「…………一体、どういうことですか?」
橘さんから発せられた言葉に、耳を疑った。
いや、聞き間違いだと思いたかった。
けれど、残酷なことに、それは聞き間違いなどではなく。
「……周りが煙でよく見えなかった時……2人の、男に人質にされた…..」
橘さんが、地面を見つめながら、ボソリと続ける。
「それで、桜に…….『お前が着いてくるなら、解放してやる』って…….それで、桜は…..」
ダメだ。やめてくれ。
それ以上は。それ以上は。
言わないで。
しかし、声にならない祈りは当然、彼女に届くはずもなく。
「……..アイツらに、連れて…….かれた……..っ!」
それを聞いた俺は、
今までにないくらい、怒りが溢れてきた。
握った拳が、ぷるぷると震える。
頭が真っ白になって、何も浮かんでこなくなる。
いや、これは怒りなどの単純なものじゃなくて、もっと重くて、苦しくて、黒くて、複雑なものだ。
椿野さんと橘さんは耐えきれず、泣き崩れ、梅宮さんは声に出せない怒りに震え、梶さんたちはただただ絶望して。
「どうするんですか、これから」
俺はそんな中、声を絞り出した。
怒りで頭がどうにかなりそうだったが、なんとか声をだすと、唸るような声になった。
「……お前たちは、もう帰れ」
「…….は?」
ビリっ。
空気に、亀裂が入った。
険しい表情をする梅宮さんと、柊さんが向かいあう。
「….帰れ、ってどういう事だ?」
「そのまんまだ」
「…..お前はどうすんだ」
より一層眉間に皺を寄せた柊さんが、ドスの効いた声をだす。
梅宮さんもまた、険しい顔を崩さずに息を吐いた。
「残って桜を探す」
「ふざけるな!!」
ビリビリと、柊さんの怒声が鼓膜を揺らした。
ビクッと橘さんが肩を震わす。
それを見て、梅宮さんが柊さんを睨んだ。
「ことはが怖がってんだろ」
「…..梅宮。いい加減にしろ…..!」
今までに見たことがないくらい、鋭い瞳を梅宮さんに向け、柊さんが声を荒らげる。
「お前1人で行かせるか。大体、目星は付いてんのか?」
「……」
はぁ、と諦めたように、梅宮さんがため息を吐いた。
ゆっくりと、口を開く。
「…….被害者は全員、寂れた工場みたいな廃墟に連れてかれたと言及している。…..しらみ潰しに探すしかないだろ。特にそんな廃墟、ここらじゃたくさんあるからな」
……廃墟…….。確かに、ここら辺には、不良のたまり場みたいな廃墟がたくさんある。
それをしらみ潰しに探そうとしていたのか、梅宮さんは。
「……俺も行きますよ」
「「「「「!?!?」」」」」
梅宮さん達が、驚いたように、目を見開く。
すっかり日が暮れた暗闇に、街灯の光だけが、俺たちを照らした。
「俺も行く」
「っ梶?!」
柊さんが、悲鳴に近い声で、スっと手を上げた梶さんの名を呼ぶ。
すると、それを初めとし、次々と
「あーしも」
「おるぇも」
「……」
椿野さん、榎本さん、楠見さんの順で、手が上がる。
それを見て、梅宮さんはしばらく固まった後。
「ぷはっ」
急に吹きだした。
そして、心底嬉しそうに、頬を紅潮させながら、言った。
「……分かった…..みんなで、助けに行こうな」
諦めたように、苦笑する梅宮さん。
それにほっとしたような顔で笑う柊さん。
椿野さん達も、嬉しそうに微笑んでいる。
うん、これからだ。
____絶対に桜くんを取り戻す。
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