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世間ではある意味特別だが本人にとってはいつもと全く変わらない時間として過ごした次の朝、クリスマスシーズンの休暇として新年の6日までクリニックを休診していたウーヴェは、ひとつの事件が大詰めを迎える為にクリスマス前から帰って来ていない恋人からの連絡を待っていた。
毎年のことだが、過去の事情からウーヴェはクリスマスを祝うこともなければ自らの誕生日を祝うこともなかった。
だから24日に誕生を祝うパーティをすることもなければ、翌日の25日にクリスマスのパーティをする予定もなかった。
ただ自らの為には何もしなくても、自分が生を受けた日から四年後の同じ日に生を受けた恋人の為には何かしら祝いをしたかった。
自分は受け取らないが相手には受け取って欲しい、そのウーヴェの思いを裏返せばリオンのそれとなり、毎年このシーズンが来ると二人の間に目には見えない静かな火花が散るのだ。
そんな恋人の為に今年はノルディック柄のざっくりとしたセーターとイヤーフラップがついた帽子を用意したのだが、そのプレゼントは当人が帰ってこなかったために当日に手渡すことが出来ないまま、ベッドルームのクローゼットの中で出番を待っていた。
仕事を優先する恋人のその姿勢にウーヴェは特に口を挟むつもりは無かったが、連日連夜泊まり込みで仕事に打ち込む姿に無理をしているのではないかという懸念をいつも抱いてはいた。
だが、たとえウーヴェがどれ程その身を案じようが刑事として働く男を止められるはずもない為、己に出来ることは疲れて戻ってくればその身体を抱き締め、心身の疲労を取るための料理や睡眠を与えてやるだけだと腹を括っていた。
ここ数日ロクに帰宅しないリオンが戻って来る時、それは事件が彼ら刑事の手を離れた時であり、満足と疲労を綯交ぜにしたまま帰宅することも予測できた。
そんな様子で戻ってくるであろうリオンに快適な時間を与えるためにはそれなりの準備が必要であり、また誕生日当日に渡せなかったプレゼントを渡したい為に帰ってくるかどうかの連絡が欲しかった。
リオンからの連絡を待っていたウーヴェは冬の間だけ暖炉の前に置かれるソファベッドに腰掛けて雑誌を読んでいたが、サイドテーブルに置いた携帯から映画音楽が流れ出し、雑誌を片手に手を伸ばすと耳に宛がった携帯から眠そうな声が流れてくる。
『……ハロ、オーヴェ』
「お疲れ様。もう事件は一段落したのか?」
『ああ、うん……昼から帰るな』
「大丈夫なのか?」
『うん――みんながさ、今日と明日休めって……』
眠そうな声に混ざるやるせなさを感じ取ったウーヴェだったが、冷蔵庫の中身を思い描きながら食事はどうする戻って来てすぐに寝るのかと問いかけ、メシを食ってから仮眠を取ると返されて苦笑する。
「分かった。――気をつけて帰って来い、リーオ」
『……ダンケ、オーヴェ』
「ああ」
眠気に混ざる感情が帰宅してから昇華できますようにと願いつつ、とにかく気をつけて帰って来い、無理ならば連絡をくれれば迎えに行くと告げて通話を終えると、ソファにもたれ掛かって天井を見上げる。
仮眠を取るというのだから家から出るつもりはないだろう。それならば今夜の食事の用意も考えた方が良いと気付いて少し慌てて携帯を手に取ると幼馴染みの店に電話を掛ける。
「忙しいのに悪いな、ベルトラン」
『気にするな。どうした?』
「家で食べるものを適当に作ってくれないか?」
ウーヴェの突然の申し出に電話の向こうが沈黙するが、その沈黙の理由をしっかりと見抜いているウーヴェが苦笑しながらそっと幼馴染みの名を呼ぶ。
「バート、頼む。クリスマスも返上して働いていたんだ」
『……まさか、それに付き合って何も食ってないってことはないだろうな、ウー?』
「それはない。ちゃんと食べていた。ただ、仕事で誕生日もクリスマスも潰したあいつの為にちゃんとしたものを食べさせてやりたい」
