テラーノベル
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あの日、クロさんにお礼を言って家に帰った僕は元貴や他の人から言われたことを思い出しながら何回もキーボードに向き合った。
どこの誰ともわからない自分をありのまま受け入れてくれる人がいる···それは僕を少しだけ強くしてくれた気がした。
なんとなくだけど掴めたような気がして少しだけでも眠ろうとベッドに倒れ込み、クロさんと触れた唇の感触を思い出した。
それは久しぶりの感触で、ほんの少しだったのに僕をドキドキさせた。
朝が来て寝不足がバレないように少しだけメイクをして髪もくくってスタジオの中、タクシーでようやく元貴からのメッセージに気づいた。
もうすぐ会えるのだから、と僕は何も返事することなくそっとカバンに片付ける。そして元貴の作った与えられた曲のことだけを考えていた。
なるべく元気に挨拶して準備していると元貴から昨日の夜について聞かれて、一瞬ドキッとしたけど寝ていた、とだけ嘘をついた。
他の人と会っていたことも、キスしたことも、夜遅くまで練習していたことも何も知られたくなかった。
嘘を重ねて隠し事して。
でも今は悪いという気持ちより自分にはそれを必要とする気持ちの方が大きかった。
「涼ちゃん最近なんかちゃんとしてるね、明るいし。息抜きとかって何してるの?」
少し疲れが見える若井がそんなことを漏らす。普通の会話なのにドキッとしてしまう。
「特にまぁ···若井は?」
「映画見たり音楽聴いたりかなぁ?暇出来たら本当は誰かとご飯とか行きたいけど···」
暇が出来たら。
僕はクロさんに会いたい···。
ふと思い出してカバンの中、あの携帯を探す。今日は朝メッセージが来ていて返そうと持ってきたはず···なのに、ない?
忙しいのはありがたいけど···って机にぐったりと突っ伏す若井を横目にたいしたものも入っていないカバンを確認する。
···うそ、やっぱりない。
家に置いてきた?
いや、確実に入れた。
「涼ちゃん、これ探してる?」
「え···っ」
いつの間にか隣にいた元貴の手には僕の黒い携帯があった。
「僕の、と思う···これどこで?」
「机に···でも本当に涼ちゃんのかわかんないから、はい」
元貴が差し出すそれにトントン、とパスワードを入力した。
ぱっと画面が明るくなったのをみて、元貴はそれを返してくれた。
「ありがとう···」
「···2台もってるんだ? 」
「あ、うん···プライベート用、かな」
「へぇ、彼女用とか?涼ちゃんがそんなのあるの意外〜···っと···」
元貴に睨まれた若井が黙ってしまった。反対に僕には笑っているのが少し怖い。
「彼女とかそんなんじゃないから···」
「うん、なら良かった」
何が良かったかわからないまま、スタッフから声がかかって僕らは移動することになった。
僕に恋人が居ないなら何が“良かった”んだろう。
スキャンダルにならないから?
仕事に集中させる為?
自分は色んな人と仲良くしてるクセに。
どうせ僕が嫉妬したところで元貴にはちっとも響かないんだろう。
なら、僕だって他の人と···。
そうして久しぶりに、クロさんとまた待ち合わせをして秘密の場所で会う約束をした。
コメント
6件
絶対に中身をのぞいてるパターンでしょ⋯これ。どうなることやら。楽しみ♪
元貴君、めざとく携帯見つけて…。💦 続きのお話が気になります💕
大森さん賢いね、パスワード覚えてるんじゃない?!!! 今回も好きすぎます🫶続き楽しみです❤️🔥