テラーノベル
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「はい。少し、落ち着くと思うから」
「ありがとう」
浴室で泣きじゃくった美咲は、廉に抱きかかえられリビングのソファへと連れて来られた。脱衣所で着せられたバスローブが冷え切った身体をわずかに温めてくれる。ソファの上、身体を縮こませた美咲は、ジッとリビングの床板を見つめる。
今の状況が理解できない。廉は、話をしようと言った。だけど、何を話したらいいかも、今の美咲にはわからなかった。
美咲をソファへと置き姿を消した廉が、キッチンから戻ってくる。渡されたマグカップの中には、温めたミルクが入っていた。
湯気が立ちのぼるカップに口をつけ、ひと口飲めば冷え切った心を暖めてくれるような気がする。緊張からこわばっていた身体がやっと解放され、美咲はホッと息を吐き出した。
「さっき、美咲が言ったことは本心? 俺を今でも好きだと言った、あの言葉は本心からなのか?」
目の前のソファに座った廉がよこす真剣な眼差しと、美咲の視線がからむ。
廉が好き。それは、本心だ。
三年前から変わらない想い。何度も捨てようと思った廉への想いは結局捨てられず、今でも美咲の心の中に巣食っている。
全てをぶちまけた後だ。今さら、隠そうとは思わない。
「……うん」
「じゃあ、なんで俺を拒むんだ? 三年前だってそうだ。美咲から別れのメールが送られて来るまでは、俺達の仲は悪くなかった。少なくとも俺は、美咲と別れるつもりなんてなかった。確かにあの当時、俺はモデルの仕事が忙しくて、美咲は大学受験で、ほとんど会えていなかったけど、美咲が大学に合格したら、もっと一緒にいようって、約束していたじゃないか。なのに、なんで突然、あんなメール送ってきたんだ? それに、どうして俺が他の女を好きだなんて思うんだよ。誰かに吹き込まれたのか?」
美咲は廉の問いに、ただ首を横に振り『違う』と示すことしか出来ない。
廉の疑問も、もっともなのだ。当時、廉と美咲の仲はとても良かった。お互いに忙しく、会えない日々が続いていたが、毎日連絡を取り合い、寂しいながらも二人で歩む未来は希望に満ちていた。
受験に合格したら、都心で一人暮らしをして、たまに廉の家に行って、お泊まりをする。そんな小さな幸せを考えるだけで、美咲の未来は明るく、輝いて見えたのだ。
――川口静香。彼女が美咲の前に現れるまでは。
今でも、彼女の纏う廉の香りが、頭にこびりついて離れない。
「話しては、くれないんだね」
廉の疑問に答えることができない美咲は、うつむき涙を耐える。そんな態度しか示せず震えることしか出来ない美咲へと廉が近づき抱きしめる。その強すぎる抱擁に、美咲の心がキュッと痛みだす。
「話したくないなら、それでもいい。でも、これだけは信じて欲しい。俺は、昔も今も美咲以外に好きになった女なんていない。好きでもない女に、こんなに執着するわけないだろう」
廉の言葉が心をふるわす。
「美咲が、好きで好きでたまらないんだ。俺以外に頼る人がいなければいいと、本気で思うほどに愛しているんだ。信じて欲しい。愛しているのも、手に入れたいと、こんなに強く思うのも美咲だけなんだ」
廉は、私を愛しているの?
本当に、私の事を愛してくれているの?
