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放課後、君の音に触れる

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放課後、君の音に触れる

4 - 第4話 最初のノイズ

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2025年06月15日

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遼と陽斗の放課後は、誰にも知られない静かな時間だった。

「……じゃあさ、今度の土曜、ピアノ見に行かね?」


陽斗がそう言ったのは、何でもないような帰り道だった。


「え?」


「楽器屋。街にでかいのあるって聞いて。さすがに俺には弾けねーけど、お前が触るとこ見てみたい。」


遼は驚きつつも、小さく頷いた。


「……行ってみる。」


その瞬間、陽斗は自分の心が跳ねるのを感じた。

友達でも、クラスメイトでもなく。もっと特別な感情が、自分の中に育っていることに気づきはじめていた。



週末。

楽器店の店内で、遼は真新しいグランドピアノの前に立っていた。


周囲のざわめきの中、鍵盤に触れた遼の音は、柔らかく空気を震わせた。


陽斗はその横顔を、ただじっと見つめていた。


(……なんで、こんなに惹かれるんだろう)


まるで世界に自分と遼しかいないような錯覚——


そのとき。


「……遼?」


声のした方を見ると、遼がはっとしたように顔を上げた。そこに立っていたのは、彼の名前を呼んだ女子生徒。

どこか洗練された雰囲気の、同年代より少し大人びたその子は、陽斗に軽く会釈をすると、遼に向き直った。


「久しぶり。……まだピアノ、続けてたんだ。」


遼の表情から、あっという間に温度が消える。


「……なんでここに?」


「たまたま。音でわかったの。あなただって、弾き方変わってないもの。」


陽斗はそのやり取りに割り込むことができず、ただ静かに見ていた。

遼の様子が、明らかにいつもと違っていた。


彼の笑わない目。閉ざされた口元。

その隣にいるはずの自分が、急に遠く感じた。



帰り道。


「……あの子、誰?」


陽斗がようやく尋ねたとき、遼はしばらく沈黙してから答えた。


「……昔、一緒にピアノをやってた。演奏のペアだった。」


「元カノ?」


「違う。ただ……少し、特別だった。」


その言葉に、胸の奥がずきりと痛んだ。


初めて感じる、焦りにも似た感情。

そして、口にすることができなかった想いが、陽斗の胸に残り続けていた。


(俺は……遼にとって、特別になれてるのか?)


陽斗はまだ知らない。

その「ノイズ」が、ふたりの関係にどんな影響を与えるのかを。


夕方のバス停で、陽斗と遼は並んで立っていた。

けれど、楽器店での和やかさは、もうそこにはなかった。


「……あの子、何か言ってた?」


陽斗の問いに、遼は小さく首を振った。


「ただ、“変わったね”って。それだけ。」


「変わった……?」


「昔の俺は、感情なんて音に出さなかったって。」


遼は遠くを見るようにして、ぽつりと続けた。


「その頃の俺は、“上手い”ことがすべてだった。誰より正確で、誰より音が綺麗なら、それでいいと思ってた。」


「今は違うの?」


「……陽斗といると、そうじゃない音が出る。」


バスのライトが近づき、ふたりを照らした。


遼は、光に目を細めながらぽつりと呟く。


「それが、怖いんだ。自分が変わっていくのが。」


陽斗はその言葉に、答えを返せなかった。


ふたりは並んでバスに乗り込んだ。座席に座っても、言葉はなかった。


陽斗の心の奥には、どうしようもない感情が渦巻いていた。


(“俺が変えた”って言ってくれたのに……なんで、他の誰かのことを、そんな風に話すんだよ)


心がざわめいていた。

これまで感じたことのない、焼けるような感情。

それが「嫉妬」だと、陽斗はまだ気づいていなかった。



翌日、学校。

音楽室に遼は来なかった。


それでも、陽斗は一人で音楽室へ向かった。

ドアを開けると、静けさだけがそこにあった。


ピアノの蓋は閉じられたまま。誰の音も残っていなかった。


陽斗は、窓際のいつもの椅子に腰を下ろすと、ポケットからスマホを取り出し、メッセージを打ちかけて……やめた。


(……俺って、なんなんだろう)


友達? それとも、それ以上?


陽斗はまだ、その境界線を越えることができずにいた。



音楽室の静けさの中で、ふたりの関係はそっと揺れていた。

まるで、次の旋律を探しているかのように——


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