口ずさむ。
蚊の鳴く声にだって掻き消される。周りの雑音があるのなら尚更聞こえるはずのないものだった。なのに。私が言い終わった頃合いにはその耳を左右にふんわりと横に倒れていて。
「本当に貴女は…愛らしいお方」
私が力を入れた手に応えるようにしっかり繋がれる。とろけそうな垂れ目で私を見つめながら妖艶に近しい笑みを浮かべ、嬉しそうに微笑んでいた。それも、私と繋いでいる手にジャーニーさんのしっぽを強く巻き付けながら。
結局、その日は解散するまでずっと手を繋いだまま恥ずかしさでどうにかなりそうで、とくんとくんと心臓がうるさかったことを未だに思い返しては赤面している。そして解散間際にジャーニーさんとウマスタ交換をして、友人ぶりに大切な人ができたと喜んだのも今では懐かしい。最近なんて、ちょくちょく二人で遊びに行くようになる程の仲にまでなれたのだ。
そして今、私はずっと前から友達と一緒に楽しみたかった岩盤浴にてジャーニーさんと漫画を読んでいる。大きなタオルを敷いてその上に座り、互いが互いの空間を邪魔せず、かといって遠すぎす近すぎすの距離を保ったまま。時折、体を流れるサラサラした汗が館内着に染みて冷たさに変わる。
普段なら、岩盤浴なんて行かないけど。ジャーニーさんと遊んでる内に色んな所へ行ってみたくなって、つい冒険してしまう。そうなったのは多分、ジャーニーさんが私の知らない私を見せてくれるからだ。ジャーニーさんを通じて、私が本当はやってみたかったこと。行ってみたかった所を教えてくれるから、今日みたいに心の底から楽しんでいられる。
夏の暑さとはまた違う暑さの中に蒸されて、改めてジャーニーさんに心の内で感謝する。私の事を見て、そして教えてくれて共にただ佇んでくれることに。
なんだか、ちょっと気恥ずかしくなってしまった。頬が急激に熱くなって視線が右往左往とする。元からある火照りと合わせて頭がゆっくりと平衡感覚を失っていく。
脳からの電気信号は単純なものしか受け付けなくなって、身体の動きは鈍く。熱さを自ら求めていたはずなのに、その熱さから逃れようと胸のボタンを1個外していた。今いる空気よりも内に秘める体温の方が湿気がある分、ボタンを解放した時の身軽さは、それはもう気持ちいいものだった。
「……あまり煽るのはおやめになられた方が良いですよ」
ジャーニーさんから声を掛けられて、我に返る。周りに人がいることを考えずに胸元をはだけてしまった。思ったよりも出なかった細い声で一言謝ってから、慌ててボタンを元に戻して水を飲んだ。
これは、少し逆上せたかもしれない。先程から周りの雑音やジャーニーさんの顔や声がぼやけたみたいになっている。折角午前中に入ったというのに、自分の体質を恨む。せめてもう少し強い身体だったらもっとジャーニーさんと一緒の空間でいれたのに。
「そろそろレストルームに行きましょう。適度な休憩もしなくては、ね」
そう促されて、手を引かれるがままにレストルームへ歩いてく。は、はと自然に荒くなった息を吐きながら段々と冷気がある方へ進んでいくと、ドーム型のベッドに辿り着いていた。
ジャーニーさんと一緒にベッドの中に入って息を整える。ここに来るまでにだいぶ冷えて治まったけど、ジャーニーさんから見るとそうでは無いらしく、私の右隣に引っ付くように座り、しっぽを私の腰に回して何かそわそわしているように見える。
心配してくれているのだろう。けど、いつも冷静なジャーニーさんのこんな様子を見ていると、まるで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる姉のように思えて。少し甘えてみたくなる。あぁ、そういえばジャーニーさんは妹がいたな。1人成程、と納得してからジャーニーさんの妹──オルフェーヴルさん繋がりで思い出した。
友人は今度からオルフェーヴルさんのトレーナーにもなるらしい。それならば、リフレッシュとお祝いがてら今まさに来ている岩盤浴も良いかもしれない。そこまで考えたところで、ジャーニーさんに聞いてみた。友人がオルフェーヴルさんの担当トレーナーになったお祝いに、ここの岩盤浴はどうだろう、と。
「えぇ。きっと喜んで頂けると思いますよ。トレーナーさんも貴女と同じく、温泉が好きだと話していたので」
やっぱり、ジャーニーさんは友人の話をしている時が一番きらきらしている。相思相愛とは、まさに友人とジャーニーさんの事を言うのだろう。
““友人とジャーニーさんは良いカップル…いや、おしどり夫婦になるんだろうな”“もう、今から目に見えるくらいお似合いなんだから。
