ばっちゃんの言葉に半ばフリーズしちゃった私は、気を取り直して聞き間違いじゃないか確認することにした。
「ばっちゃんが来るの!?」
「だって、楽しそうだから☆」
「いやいやいや!」
確かに私以外のアード人も地球へ連れていきたいと考えてたよ?
いつまでも私だけじゃハリソンさん達も不安だろうし、私以外のアード人が地球へ来れば交流も順調だってハリソンさん達もアピール出来る。いつもお世話になってるんだから、それくらいは恩返しをしたい。でもいきなりばっちゃん!?
ハードル高くない!?色んな意味で!
「里長、悪ふざけはその辺りで止めなさい。ティナ、安心して。ちゃんと理由があるんだから」
「理由?」
「もー、ティアンナちゃんネタバレ早すぎるぞ?☆まあ地球に興味があるのは本当だけど、ちゃんと理由もあるんだよ?☆これ、なーんだ?☆」
そう言ってばっちゃんが金属製のカードを取り出した。これは…。
「データチップ?」
「そっ☆で、中身はパトラウスから地球の首長に宛てたメッセージだよ」
「パトラウスって……まさか、政務局長の!?」
「ティナ?」
「えっと、政務局長って言うのは……どう説明しようかな」
「とっても偉い人よ、フェルちゃん」
「ふぇ!?」
お母さんがフェルに説明してくれた。アードを率いているのはセレスティナ女王陛下だけど、実質的に政治の中枢を司るのが政務局。そして政務局長となれば、地球で言えば大統領や首相みたいな地位の人を指す。いきなりアードの政治のトップからのメッセージ!?
「ばっちゃん!それって!」
慌てて声をかけると、ばっちゃんもふざけた雰囲気を引っ込めた。
「残念ながら、ティナちゃんが期待しているようなものじゃないよ。あくまでもこれはパトラウスの個人的な私信であって、正式な国書って訳じゃないんだ」
「個人的な私信?」
「そっ、だからこれはアードの方針とは一切関係ない。パトラウス個人の感想みたいなものかな」
「それだけでも充分だよ!ありがとう、ばっちゃん!」
パトラウス政務局長はばっちゃんの実弟さんだ。間違いなくばっちゃんが動いてくれたんだろう。じゃなきゃ、こんな小娘のために動く筈がない。
「でも、流石に中身が中身だから生半可な人には任せられない。この私信を用意する代わりにパトラウスが出した条件が私の同行なんだよねぇ」
「まあ、そうだろうね。納得したよ」
そりゃ会ったこともない、厄介な案件を持ち込む小娘より実姉の方が遥かに信用できるのは当たり前だ。
「分かったよ、ばっちゃんも一緒に行こう。プラネット号には空き部屋もたくさんあるし。あっ、でも里やお店はどうするの?」
「留守の間里の事はパトラウスが責任持って見てくれるみたいだし、お店についてはAIに任せとくから大丈夫だよ☆」
アードの販売店は基本的にAIに任せてるのが当たり前。わざわざ自分が店頭に立ってるばっちゃんが珍しいんだよね。
ばっちゃんはアードでも有数の長寿だし、こう見えて影響力も大きい。本人は普段ふざけてるけど、ばっちゃん曰く適度に楽しむのが長生きの秘訣なんだとか。
あっ、そうだ。折角だから。
「お母さん、もし良かったらお母さんも地球へ行かない?」
お母さんはアードでも指折りの科学者だ。アリアが収集した地球のデータを興味深そうに見ていたから、関心はある筈。
けれど。
「興味はあるけれど、まだ現地へ行こうとは思わないわね。適応するためのワクチン開発ももう少し掛かるし、それが完成してからにするわ」
お母さんは地球環境のデータを解析して、アード人やリーフ人でも適応できるようにするワクチンを開発している。
ワクチン開発なんて前世じゃそれこそ年単位の時間が必要だって聞いたことがあるけど、お母さんはAIのサポートがあるとはいえ下手をすれば週単位で作り上げてしまう。
母親もチートです。私?髪の色が違って保有マナはアード史上最低値。転生チートさんは未実装みたい。
で、環境に適応出来ないと常時適応魔法を展開するか、魔法が付与された衣服を着るしかない。環境適応魔法はマナの消費も激しいし、まったり温泉に浸かるなんて先ず出来ない。
私は無尽蔵のマナを保有してるチートのフェルが居るから問題なく温泉を楽しめたけどね。
「そっか……じゃあ、完成したら一緒に行こうね。もちろんお父さんも一緒に」
お父さんが居れば、アードの技術提供も楽になる。魔法関係のことを任せられるからね。
さて、ばっちゃんが来るなら急いで準備しないと。必要な物資はアリアが積み込みまで全自動で手配してくれるから心配は無用。食べ物は栄養スティックだけど、地球の食べ物がたくさんあるから問題はない。折角だからばっちゃんにも地球の料理を楽しんでもらおう。
後は、お返しとしてトランクと医療シートを用意しないといけないんだけど。
「この場合はクレジットを渡すより現物を渡した方が早いよね?☆」
そう言ってばっちゃんが目録を……ぉうっ!?
「トランク五十個に、医療シート千枚!?なにこれ!?」
「今回ティナちゃんが持ち帰ってくれた分はもちろんだけど、これは予約分の売り上げだよ」
「予約分?これが!?」
「いやー、こんなにたくさん売れるなんて考えても見なかったよ。予約分の売り上げだけでもそれなんだよ?他は、帰った時に引き渡すよ☆」
「まさかこんなに人気が出るなんて」
「美味しい以外にも効果があるかもしれないわ」
「お母さん?」
「今はまだなにも言えないわ。次に帰ってくるまでには結果が出ているでしょうから、それを楽しみにしておきなさい。もし私や里長の推測が正しいなら……まあ、地球の価値が跳ね上がるわね」
「価値が跳ね上がる?」
私が疑問に思っていると、ばっちゃんに急かされてプラネット号へ押し込まれた。結局一日も滞在できなかったけど、仕方無い。手土産もあるし、ジョンさん達のところへ帰ろう。
その日の夜。慌ただしく出発したティナ達を見送ったティアンナは自宅へと戻った。
「お帰り、ティナ達は?」
彼女を出迎えた夫のティドルに、ティアンナは肩を竦めながら答える。
「慌ただしいったら無いわね。里長を連れて今頃ハイパーレーンの中よ」
「それはそれは、一日くらいゆっくりするかと思っていたよ」
妻の答えにティドルは困ったような笑みを浮かべる。落ち着きの無い愛娘に振り回されるのは今に始まったことではないが。
「ただ、ちょうど良かったわ。私の仮説を立証するためには、あの娘達が居たら困るもの」
「仮説?……なっ!?」
突然白衣を脱ぎ捨て、更に自らの衣服に手を掛ける妻を見て、ティドルは慌てる。そんな夫を見てティアンナは妖艶な笑みを浮かべ。
「協力してもらうわよ、あなた。もう一人欲しいと思っていたし、ちょうど良いわ」
「まっ、待て!」
「黙ってティナのお土産を食べなさい。そうすれば分かるわ。ほら、逃げないの」
翌日、色々と察した里の者達は語る。ティアンナ女史は底無し。ティドル先生が枯れ木みたいになったと。
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