『……仕方ねぇなぁ。ローストチキンと七面鳥だとどっちが良い?』
ウーヴェの頼みはやはり断ることが出来ないのか、ベルトランが溜息混じりにメニューは何が良いと聞いて来た為、ローストチキンで食べきれない分は明日の朝かランチでサンドにして食べることを告げると、あいつが満足するものを作れるかどうかは分からないが適当な時間に取りに来いと言われて素直に頷く。
「ダンケ、バート。……クリスマス前は忙しかったんだろう? イブやクリスマスはチーフや皆も休めたのか?」
『おー。皆家族や恋人と一緒にゆっくりしたって言ってたな。ありがとうよ。――なあ、ウー』
クリスマス前の忙しさを乗り切り、イブとクリスマスの休暇を満喫したらしい従業員への心遣いに感謝の言葉を告げたベルトランだったが、不意に口調を変えた為にウーヴェが首を傾げてどうしたと呟くと、躊躇いがちな声がリオンの様子を窺ってくる。
リオンが今も額に汗を浮かべながら必死に働く根本的な原因となった、姉の死はリオンの中にまだまだ固形物となって居座っていたが、それでも前を向いて歩き出している事を伝えるように、あの事件でリオンとの間に溝を作ってしまったようなベルトランへ橋渡しするつもりのウーヴェがそっと目を伏せて小さく頷く。
「……一時期を思えば落ち着いたな」
『そっか。お前も……あいつも無理をするなよ?』
「ああ。分かってる。それをしない為に今夜お前の料理が食べたいんだ」
だからよろしく頼むともう一度告げ、了解という何かをひとつ吹っ切ったような明るさを滲ませる返事を聞いて通話を終えたウーヴェは、幼馴染みが恋人を気遣ってくれる気持ちに礼を言い、確かに夏の終わり頃に比べれば遙かにマシになっていると苦笑する。
初夏から晩夏に掛けて二人が経験した出来事は二人の頭上に重苦しい雲を立ちこめさせたが、それでもその雲の下で二人で繋いだ手を離さないように身を寄せ、互いを支え合ってきたのだ。
その日々があったからこそ今もリオンは刑事として働いていることに思いを馳せ、その仕事を終えて疲れて帰ってくる恋人の為に少しでもその心身が安らげるようにしようと決めて幼馴染の店に顔を出す前に何処かで甘いものでも買っていこうと雑誌を閉じるのだった。
パチパチと暖炉の炎が爆ぜ、暖炉前に置いたソファベッドでクロスワードと向き合っていたウーヴェは、隣でブランケットにくるまりながら寝転がって少し遠い位置になってしまうテレビを見ていたリオンに呼ばれ、クロスワードから目を外さずに返事をする。
「どうした?」
「んー、今日の晩飯、すげー美味かった」
「そうか。良かったな」
本人から連絡を受けたように昼を少し過ぎてから疲れ切った顔で帰って来たリオンを少しの温かな料理と睡眠環境を整えることで出迎えたウーヴェだったが、料理をすべて平らげてベッドに倒れ込んだ後、ウーヴェがベルトランに頼んでいた料理を受け取りに行って戻って来るまでベッドから出てくる事は無かった。
キッチンの小さなテーブル一杯に料理を並べ、いつもよりは少しだけ豪華な料理に満足したウーヴェがリオンを起こし、感動に眼をきらきらと光らせるリオンと並んで二日遅れの誕生日とクリスマスを兼ねた料理に舌鼓を打ったのだ。
その料理が美味しかったと教えられて笑みを浮かべてベルトランが喜ぶと告げると、まるで蓑虫か毛虫のような出で立ちのリオンが這い寄ってきて、掛け声をひとつ放ってウーヴェの腿に頭を乗せる。
誰かの頭を腿に載せる、パートナーや家族がいれば当然かも知れない行為もリオンと付き合いだしてから経験したウーヴェは、今ではすっかりそれが当たり前になっていて、クロスワードを脇に置いてくすんだ金髪に無意識のように手を伸ばしてその手触りを確かめる。
「チキンが残ったけどさ、明日あれで何か出来るかな?」
「そうだな……サンドも出来るしスープに入れても良いかもしれないな」
「あ、それ賛成」
