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夜は、
昼よりも正直だった。
家族はそれぞれの部屋にいて、
物音も少ない。
まどかは、
自分の机に向かっていた。
引き出しを開ける。
中にあるのは、
鈴蘭学院の合格通知。
何度も見た紙。
なのに、
今夜は少し違って見えた。
行く理由は、
たくさんある。
姉がいる。
選ばれた。
期待されている。
でも、
行かない理由も、
ちゃんとあった。
今の学校が好き。
この日常を失いたくない。
自分が変わるのが、怖い。
どちらも、
間違っていない。
だからこそ、
決められなかった。
まどかは、
目を閉じた。
鈴蘭学院の門。
静かな廊下。
在校生代表の姿。
息が詰まりそうだった。
でも――
その中にいる自分を、
ほんの一瞬だけ、
想像した。
ちゃんとできないかもしれない。
空気を読みすぎて、
疲れるかもしれない。
それでも。
逃げたくない、
と思った。
「……行こう」
声に出すと、
思ったより小さかった。
でも、
消えなかった。
選ばれたから、行くんじゃない。
強いから、行くんじゃない。
分からないままでも、
自分で選んだ道を
歩いてみたい。
それだけだった。
合格通知を、
封筒に戻す。
引き出しではなく、
机の上に置いた。
隠さない。
明日、
ちゃんと伝えるために。
布団に入る。
不思議と、
心は静かだった。
怖さはある。
迷いも残っている。
でも、
決めた。
窓の外で、
風が吹く。
どこかで、
鈴の音がした気がした。
きっと、
気のせいだ。
それでも、
まどかは目を閉じて、
その音を、
受け入れた。