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藤白りいな…お転婆で学校のマドンナ。天然で、先輩や後輩など学校のほぼすべての人が名前を知ってる。
海と仲が良いが、最近結構意識してる
天童はるき…ツンデレの神。りいなのことが大好きだが、軽く、好きなど言えない。嫉妬深い。
男子と仲のいいりいなが誰かにとられないかと心配してる。海に嫉妬中!
佐藤海(かい)…りいなのことが昔から好き。りいなと好きなど軽く言い合える仲。
結構チャラめ(?)デートなどはゲームだと思ってる
月下すず…美人だがなぜかモテない。はるきと海の幼馴染。りいなのことは好きだが、嫉妬中(?)
はるきと海のことが気になってるが、どちらかというとはるきのほうが好きらしい(?)
藤堂透…りいなに一目ぼれした。イケメン転校生。さらっとドキッとなるようなセリフを言ってくる。
はるきと海に嫉妬されてる。(笑)
修学旅行の夜/灯りの下で揺れるもの
旅館の中庭には、ぽつぽつとぼんぼりの灯りが並んでいた。みんなが自由時間で部屋を行き来する合間、外に出たり、風呂に入ったり、誰かの部屋に集まって“修学旅行トーク”をしたり。
その隙間みたいな時間に、りいなはゆるく外に出てみた。ひんやりした夜の空気。浴衣の裾が少しだけ揺れて、風鈴の音がまだ耳に残っていた。
中庭の隅、ベンチのところに透がいた。ひとりで、何かをぼんやり眺めている。りいなが近づくと、彼は小さく手を上げた。
透:「夜って、なんか“選ばなかった想い”が浮かんでくるな」 りいな:「……選ばなかった、って?」 透:「昼間は、誰かに合わせて喋ったり、笑ったりするけど、夜は“自分の声”がちょっとだけ素直になる気がする」
その言葉に、りいなは“桜色”の風鈴と、封筒の中のカードが頭をよぎった。選んだことも、選ばなかったことも、どこかで繋がってしまうような——そんな夜だった。
りいな:「ねえ、透。風鈴のこと、今も考えてた?」 透:「……うん。“響いたぶんだけ、伝わる”ってやつ」 りいな:「実際、伝わってると思う?」 透:「今日のりいなの顔見たら、たぶん届いてるって信じたくなった」
りいなは、隣に座った。ふたりの距離は、昼より近くて、でもどこか安心できる静けさがあった。
そのころ、すずは部屋で“恋バナ暴露ゲーム”を始めていた。はるきに向かって、「お前は誰の浴衣が一番似合ってたと思ってんだよ〜!」と詰めている。海はひとり、窓辺でりいなのことを思い出していた。桜色の風鈴が、頭の中で揺れていた。
すずがりいなに電話をかけた。「こらー!透とふたりで静かにしっとり夜空とか見てないで、戻ってこーい!恋愛暴露戦争が始まったよ〜!」
りいなは笑いながら、透に見せた。「帰らなきゃ。暴露される前に、こっちも準備しないと」
透:「暴露より、ただ“そばにいたかった”って言えば、だいたいのことは済むんだけどね」 りいな:「……透、それ言えるようになったの、すごい成長じゃない?」 透:「誰のせいだと思ってんの」
りいなはふわっと笑って立ち上がる。 振り返ると、透がぼんぼりの灯りに照らされているその顔が、カードの筆跡と同じくらい丁寧に見えた。
部屋に戻ると、すずが「りいな〜!“一番照れた瞬間”言って〜!」と叫んでいる。りいなは浴衣の袖で顔を隠しながら答える。
りいな:「透にポストカード渡されたとき」 はるき:「おいおい!透、それ聞いて大丈夫か〜?」 透(照れながら): 「言葉って、渡したあとに意味が育つんだって、今日知った」 海(ぽつりと):「俺は……桜色の風鈴かな。りいなが“似合う?”って言ったとき」