テレビからは二日前に開封されたプレゼントについて様々な意見を述べる人たちが映し出されていて、ツリーの下に平積みされているプレゼントの箱などが子ども達の手によって開けられている様子も映し出されていた。
「……あ、そうだ!忘れてた……んぎゃ!!」
「リオン!!」
そのテレビから何かを連想したのか勢いよく起き上がったリオンだったが、己の現状を失念していたのかブランケットにくるまったままバランスを崩しソファから床に転がり落ちてしまう。
「……いてぇ」
「バカ」
ブランケットを乱暴に脱ぎ捨て、強かに打ち付けた身体を撫でながら起き上がって一頻り悪態を吐いたリオンをソファに腰掛けたままのウーヴェが呆れた様な顔で見下ろすと、足首を掴んで身体を前後に揺さぶりながらリオンの頬が次第に膨らんでいく。
「……リオン」
「…………」
「リオン?――リーオ」
「痛かった!」
「はいはい。バカと言って悪かった。で、何を忘れていたんだ?」
拗ねた子どもの顔で見上げてくる恋人を可愛いと思いつつも表だっては反省している顔で頷いたウーヴェは、そもそも落ちる原因となったものを思い出せと告げ、リオンの表情を切り替えさせる。
「あ、そうだそうだ」
脱ぎ捨てたブランケットを拾いながら立ち上がり、そのままリビングを出て行ったリオンを呆気に取られた顔で見送ったウーヴェは、戻ってきた時には掌サイズの小箱を持っている事に首を傾げる。
その小箱はクリスマスのプレゼントにしてはラッピングが質素で、どうしたんだと首を傾げつつ問いかけるとリオンがウーヴェの前の床に膝を折って座り込む。
「リオン?」
「これ。……時間なかったしラッピングは出来てねぇけど、クリスマスプレゼント」
「………………」
「クリスマスも誕生日プレゼントも受け取らないってのはナシな、オーヴェ」
毎年繰り広げられる論争に早々と終止符を打ったリオンに目を細め、仕方がないと溜息を吐いたウーヴェだったが、己も渡すものがあることを思い出し、早く受け取れと表情で告げるリオンの髪を一つ撫でて立ち上がる。
「オーヴェ?」
「待っていてくれ」
「?」
訝る顔で見つめてくるリオンの頭に今度はキスを残したウーヴェがリビングを出て行き、本当ならばクリスマスツリーの下に並べておくのだろうがと苦笑しつつこちらは一目でプレゼントだと分かるラッピングをした袋を手に戻ってくる。
「クリスマスプレゼントか、オーヴェ?」
「誕生日プレゼントも」
ウーヴェの言葉にリオンの表情が一瞬だけ曇るが、その口から言葉が流れ出す前にウーヴェが片目を閉じて茶目っ気たっぷりにリオンの口を封じる。
「誕生日プレゼントは受け取らないはナシだぞ、リーオ」
「…………仕方ねぇなぁ」
世間一般的なクリスマスは家族揃って祝い、プレゼントは互いを思って買ったささやかなものを交わすのだろうが、家庭の事情からクリスマスを祝うことのないウーヴェとリオンにとっては例え誕生日でもあるイブやクリスマスが過ぎていても二人でこうしてプレゼントを渡すことが大切で、リオンが差し出した小箱を受け取りって代わりに己が手にした袋をリオンに差し出したウーヴェは、小箱を開けて一瞬目を瞠り、次いでリオンの顔と小箱を交互に見つめる。
素っ気ない小箱の中では革紐の左右にシルバーで出来た三日月と太陽が控え目に輝いていたが、一目でそれが何であるのかが理解出来なかった
掌にそっと取りだしてこれは一体何だとリオンを見ると、己へのプレゼントを嬉しそうな顔で開けていたリオンが顔を上げ、ブックマークを知ってるかと逆に問われて苦笑する。
「ああ。本を読む時に使うしおりのようなものだな」
「ふぅん。俺は良く知らねぇけえど、それ、ブックマークなんだって」
知人に頼んで買って来てもらったものなのだが、プラハの特産品だと聞いたと小さな声で呟かれてウーヴェが眼鏡の下で目を瞠る。
「……頼んでくれたのか?」
「オーヴェ本が好きだろ? だから使ってくれるかなーって」
