コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
Ⅴ-Ⅰ,はじまり街区の中心部
城下町と分厚い雲を抜け、朝日が差し込んできた頃、はじまり街区の中心部が見えて来た。
今までの転生者はほとんどここで暮らしているという。
「ねぇ、フリード」
「…ん?」
「こーんな広い街区…どうやって回ればいいのよ…」
「……え」
言い出したのはお前だろう…なんていうツッコミも引っ込むほど、衝撃的な言葉が彼女の口から飛び出した。
「俺だってしらねぇよ…」
「ガイドでも居たらいいんだけど、」
「知り合いとか居ないのか?」
「…居ない。」
これは困った。
彼女の中心部に踏み出そうとした足は行き場を失った。
「貴方居ないの?知り合いとか…一人はいるでしょう?」
「居たらよかったな」
「嘘…」
「…一度も外に出てない奴が友達作れるとでも?」
「……無理ね」
ナリアがウンザリした様子で歩き出す。
はじまり街区…なぁ。
同僚でも居たっけか。
「あ…」
そうだ、思い出した。はじまり街区の買い手に引き取られたバカが居たじゃないか。
「何?友達でも思い出したの?」
「腐れ縁」
「…案内して」
「そんな事言われたって…場所なんかわかんねぇって」
「……」
ナリアは少し考え込んだ後、俺にこう尋ねた。
「…見た目だけでも教えてくれない?場所がわかるかも」
「は」
ナリアが言うには、貴族達にとって、俺たち人外は、なかなか都合のいい存在なのだそう。
人件費はかからないし、給料もいらない。体力が多い上、どんな扱いをしても誰にも咎められないのだ。
確かに、人外程都合のいい相手は居ないな。
「それで、よく自慢されるのよ…貴方達にとっては…気分を害すような話題でしょうけど…」
そう言うと、ナリアは気まずそうに目を逸らして、こう続けた。
「その…人外を買ったって…手紙が来るの。どう言う扱いをしただとか、こんな罰を与えた…とか。それは、目を塞ぎたくなるような物をね。」
「……」
絶句。
「だから…見た目を教えてくれたら、どこにいるのかわかるかも。はじまり街区は、身分の高い人達が結構沢山居るの。他の街区に比べてね。」
「へぇ…」
「だから、見た目を教えて…」
「見た目…」
俺はナリアに“そいつ”の事を教えることにした。
背が高くて、顔がない事。
見た目には気を使うような奴だったこと。
性格が悪くて、自分の事しか考えないような奴だった。
話せば話すほど、あいつとの思い出が蘇る。
「…わかった。案内してあげるわ」
「え」
俺の手を引くナリアの足に迷いはなく
あっという間に俺をそいつの屋敷まで案内して見せた。
「うわ…」
空いた口が塞がらないとはこの事。
二つの意味で驚いていた。
一つは、ナリアの記憶力、考察力。
なかなか頭の切れる奴だったらしい。正直、舐めてた。
二つ目は、案内された屋敷の大きさだ。屋敷と言うより、これは城だろう。ナリアが言うには“普通”だそう。とても信じられない。
「さぁ、入るわよ。」
「覚悟しておいてね」と付け足して、家のベルを鳴らす。
無意識に背筋が伸びた。
「どちら様でしょうか」
穏やかな女の声が、ドアの隙間から聞こえる。
「ナリア。ナリア・グラスレット
お宅のご主人、いらっしゃるかしら」
「……少々お待ちを」
女が少し強張ったような声でそう言うと、再びドアを閉めてしまった。
「…あのね、フリード…ここの主人…ちょっと…アレなの」
キョロキョロと辺りを見回しながら声を顰めて言った。
「アレ?」
「差別主義っていうの?かなり気難しいわ…だから…話を合わせてね」
「へいへい」
気難しいだって?大丈夫、きっとエルフ共よりはマシさ。
多分な。
そう自分に言い聞かせて、大きく深呼吸をした。
「お待たせ致しました、どうぞこちらに」
扉の中から出て来たのは、ボロボロの服を着たメイドだった。
深くお辞儀をした彼女の足は、少し震えているようにも見える。
「どうもありがとう…顔を上げてちょうだい。」
ナリアはスカートの裾を持ち上げて、貴族らしいお辞儀を返した。
「…」
メイドは無言で二人を屋敷の中へと案内する。
「主人を呼んで参ります。こちらにおかけになってお待ちください。」