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凛は、今日の練習に全く満足が出来ず、苛立ちを募らせていた。
わざわざ学校の部活に入ったのは、大会に出るためだ。元々ただの踏み台でしかなかったが、実際にこの目で見たその場所は、予想より遥かに下回るレベルの環境だった。事実、今日はまだ普段の練習の半分も満たせていない。
「クソが」
悪態をつきながら、歩を進める。
不足分は自主練で補うしかない。向かう場所は、通学路にある河川敷だ。
凛は入学して以来、仮入部期間に本格的な練習はできないと踏んで、ひとりでボールを蹴り続けていた。寂れたサッカーゴールが一つあるだけのその場所は、滅多に人が来ず、凛にとって格好の練習場となっている。しかし、今日、そこにはすでに人がいた。
橋の下に蹲って微動だにしないその人物から、かすかに鼻をすする音が聞こえた。
——俺には関係のないことだ
しばらくは、ボールを蹴る音と、サッカーゴールを揺らす音だけがその場に響いた。
水分補給のためにバッグを漁っていると、既にオレンジ色に染まっていた太陽光が何者かによって遮られる。
顔を上げると、黄色の大きな瞳が思いのほか近くにあった。
「いいね! 君」
「誰だお前、あっち行けよ。話しかけんな」
凛はその男を無視して、水を飲む。
「俺は、蜂楽廻」
「……」
「ブンブン蜂さんの『蜂』に、楽しいって書いて『楽』、『廻』はね、えっと……ぐるぐる回ってる感じがする方!」
「黙れ、名前なんか聞いてねえよ」
「え? でも『誰だ』って言ったでしょ?」
「ちっ」
全く話の通じない男を無視して、凛は練習を再開することにする。呑気にしていては日が暮れる。暗くなれば、街灯のないこの場所で練習をするのは困難だ。
「ちょっとまって——“凛”ちゃん!」
不意に呼ばれた己の名前に、ボールを蹴ろうとしていた動きを止める。力なく下された脚に当たったボールが、男の元へと転がっていく。
「……なんで知ってる」
「だって書いてあるし」
男が指差した先には、凛のカバンに載せられているタオルがあった。そのタオルは幼い頃から使っているもので、兄のものと区別するために親が名前を書いたのだ。
「ねえ、俺とサッカーしようよ」
「お前なんかとする訳ねえだろ」
「でも君、全然楽しそうじゃないんだもん」
「は?」
「楽しくないのは死にそうなくらい苦しい」
「……何言ってんだ、お前」
「俺とやれば楽しくなるよ!」
そう言って、地面に転がったままのボールをその男は蹴った。ボールはコロコロと転がって凛の足元へと収まる。
そいつをよく見ると、凛と同じ学校のジャージを着ていた。
「お前、うちの学校かよ」
「うん、君も同じだよね、それも一年生。俺もサッカー部なんだよ」
「だから俺の後輩だね」
と答えたそいつは、今日の試合にはいなかったはずだ。
凛は、部活という窮屈な環境の煩わしさを排除するには、自分の実力を思い知らせるのが一番だと考えていた。他の奴らと同様に、この男にも、いずれは自分の実力差を思い知らせる必要がある。なら、今、この男の提案に乗ってやるのも悪くない気がした。今日やるか、明日やるかの違いでしかないのだから。
「来いよ」
そう言って、凛は足元のボールを蹴り返した。
next.
♡…500
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更新遅くなってすみません💦
♡くるかな、、、、
出してほしいキャラとかあります?
リクエストあったらコメントよろしく!