そもそも自分はしおりやブックマークを使うような本を読むことはない為に今まで見聞きしたことはなかったが、本と親戚付き合いが出来そうなウーヴェならば使ってくれるだろうと笑われ、コーヒーテーブルに置いたままの小説を手に取り、本屋がおまけでくれたしおりの代わりに革紐を挟んで本を閉じる。
「こんな感じだな」
本の上では太陽が、下からは三日月が顔を出してどこまで読み進めたのかを教えてくれていて、これは意外に重宝すると笑って本をテーブルに戻すとざっくりとしたセーターとお揃いのイヤーフラップのついた帽子を取り出したリオンが嬉しそうに顔を笑み崩れさせていた。
「暖かそうだな、これ」
今年はセーターと帽子にしたが喜んでくれるだろうかと一抹の不安を抱いていたウーヴェは、目の前でセーターを矯めつ眇めつするリオンを見て己の取り越し苦労だったことに気付くと、ソファに腰を下ろしてくすんだ金髪をくしゃくしゃと撫でる。
「ダンケ、オーヴェ!」
「ああ」
プラハの特産品と教えられたそれだが、チェコに関する話題はあまり耳にしたくない筈なのにそれを乗り越えていくリオンの姿が嬉しくて座面に横臥し、床に直接座っているリオンと顔の高さを近づけると、首を傾げる恋人の唇に小さな音を立ててキスをする。
「ダンケ、リーオ」
「……うん」
そのキスに込められた思いや伝わる感情をしっかりと感じ取りながらも照れたように笑ったリオンは、ウーヴェの顔の傍に顎を置いて満足そうな溜息を零し照れくささ全開の顔で笑う。
「……オーヴェ」
「うん?」
ソファの座面に顎と頬を着いて視線を交わしあった二人だったが、リオンが何かを言い淀むように言葉を切った為にウーヴェが顔を上げて先を促すと、リオンの髪に見え隠れする耳が少しだけ赤くなっていて、更にどうしたとウーヴェが口を開き掛けたその時、普段のリオンから考えれば想像も出来ない小さな声があっちのバスルームを使うと呟く。
「あっち?」
「あっちはあっち!!」
「?」
何のことだか分からないとウーヴェが呟き掛けた時、リオンが足首を掴んで再度身体を前後に揺さぶりながらぶつぶつと小言のような声で呟く。
「あっちのバスルームを……使う……」
「……バスタブに湯を張るか?」
リオンが伝えようとしていることを察したウーヴェが珍しく太い笑みを浮かべ、俯き加減の恋人の頭にぽんと手を載せて囁くと二人で入ると断言される。
「分かった。じゃあ準備をしようか」
今年の夏以降に二人の関係に一つの変化が訪れたのだが、リオンが望む時は何故か廊下側-本人の言を借りればあっち-のバスルームでシャワーを使うことが暗黙の了解となっていた。
廊下側のバスルームで二人で温まってからベッドに入ろうと誘われたウーヴェはくすんだ金髪に手を差し入れてくしゃくしゃと髪を乱し、しっかりと思いを受け取ったことを伝えるのだった。
ウーヴェの熱を身体の中で感じている事実に何度か経験していてもやはり多少の戸惑いを感じるリオンだったが、その戸惑いなど無いものにしてしまえるほどの快感が身体の奥底に芽生え、脊髄から脳天まで一気に駆け上がる。
その快感に背中が撓み、無意識のように逃げを打ってしまう身体を、この時ばかりは腹が立つほど憎らしい優しい手が引き留め、どこにそんな力があるのか教えてくれと思わず胸の裡で毒突いてしまう強さで引き寄せられて与えられる快感に唇を噛み締める。
今までウーヴェと数えられない程身体を重ね、熱を持った内側で受け止められ更に受け入れられてきたリオンだったが、当初はやはりこうして抱かれることに抵抗-それははっきり言って生理的嫌悪感に近かった-があった。
だが、八つ当たりのように言葉を投げつけて傷付けても繋いだ手を離さないどころか何があろうともお前の心は護ってやると囁かれ、その言葉にすべてを委ねるように身も心も委ねたがリオンの期待は裏切られることはなく、己が愛しまた愛してくれる男の言葉は何にも換えられない価値があることを再確認したのだ。