「……は?」
人はいつもやらかした後に気付くとはこういう事かもしれない。頭の中で言ったと思った言葉が、そのまま通り抜けて口から発せられていたみたいで。しかも思いっきりジャーニーさんに聞かれていた。恥ずかしい。本当に穴があれば入ってしばらく出たくない。
ごめんなさいと謝りつつ、顔をジャーニーさんから背けたままベッドの奥へ奥へ下がる。どうか、こんな哀れで子どもっぽい大人を許して欲しい。体育座りになり、両手を顔にあてて、ひたすら外界との情報をシャットダウンする。ぐるぐると巡る後悔と自責の念が私を攻撃するけれど、ジャーニーさんを真隣で見るよりかはマシだから。
クッションの摩れる音と、こちらに近づく気配がする。ジャーニーさんの事だから、多分私を慰めようとしてくれているのだろうけど。暫くはジャーニーさんの顔を見れる自信がない。
冷えたはずの体温は急激に高まって、心臓もまたドクドクと煩く鳴いている。ジャーニーさんが私に近づく度に大きくなって、ジャーニーさんが私の身体の右側に辿り着いた。そこで止まるかと思いきや、ジャーニーさんはより奥へ、多分…私の背後に回ったようだ。でも、一体なぜ?わざわざ私の背後に行く意図が掴めない。両手を顔から離して、これから何が起こるのか分からずにただ私は硬直していた。
がちがちに固まった私の背中に、ヒトより熱くてしなやかな手と足、そして身体が触れる。ジャーニーさんの手がするすると這い回る蛇のように私の腹に吸い付き、足はまるで固定するように私の太ももの付け根あたりで足組みをされた。困惑の余りに動こうと思っても、ヒトよりも圧倒的に強いウマ娘の力では勝てず、身動ぎすら取れない。
そんな状況だからか、初めてジャーニーさんのことが怖いと感じた。何も言ってくれない。無言のままで後ろから抱きつかれて、逃げられないようにされているみたいで。
「私が誰を好いているのか。これから徹底的に身に染み込ませますので、どうかお覚悟を」
よりにもよって、一番弱い方の耳元で囁かれて声が出そうになるが必死に耐える。いや、声なんかよりも身体の方が正直で、吐息が耳に触れる度に軽く跳ねてしまう。そんな私を見て、小さく笑うジャーニーさんの声がびりびりとやけに耳に響く。出そうになる変な声は辛うじて我慢できているけど、気を抜けたらすぐに漏れてしまいそう。
「入口以外は覆われているベッドなので見られないとは思いますが…もし声を出してしまったら…流石に怪しまれてしまいますね…?」
あ、そう、だ。ここは、他にも沢山の人が休んでいる場所で。当然、寝ている人だっている。そんな中で私の声を出してしまえば。
それは何としても避けたい。だけど、そもそもジャーニーさんが変な事をしなければと考えて振り向こうとした所で口元がジャーニーさんの素肌が晒された腕で塞がれる。
一応、声は隠すということなのだろうか。それでも、くぐもった声だけでも近くにいる人であったり休む場所を探して歩く人には聞こえてしまうだろう。
一言、やめてと言えばいい。本当に嫌なら態度や行動で示すべきだ。なのに。なぜ私はこんなに期待まみれで涎を飲み込んでいるの?たまたま耳に吐息が当たっただけ。たまたま声が近くで囁かれただけ。たったそれだけの軽い接触なのに。未だ私の神経を麻痺させて犯されていく。
耳が食べられる。小さな舌と、同じく小さな歯で上の方から押しつぶされてゆっくり溶かし食べられる。爆ぜる衝撃を逃す為に暴れることも、声をあげることもできない。
極めて優しく甘噛みされながら、舌で耳の形をなぞられる。それによって勝手に口が開きたがるのを、ジャーニーさんの腕で強引に防がれる事が頭にガンガン響く興奮剤と化していた。確実に、私の脳裏に刻み付けるように甘噛みと舌の刺激を繰り返す。私は、ジャーニーさんから与えられるいっその事痛いくらいの気持ちよさを、がくがくと腰を揺らして翻弄される。口元はもう私自身の涎で濡れていて、そのせいでジャーニーさんの腕も私の涎まみれになっていた。
私の体力と、正気。それに、ドリームジャーニーに勝てないという見るも明らかな事実を突きつけられて、私の中の何かががりがりと削られていくのを感じる。このまますり減るものも何も無くなった後もやられたら、私はもうまともにジャーニーさんのことを見れなくなっちゃう。
ジャーニーさんと心地良い友人としての関係性だったのが、後戻りできない所にまで追い詰められて壊されてしまう。何の理由でジャーニーさんがこんなことをやっているのかは分からないけれど、その関係性が無くなることに確かな喜ぶを覚える私も分からなかった。年下で、私より少しだけ身長が小さい子。そんな可愛い子に、こんな。
