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帝国歴 二百八年 五月 九日
私は、決まった時間に目が覚め、部屋を出て、低い料理スキルを使って作ったパンを一切れ食べると、宿屋を出た。
この日は、行きつけの鍛冶屋に剣の修理を依頼しに行くのだ。
エレジオは、スタート地点の街ということもあり、かなりの広さを誇る。大きく北区と南区の二つに分けられており、北区は住宅や貴族の施設が立ち並んでいる。南区は、商業施設が多くあり、主な買い物等は南区にお世話になっている。私が行きつけの鍛冶屋ももちろん南区にある。
これから向かうのは『桜ノ園』という名前の鍛冶屋だ。店主の名前は、春乃 シーナ。
偶然にも、元の世界では同じクラスにいた子なのだ。この世界にやって来て、リアルでゲームをやっていた時と同じ《鍛治職》に就いたらしい。
この世界、元のゲームと同じでプレイヤーが就ける《職》は沢山ある。
どれに就くかは個人の自由で、《職》も極めると、《マスタークラス》になり、そこまでいくと、色んな恩恵を得ることができ便利になるらしい。
三ヶ月前、半壊した剣を直そうとたまたま立ち寄った鍛冶屋がこの『桜ノ園』でそれからは、かなりの頻度でお世話になっている。ちなみに今、私の使っている剣《黒鉄の剣+8》も店主であるシーナが作ってくれたものなのだ。ただ、オーダーメイドの武器を扱うと、この店主ぼったくって来るから、結構めんどくさい。
入口のノブをひねり、ドアを開けると、
「やっほー、シーナ。修理お願い」
と、元気よく入店した。
目の前にいるのは、少し小柄な黒髪ロングの少女だ。今、絶賛棚卸し中である。
後ろを向いたまま、軽い挨拶をしてきた。
「ああ、いらっしゃい。また、壊したの?今月四回目なんだけど、早過ぎない。どんだけ、剣使いが荒いのよ」
「まぁ、剣への愛が強いんだろうね!」
「強かったら、そんなにボロボロにならないっての」
「んー、そんな事より。修理よろしく!」
「別にそんなことじゃないよ!修理は、しとくよ。で、最近どうなの」
「何が?」
「ギルドの依頼よ、収入源の状況はどうなってるのかなって」
「うーん、あんまり良くはないかなぁ」
そう言いながら、背中に背負ってる鞘を取り、カウンターに置いた。
シーナは、それを手に取り、刀身を少し抜いた。刀身には、細かな傷が幾つも付いており、刃こぼれもかなりのものだった。それを見た彼女の表情はムッとしている。
「で、何と戦ったらこうなるのよ」
「いや〜、その辺の中BOSSクラスですけど〜」
私は適当な事を言い、誤魔化そうとした。
「滴のことだから、絶対にスライムとかミニゴーレムでしょ。この辺にそんな大層なMOBは居ないでしょ」
「バレたか、、、」
「まぁ、いいけどね。こっちもお金が貰えればそれでいいし。じゃあ、直しておくから、ギルド行って依頼でも確認してきたら?小一時間それで、潰せるでしょ」
そう言うと、シーナはスタスタと作業場へと歩いていった。
「そうだね。じゃあ、よろしくね」
そう言い残し、私はその場を後にした。
私は冒険者ギルドに着くと、掲示板へと向かった。掲示板には、ほんの五枚程度しか貼っておらず、とてもしけた状況になっている。
ここは、割と安全地帯なので、雑魚MOB討伐の依頼がほとんど。しかも、一日に数件しかないことから、ほんとに稼ぎが良くない。宿代、食費、剣の修理費諸々で、大体三千ユピルくらい。そして、一日に稼げる私の最高金額が、三千五百ユピルなのだ。ほんとにカツカツで困っている。
「なんか、いい依頼ないかなぁ。そうだ、受付カウンターで聞いてみるとしますか」
そう思い受付カウンターの方へと歩いていくと、ちょうど暇そうにしている受付の人がカウンターでウトウトしていた。
「あの、依頼を受けに来たんですけど」
「あ、ひゃい!そ、そうですねぇ、今出てるものですと、一番高くて、五万ユピルの依頼とかありますよ」
ちょっと動じている。いきなりの来客に少しビビっているのだろうか。でも、ウトウトしていたのもあるのだろうか。でも、そんな事より報酬額がとんでもない事になっている。
「ご、五万!?なんで、そんなに高いんですか」
受付の人はちょっと困った顔で、
「近頃この辺に来ている剣士さんが、力試しに付き合ってくれたら、払うって言っているんですよ」
「それはまぁ、相当な自信家ですね。剣道でもしてた人なのかな」
「さぁ、それは分かりませんがレベルも実力もかなり高い人だと思われます。おそらく、滴さんと互角以上の実力者なのは間違いないですね」
それは、結構強いね。レベル18の私と互角と言うと、この周辺では、一位二位を争う仲になりそうだ。あとは、装備、スキル、その辺で勝ち負けは変わりそうだけど、、、。
私は、ある程度のスキルは分かるけど、EXスキルが絡んでくると、厄介だなぁ。EXスキルは解放条件が複雑で入手している人が極端に少ないから、元のゲームでも持っている人が少ない事で有名だったからね。とはいえ、これから街を出る機会が多くなると、数え切れないくらい格上と戦うんだ。ここらで自分の実力を確かめておくのも大事だよね。
「じゃあ私、その依頼受けます」