一見すれば優男に見えるウーヴェが、実は己よりもしなやかで強靱な精神を持っていることに改めて気付いたリオンは、その夜、自ら望んで初めてウーヴェを受け入れるセックスをしたのだ。
男とのセックスはウーヴェが初めてだった為、当然ながら自分が受け入れる立場になるのも初めてだった。
己の時を思い出せば謝罪をしたくなる程乱暴に抱いたような覚えがあるリオンだったが、ウーヴェはリオンに快感以外の感情を覚えさせたくないかのように終始様子を窺い、少しでも痛みを感じている表情をした時には宥めるような、痛みを紛らわせるようなキスを繰り返したのだ。
そのキスと髪や顔を撫でる手が本当に温かで優しかった為、その夜、リオンは己が覚えている限りでは初めて涙を見せてしまうが、涙を見せた羞恥よりもその相手がウーヴェで良かったとの思いの方が強くて、思い出せば羞恥のあまりぶっ倒れてしまいそうだが涙を止めることが出来ないままウーヴェを受け入れたのだった。
その時に比べれば気持ちに余裕が出ているが、ウーヴェの抱き方はあの夜からほとんど変わらない優しいもので、リオンの身体の隅々まで快感が行き渡るようにか、前戯に随分と時間を掛けていた。
今夜ももちろんいつもと同じで、思わずリオンが早く来てくれと半泣きになってしまうほど濃密な愛撫を繰り返していたが、リオンが待ち望んでいたウーヴェのものを受け入れた時には、心身ともに解れていていとも容易く受け入れられるようになっていて、その結果、リオンが今まで感じた事がないような強烈な快感が体中を駆け巡り、歯や唇を噛んで自然と零れる声を押し殺さなければならないほどだった。
同じ男でもこんなにも抱き方が違うのかと、いつも終わりを迎えて息も絶え絶えになりながら感じるリオンだが、今もまたいつものように強烈なそれを感じて荒い呼吸を繰り返していると、中で感じていた熱が抜け出したことに気付き快感に霞む視界でウーヴェを見上げる。
「……オーヴェ……?」
掠れた声で呼びかけられたウーヴェが安心させるように小さく笑みを浮かべてリオンの背中にぴたりと胸をくっつけて横臥した為、何をするつもりだと上体を可能な限り捻って背後の様子を窺うと片足を抱えられ、疑問を口に出そうとしたその瞬間、再度熱が襞を押し分けて入って来て言葉の代わりに意味のない音と呼気を吐き出してしまう。
「――リーオ」
耳のすぐ後ろから聞こえる声に背筋が震え抱えられた足がびくりと揺れるが、青い石のピアスにキスをされながら腰を押しつけられて頭が仰け反ると、頭の下に腕が回されて肩で頭を支えられる。
リオン自身も良くするポーズだったが、支えられる安堵感に胸を撫で下ろした時を狙い澄ましたように突き上げられて今度は前屈みに気味になる。
与えられる快感が経験した事がない程のものですでに思考回路は動きを止めていたが、耳のすぐ後ろで今度は名前ではなく少しずつ早くなる呼気を感じると、自分だけが快感を与えられている訳ではないことに気付く。
こうしてバックからウーヴェが抱くのはリオンの身体に必要以上の負担を掛けさせない為だったが、男の貌になったウーヴェを見られないのは悔しかった。
だから頭の下に差し入れられている腕に手を重ねて合図を送り、気付いたウーヴェが顔を覗き込むように頭を擡げたのを振り返った視界で確かめると、快感に染まった呼気で顔が見たいと囁きかける。
その言葉にウーヴェが一瞬目を瞠るが、次いでにやりと笑みを浮かべ、そう言えばいつも顔を見たいと言うなと笑みを深めた為、リオンが精一杯の虚勢を張るように口の端を持ち上げる。
「……オーヴェの顔……好き、だし、オーヴェも……見たいんじゃねぇの……ッ……ッ!!」
その虚勢はウーヴェの腰を突き上げることで脆くも崩れ、シーツを握りながらリオンがやけに切羽詰まった声でウーヴェを呼ぶ。
「……ッ……ウーヴェ…!!」
その声にウーヴェが動きを止めてリオンのこめかみにキスをし、もう一度抜け出した為に今度はリオンの口から安堵の溜息がこぼれ落ちる。