信じていいのか、わからない。
でも、震える声で真摯に紡がれる言葉が、美咲の心に突き刺さる。悲しみの涙でポッカリと空いた心の穴が、廉の言葉で満たされていく。
「好き……、廉が好きなの。ずっとずっと、愛していた」
美咲は、もう我慢しなかった。
廉に抱きつき、あふれ出した想いのままに泣き続ける。
子供みたいに泣きじゃくる美咲の頭を、廉はいつまでも優しく撫で続けてくれた。
そして、大きな手の温もりに安心した美咲は、廉の腕に包まれ、深い眠りへと落ちた。
♢
「美咲、起きたの?」
「うぅん……、あれ? ここは――、きゃっ……」
重いまぶたに薄らとうつる影。ぼやける視界が、徐々にはっきりすると同時に美咲は叫んでいた。
目の前に迫った綺麗な顔に驚きの声をあげた美咲は、逃げに転じた。しかし、廉に腰を引き寄せられ抱き込まれている状況では逃げるに逃げられない。
「今夜はずっと、美咲の顔を見ていたい。やっと手に入れたんだ。離したくない」
耳元で響いた色気増し増しの低音ボイスに、美咲の耳が真っ赤に染まる。
(なに!? この甘々な廉は)
一緒に住み始めた時とは、百八十度違う廉の態度に、美咲はただ戸惑うしかない。
ますます赤みを帯びる頬を誤魔化すように、美咲は廉の胸を両手で押すがびくともしない。しかも、さらに抱き込まれ、耳元で囁かれた言葉に、美咲の顔までも赤に染まった。
「ねぇ、美咲……、キスしていい?」
(うっ……、ダメ、かも……)
廉のエロボイスが脳髄を痺れさせ、身体の奥がジュっと燃え上がる。しかし、このままなし崩しに廉の手管に堕ちることだけは避けたい。
奥手な美咲だってプライドがある。なけなしの勇気を振り絞り、廉の胸へと置いた手をもう一度押すが、意味はなかった。
「廉!! ま、待って……」
「もう、待てない」
胸へと置いた手が大きな手に包まれ、キュっと握られた瞬間、美咲は廉に唇を奪われていた。
否の言葉を言わせないように深くなる口淫に、美咲の頭はとろけていく。
柔らかな唇が重なり、わずかに開いた唇から舌が忍びこむ。『くちゅ、じゅる……』と淫雛な音を響かせ、歯列の裏側や粘膜を刺激され、舌を絡め吸われれば、痺れるような快感が身体を駆け抜けた。
(なにこれ……、気持ちいい……)
一緒に住み始めてから数回交わしたキスとは別次元の気持ち良さに、美咲の力も抜けていく。唾液が交わり、舌を絡めるたびに漏れ聴こえる『ぴちゃぴちゃ』という卑猥な音にも耳を犯され、身体の奥底から快楽を告げる愛液が流れ出した。
「美咲、とっても可愛い。気持ち良かったのかな? 目が潤んで、真っ赤だ。我慢出来ない……、美咲を食べさせて」
私を食べる?
脳裏に廉との初めての情事がフラッシュバックし、身体がこわばった。
美咲の身体は覚えているのだ。途中で突き放され、心が死んだ夜のことを。
「美咲……、なぜ泣きそうな顔をしているの? 俺とするのは嫌?」
廉の言葉に『違う』と首を振れば、目にたまった涙の雫が飛び散った。
「まだ、早いのかな。美咲の心と身体が俺を受け入れるまで待つよ。いつまでだって」
廉の指先が濡れて輝く美咲の唇に触れ、軽いキスが落とされる。そして、悲しそうな笑みを浮かべた廉の顔が遠ざかっていく。離れていく温もりに、美咲の瞳から涙がこぼれ落ちた。
(廉と離れたくない……)
美咲は狂おしいほどに恋焦がれる想いのまま、無我夢中で廉の服をつかみ引き寄せていた。
「ヤダ!! 離さないで。違うの!! 廉としたくないんじゃないの。初めての夜……、廉に突き放されて悲しかったの。あの時のこと、思い出しちゃって」
廉の胸に顔を寄せ、美咲は消え入りそうな声で言葉を紡ぐ。
「あの時みたいに放り出さないで。ちゃんと、最後までして」
「美咲……、悪かった。本当にごめん。あの時は怒りで我を忘れてた。でも、どうしても最後まで奪いたくなかったんだ。傷つけてごめん」
廉の言葉が、美咲の心を熱くさせる。
(私に興味が失せたんじゃなかった。怒りで暴走していても、大切にしてくれていた)
熱い想いで、胸がいっぱいになる。涙があふれて止まらない。
「廉、ありがとう……」
廉の腕に包まれ、心が満たされていく。『愛されていた』その事実が、こんなにも自分を幸せにするなんて知らなかった。
美咲は、もう我慢しなかった。心のままに叫ぶ。
「廉と最後までしたいの。お願い……」
美咲の願いは廉の唇に奪われ、艶かしい音を響かせ消えた。
コメント
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うわああああ第19話読み終えたよ…!!😭💕 廉の「美咲以外に好きになった女なんていない」って言葉、マジで心臓ぎゅってなった…!三年前の誤解が解けて、ようやくちゃんと向き合えた二人が尊すぎる🥺✨ キスシーンの甘さと切なさのバランスが絶妙で、特に「離さないで」って美咲が自ら引き寄せるシーンにもう感情が爆発したよ…!廉も最後まで大切にしてくれてたんだね、そんな真実が美咲の心を救って本当によかった…🌸 次回どうなるのか気になりすぎる!二人の夜、ちゃんと幸せになってほしいな…!💕