「え!?こ、コホン。分かりました。では、手続きは、こちらでしておきますので、その方は、ちょうどギルドの食事スペースにいらっしゃるので、お会いになってみてください。」
「分かりました」
「くれぐれも無茶しないでくださいよ?今この街は高レベルの人が少ないんですから、これで戦闘不信なんかになられたら困りますよ」
「私への信頼感ゼロなの!もうちょい期待してくれてもよくない!?」
私は、少し膨れながらその場を去った。
その足で、私は依頼主に会いに行った。一体どんな人なんだろう。怖い人だったらどうしよう。とはいえ、さっき受付の人にあんな風に言った手前、あんまり怯えても居られない。そんな風に考えているうちに冒険者ギルドの食事スペースに着いた。指定された場所へと行くと、そこには一人の女の子がいた。恐る恐る話しかけてみる。
「あ、あのー失礼します」
すると、すぐに返しが来た。
「あなたが依頼を受けてくれた人?」
そこにいたのは、桃色のポニーテール、蒼の瞳、腰には刀をこさえた私と同じくらいの歳の女の子だった。しかし、どこかで見たことがあるような気がした。気のせいだろうか。
「あ、はい。そうです」
「ありがとう、この辺には私と戦えるレベルの剣士がいなくて困ってたのよ」
そりゃあ、ここが初級冒険者の街だからだよ。
「私は、自分の力試しというか、そろそろ街を出たいから、自分の技力を測ろうかなって、受けました」
「そうなの、よろしくね。私は、愛川 百合明よ」
「雨草 滴です。こちらこそよろしく」
挨拶をすると、私達は握手を交わした。
そして、ようやく既視感の正体に気がついた。この子は、元の世界で、私が通ってた学校のNo.2。《神速の貴女》の異名を持つ、剣道部のエース、愛川 百合明。
これは、とんでもない子を相手にすることになってしまった。私はただのゲームオタク。剣道の授業を受けたことはあるけど、それほど上手くも無かった。
私の剣術で、この子に勝てるのだろうか、そんな風に不安になっていても勝てるものもなてないのだけどね、 やるしかないか。
話を終えた私と百合明さんは一度私が剣を取りに戻るために鍛冶屋桜ノ園へと向かった。
「戻ったよー、シーナ」
私の声を聞いて、奥の作業場から、シーナがトコトコと姿を現した。
「おかえりーって、うぇっ!?滴、その人って」
「そう、有名人よ、、、」
「別に、私は有名人ではないぞ?」
そう言われても、あなた以外からすると、相当な有名人です。なんせ、いつも成績は、学年トップ、剣道じゃ全国大会に出て二回優勝してるし。元の世界じゃ、うちの学生で知らない人は居ないってくらい有名よ。
「何があったかは知らないけど、ほら。剣は修理終わってるよ」
そう言われ、私は剣を受け取った。
「ありがとう、シーナ」
修理費をそのまま手渡した。
シーナが、不思議そうに百合明さんの腰にこさえた刀をジーッと見た。
「百合明さんは、刀使いなんだね。私、この世界に来て、初めて見たよ。刀」
百合明さんは、左腰に刺さっている刀に手を乗っけた。
「この刀の名は《アメノウズメ》。私がこの世界に来て、一番最初に倒したBOSSモンスターからドロップした刀だ」
シーナは、少し焦った表情をしている。そして私の方へこっちへこいというサインを送った。そんなに凄い事なのか?
「滴、百合明さんはただ者じゃないのが再確認出来たよ、、、」
「え?どういうこと?」
「《アメノウズメ》は、この世界に存在する刀の中で上から数えて三つ目に強い刀だよ。暫定だけど、いわゆる魔刀。超強力な武器だよ」
えぇー!そんなぁ、、、。
ちょっと泣けてくる、、、。
そんなの、相手にできるわけないでしょうが!私の剣は、オーダーメイドの剣だけど、言ってしまえば、その辺で手に入る素材使ってるだけだからなぁ。
普通に考えて、勝つのは無理だ。でも、それでも勝機を見出すのが私の戦い方だ。元のゲームではそうやって戦ってた。今は、、、チキン戦法しかしてないのはあるけど。
私達は、決闘エリアに来た。
ここは、私達がいくら戦いあおうとHPが残り一割になると、戦闘が強制終了する場所なのだ。なので、稀にここで決闘をする人がいるとかいないとか。
決闘のルールは、二種類。『五割決着』『初撃決着』『一割決着』の三つだ。
今回は、百合明さんの希望でHPが一割になるまで戦うことになった。
今は、決闘前の準備時間、装備の手入れをしている。
私のステータスは、こんな感じだ。
「雨草滴」・・・レベル18《剣士》
《スキル》・〈ライジングストライク〉〈花火〉〈火影〉〈スラッシュ〉〈サンダーアロー〉〈身体強化Ⅰ〉〈攻撃強化Ⅰ〉〈魔法防御Ⅰ〉〈毒耐性Ⅰ〉〈麻痺耐性Ⅰ〉
《武器》・〈黒鉄の剣+9.3〉
正直、これで勝てるか不安だ。スキルも今取れる一番弱いものばかりで、武器は強化してもらったけど魔刀相手にどれだけ通じるかは分からない。あとは、自分の腕を信じるしかない。今まで培ってきた元のゲームでの対人戦の経験もね。
この世界で、チート系主人公になろうとしていた頃の私が懐かしい。三日で心が折れて、街から出れなかった。最前線からは遠く離れて今もこの初級冒険者の中で埋もれている。
それでも元ゲーマーの意地が私にはある。ここで負けられない、勝って私はこの先へ進むんだ。