そうしてリオンの願いを叶える為にウーヴェはリオンの両足を己の腿で支えるように載せ、もう一度リオンの中にゆっくりと時間を掛けて入っては同じ時間を掛けて出て行き、また戻って来るを繰り返すと、次第にリオンの呼気が同調するようなそれになる。
暫くの間、二人の荒くなった呼気と時々リオンが堪えきれなかったのか、途切れがちの嬌声がベッドの軋む音と混ざり合うが、ウーヴェがリオンの汗ばむ耳に口を寄せて何事かを囁くとリオンの両手がゆるゆると持ち上がり、ウーヴェの首の後ろでしっかりと交差する。
それを合図と受け取ったウーヴェがリオンの赤く染まる唇にキスをすると、動きに合わせて揺れているものに手を絡め、リオンの呼気を更に早くさせてその瞬間を一足先に迎えさせる為に腰をぶつけ手の中で脈打つものを上下に扱くのだった。
そして程なくしてリオンの口が大きく開いてウーヴェにしがみつくように身体を寄せると吐き出された精が腹に飛び散りリオンの身体が小刻みに痙攣する。
肩で息をするリオンにキスをし今度は自分だと告げたウーヴェは、快感の絶頂にいて身体が敏感に反応するのもお構いなしに来いと笑うリオンに目を細め、熱を持って蠢く襞に自身を擦り付けて突き上げ、そして頭が真っ白になりそうな瞬間を迎えるのだった。
翌日、仕事の疲労感を完全に抜く為に朝の遅い時間まで眠っていたリオンがウーヴェと一緒にブランチを食べながら-もちろんウーヴェはしっかりと朝食を食べていた為、ブランチではなくランチだった-午後からの時間をどのようにして過ごすかを話し合っていたが、ウーヴェがリオンの前髪を掻き上げつつお前の誕生日のすぐ後だが休みをくれる職場のみんなは優しいなと笑い、リオンも照れたように頷いてウーヴェの手を掴んで掌にキスをする。
「うん、すげー優しい」
さすがに明日以降は年が明けるまでの独特な空気が街中に溢れ、その結果浮かれた人たちが何かしら問題を起こすだろうから忙しいと笑うと、カウントダウンの会場警備に今年も行かなければならないのかと問いながらウーヴェが今度は逆にリオンの手を掴んで手の甲に敬うようなキスをする。
「制服警官だけじゃ間に合わないって言ってた気がするから、多分ボスと一緒に警備するんじゃねぇの?」
「そうか。……今日はこれからどうする?」
「んー、オーヴェの予定は?」
「そうだな……少し買い物をしたいがそれ以外は特に何もないかな」
二人で互いの手にキスをしあい笑って手を離した後、リオンが少しだけ俯きながら小さくホームと呟いたため、ウーヴェが今度はくすんだ金髪を抱えるように抱き寄せて口付ける。
「……ケーキかドーナツを買ってホームでマザーらと一緒に食べようか」
「……うん」
リオンが自らは決して口にしないことを察したウーヴェが優しく問い掛け、ドーナツは何処のものを食べたいと聞いて何処でも良いと返される。
ならばクリスマスシーズンに入る前に出来た店のドーナツを買って行こうと笑いもう一度髪にキスをしたウーヴェは、笑みを浮かべて顔を上げるリオンに分からないように溜息を吐き、自分たちの誕生日やクリスマスには間に合わなかったが、それでも事件が片付いてすぐに休暇を取得出来る様に取りはからってくれた本当に優しい上司や同僚に感謝をし、美味しい菓子を手土産にホームに帰ろうと笑うとリオンの顔に満面の笑みが浮かび上がる。
「ドーナツ早く食いてぇ」
「ああ。じゃあ先に買い物を済ませて、それから買いに行こうか」
「賛成」
食べ終えた後片付けも食洗機にすべて任せ、出掛ける支度をしてこいと笑ったウーヴェにリオンも頷き、ウーヴェの頬にキスを残してキッチンを飛び出していく。
その背中を呆れと感心の心で見送り、宣言通りに後片付けを手早く済ませたウーヴェは、リオンを追いかけるようにキッチンを後にし、残り少なくなったがまだ残っている安息日を自分たちだけではなく親しい人達と共に過ごそうと決めるのだった。