テラーノベル
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⚠
・一部流血表現あり
・関東住まいなので方言が不自然
「…え」
俺はつい、足を止めた。
眼の前に何かが転がっとる。
一日に、どこかで必ず一、二度は殴り合いやら、アホらしい乱闘騒ぎが起こる。そんな野蛮で小っちゃい村や。
人間が一人や二人転がっていること自体は別に珍しいことではあらへん。
せやけど、何回目をこすって見直しても、倒れとる人型のナニカは、どう見ても人間には見えんかった。
どんな本にも載っとらん、これまで一度も見たことないような色の髪。
その色は、東洋から来た貿易人が見せてくれた「紅茶」に、牛の乳を混ぜた色によく似とった。
次に目に飛び込んできたんは、頭に二つ、尻に一つ、生えとる同じ紅茶色の突起。
それは俺が脇に抱えてる、さっきちょうど狩ったばっかりの獣に酷似していた。
でも、それ以外は人間。
体の仕組みも、肌はまあ白すぎるくらいやけど、人間のそれと同じ色やった。
あまりにも信じられん光景に、俺は口を開けたまま立ちすくんだ。すると、目の前のそいつが、かすかに身じろいだ。
反射的に、背に担いどった弓を構える。
矢をぎりぎりまで引き、数歩下がると、そいつは閉じたままやったまぶたを開けた。
今度こそ、夢やと思った。
月灯りに照らされた瞳は、真っ白で、透き通っている、本当の月のようやった。
俺に気づいたんか、それとも弓を向けられとるからか、そいつは目を大きく見開いた。逃げようとして、「ぐっ」と、ほとんど声にならんうめき声を漏らす。
よく見ると、弓がすでに数本、その体を貫いている。硬い土の地面を血が濡らしていた。
多分村の仲間が打ったんやろ。俺はさらに弓を強く引く。
「ぁ゙、まっ…て、下さ…」
わずかにかすれた低い声が聞こえた。
声の下法を探して周りを見渡すが、こんな夜遅くに起きているのは俺だけや。
不思議に思っていると、また声がする。
「私は、敵じゃあり、ません」
次ははっきりと下から声が聞こえる。
まさかと思いながらも目線を下に向けると、黒目が見当たらない目が、こちらを向いているのがわかった。半開きになった口からも血が流れている。
今、こいつが喋ったんか?
「迷い込ん、だだけです、ッ見逃して、もらえませんか…?」
薄い唇が小さく動いている。話すたび口の端から血があふれるのが痛々しい。
「……お前は、何なんや」
俺はこいつを逃がしてええんか?
冷や汗が、首に一筋流れる。
「…私、は」
…返事を待つ。
がそれっきり口を利かない。
「…おい、答えろや」
そう言い放って鏃を見せつけるように近づけても、そいつはピクリとも動かなくなってしまった。
足で恐る恐る小突いてみても、反応がない。
それでふと我に返った。
「……あれ、血ぃ出過ぎたんちゃうか?」
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