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午後3時。

都内某所のスタジオ。

元貴は、遮音されたブースの中でイヤモニをつけ、ピアノの前に座っていた。




「じゃあ、もう一回だけテイク録らせて。今度は、ちょっと息を抜くように……うん、ささやく感じで」





エンジニアにそう指示しながら、彼は目を閉じて深く息を吐く。

ここ最近、ミセスの制作に加え、ソロ活動、タイアップのための書き下ろし曲、映画の主題歌収録……。

スケジュールは分刻みで埋まっていた。





「元貴、ちょっと休憩しない? もう3時間ぶっ続けだよ」




涼架がガラス越しにマイクを通して呼びかける。





「大丈夫。……もう少しで、見える気がするから」




自分の中の“音”を逃さないように。

その一心で、彼は鍵盤に手を置いた。


 

しかし――



音が出る前に、視界が大きくぐらついた。

頭がじんわりと重くなり、腕に力が入らない。

気づけば、ピアノの上に身体を預けたまま、彼の意識はふっと暗闇に落ちた。





「元貴!? ちょ、元貴!!」





慌てて飛び込んできたのは滉斗。

すでに涼ちゃんが元貴の身体を支えていた。





「意識が……ヤバい、倒れた! 救急車、すぐ!」





その声は、スタジオの沈黙を裂くように響いた。






数時間後、病院の個室。

点滴に繋がれ、真っ白なシーツに包まれる元貴の姿。

その枕元に、滉斗と涼架が並んで座っていた。




「……熱、39度超えてたってさ。過労と脱水もあったらしい」




滉斗が、低い声で報告した。




「そりゃ、倒れるよね……ずっと寝てないって言ってたもん」


「……なんで、ここまで無理するかな」




滉斗はため息混じりに呟いた。

涼ちゃんの手は、元貴の指をそっと握っていた。




「自分がやらなきゃ、って思っちゃうの、わかってるけどさ…… お前に倒れられたら、元も子もないだろ……っ」



滉斗は言葉にしながら、喉の奥が詰まっていく。


その時、薄くまぶたが動いた。




「……ん……涼ちゃん……滉斗……?」




掠れた声。

ふたりが同時に顔を上げた。




「元貴! やっと目、覚ました……!」



「よかった……ほんとに、よかった……!」




涼ちゃんの目には、うっすらと涙がにじんでいた。

滉斗は、ホッとしたように額に手を当て、そして少し睨むように言った。


元貴は眉をひそめ、唇をかすかに噛んだ。




「……また、迷惑かけた」



「違うって」


 

滉斗は、元貴の手を両手で包むように握った。




「迷惑とかじゃない。お前がいないと、意味がないんだよ。ミセスも、音楽も、俺たちにとっては全部……お前がいてこそなんだよ」



「……滉斗……」



「なぁ、お願いだから、ちゃんと寝て。ちゃんと食べて。……自分の身体、大事にしてくれよ。お前が、ちゃんと笑っててくれなきゃ、俺ら、やってけねぇよ……」




言葉を紡ぐほどに、滉斗の目が潤んでいく。




「……倒れたとき、どうしようかと思って……! もう二度と、あんなの見たくないよ……」



涼架は感情が溢れ、涙が頬をつたった。

涙をこぼしながら語るその姿に、元貴も胸が詰まった。




「……ありがとう。涼ちゃんも、滉斗も……。支えてくれて、ほんとに……ありがとう」




涼ちゃんが、そっと微笑んだ。




「今度は、倒れる前にちゃんと相談してね。俺ら、頼って?」



「うん……」


 


滉斗も、肩の力を抜いて、元貴の額にタオルを乗せ直した。





「今日はもう、何も考えるな。音楽のことも、予定のことも。休め。命令だ」



「……わかった」





そしてその夜、ふたりは交代で元貴の隣に付き添った。

安心しきった顔で眠る彼の呼吸を、静かに見守りながら――




END

🍏mga🍏短編集🍏#1

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