とっくに涙目を浮かべながらなぜなぜと意味の無い自問自答を行い続ける私に間髪を入れず、ジャーニーさんの舌がちろちろ小刻みに動きながら段々下に下がっていく。下がるにつれて手足をじたばたと快感に反射して震える私を、ジャーニーさんは吐息で笑い、私の口元にある腕を更に強く押し付ける。 ジャーニーさんの暴力性にくらくらと目眩を起こしながら、ついに耳たぶまで到達されて一際大きな声を出してしまった。
はしたない。と子を叱る親のように、ジャーニーさんは私の肩に歯を立てて軽く噛んできた。もちろん痛いけど、それ以上にぐちゃぐちゃになった体の感覚はそれすらも気持ちよさに変えてしまうようだ。
「いや、マジでさ。さっきの人惜しかったよな。あともうちょっとで見えてたのによぉ」
「お前がガン見するからだろ。さっきの人ワンチャンここらへんじゃね?さっきの顔からするとのぼせてたっぽいし、運良かったらイケるな」
人の声。男の人の声が聞こえる。物音が聞こえているようでいて、聞こえてないぼーっとした脳内の中、ぴたりとジャーニーさんの動きが止まる。
もっと、もっとしてほしい。私をぶっ壊して、完膚無きまでに負かして、分からせて欲しかった。
じゅくじゅくとうねる血管中。汗も涙も涎も全てジャーニーさんに垂れ流している。何かが近づいてきていて、早く何とかしなきゃと感じるけど、そこで止まって堂々巡りをしていた。
足音がすぐそこまできている。全身がジャーニーさんに捕まえられて、終わりと背徳感に塗れた使えない脳がなけなしの最後の理性を発揮する。どうしよう。早く、早く何とか誤魔化さなければ。
突如、視界が回った。
「お、いたいた。俺らと遊ぼーよ、奢るからさ!」
「そこのウマ娘ちゃんもどう?…あれ、このウマ娘って」
気が付くと、私はジャーニーさんに膝枕をされているような体勢になっていて。視界はジャーニーさんの両手で塞がれていた。
「てか、膝枕されてる君やばいね。汗は分かるけどなんで涎と涙あんの?めっちゃウケるんだけど」
先程まであったなけなしの理性はもうすっかり出し切ったらしく、今はジャーニーさんに膝枕をされていることに悦びを得ていた。目がジャーニーさんの手で抑えられて何も見えないのも、更に煽る。
「あぁ…あの方が暑くてのぼせてしまい、ぼぅっとしていた時に涎が垂れてしまったんですよ。涙の方は…到底言えませんね。乙女の涙は言いふらせれないでしょう?」
ジャーニーさんにしては刺がある、何となく圧のようなものを感じさせる声色。喉が鳴る。その声を私にも向けて欲しい。見下ろされて、優しく怖く言葉を投げかけられたら、それはどんなにゾクゾクするものだろうか。
一度完全に火がついて焦らされたら、膨らんだ欲望は際限なく肥大化していく。もう男の人が近くにいることすら無視して、ジャーニーさんにせがみたくて堪らなかったけど。ジャーニーさんに抑えられている以上、動くことはできなかった。
酷い風邪をひいてしまった時みたいに、頭がぼーっとする。泡沫みたいに浮かぶあれやこれやが、直ぐにパチンと弾けて訳が分からなくなってる。耳の裏でごうごうと唸る血流が、胸の奥で蠢くもどかしさが。私の意識を刈り取って乗っ取られていくような。
「おや…少し汗をかき過ぎましたね。行きましょう。ここにはコバエが集まりやすいようだ」
ジャーニーさんに、ジャーニーさんの言うがままに従う。もはや私自身の電気回路は意味をなさず、全ては目の前にいる小さなウマ娘に首ったけ。それが、とても心地よい。だからしょうがないこと。手を繋がれて、岩盤浴を抜ける。抜けたら少し歩いて脱衣所。全てをジャーニーさんに操られながらお世話される。服を脱ぐのも、体や髪を洗うのも、すべて。ぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、未だ理性は戻らず、されど正気のまま狂気のふちに立っているよう。
お風呂を出た先も、獣の乱れた息によく似た息遣いでジャーニーさんについていった。気がする。そこから先はよく覚えていない。何とか朧気ながら思い出せるのは、恐らくジャーニーさんと一緒にお風呂を入ったということ。それも、私自身の幻覚なのかどうか疑い7割だ。
しっかり記憶に染み込まれているのはレストルームでのことと、私の内に抱いてはいけない感情を持ってしまったことだけ。
「姉上、此度の逢瀬は…ふっ、まずは捕らえたか」
「あぁ…私とオルで思う存分可愛がれる日もそう遠くないと思うよ」