その瞬間、すずが「はい、青春爆発〜!!」と叫び、布団にダイブした。窓の外では、風鈴の音が微かに鳴っていた。誰かが自分の部屋の窓に、さっき買った風鈴をかけたのだろう。
その夜、布団が並ぶ女子部屋
時間は23:48。浴衣姿のまま、枕を背もたれにして輪になって座っている。お風呂の余韻も抜け切らないまま、肌も心も、なんとなく柔らかくて。
すず:「さて。昨日の王様ゲームで足りなかった分を、今夜補います」 海:「補うって…何が?」 はるき:「俺、昨日の“おでこコツン”で燃え尽きたよ…?」 透(静かに枕を並べながら): 「たぶん、今日のは“優しさの暴力”になると思う」
りいな:「すず、今回ルール違うの?」 すず:「うん。今回、“好き”って言葉は禁止。代わりに“触れた距離”で気持ちを伝えるの。つまり、ボディタッチ回です」
女子:「うわ〜〜〜!絶対赤面するやつだ〜〜!」 男子:「でも逆に、言葉なしってエモくない!?」
すずが取り出したのはアイス棒に見立てたくじ。裏に数字と“王様”の文字が書かれている。
第1回戦:王様はすず。命令「①番と④番は、10秒間手をつなぐ。ただし“こっそりつなぐ”こと」
すず:「“こっそり”っていう条件、えっちじゃない?」 女子たち:「えっちー!!!」 海:「え、待って。俺④だった」 りいな:「え……①だった……」 すず:「あーーーーー始まった!!!いちゃかわ爆誕!!!」
りいなは指先を震わせながら、浴衣の袖の中で海の手をそっと握った。指同士がふれて、皮膚の温度が伝わる。見えないのに、誰よりも見えてる。
海(小声で): 「今、手汗出てる?」 りいな:「知らない……でも、心臓は出てる」 すず(ニヤリ): 「このやりとり、耳だけで最高に青春」
第2回戦:王様は透。命令「③番は⑥番の髪を10秒間撫でながら、心の中でエールを送る」
透:「……触れるけど、気持ちは言わない。これ、恋の秘密だと思う」 はるき:「うわ、透の“心だけ伝える”命令、ずるすぎる」 りいな:「え、③なんだけど……」 透:「俺、⑥」 海:「あっ……近距離恋の風向き変わってる……!」
透がそっと手を伸ばして、りいなの髪を静かに撫でる。浴衣の襟元で髪が揺れるたび、音はないのに気持ちだけが高鳴る。
透:「……この髪が、どんな気持ちで今日揺れてたか、ずっと見てた」 りいな:「透……声にしてないのに、なんか言葉になっちゃってる」 すず:「はい、記録。恋の触れ方が優しすぎて泣けるレベル」
第3回戦:王様ははるき。命令「②番は、⑤番に“頭ポンポン×肩に寄りかかる”を10秒間」
透:「……触れるけど、気持ちは言わない。これ、恋の秘密だと思う」 はるき:「うわ、透の“心だけ伝える”命令、ずるすぎる」 りいな:「え、③なんだけど……」 透:「俺、⑥」 海:「あっ……近距離恋の風向き変わってる……!」
透がそっと手を伸ばして、りいなの髪を静かに撫でる。浴衣の襟元で髪が揺れるたび、音はないのに気持ちだけが高鳴る。
透:「……この髪が、どんな気持ちで今日揺れてたか、ずっと見てた」 りいな:「透……声にしてないのに、なんか言葉になっちゃってる」 すず:「はい、記録。恋の触れ方が優しすぎて泣けるレベル」
第3回戦:王様ははるき。命令「②番は、⑤番に“頭ポンポン×肩に寄りかかる”を10秒間」
はるき:「スキンシップって、“言葉より記憶に残る”って知ってる?」 女子:「出たーーー!はるき名言劇場!!!」 海:「でも、誰が⑤?……俺②」 りいな:「……⑤」 すず:「ああああ!!!はい。青春、爆発します!!!」
海は少し照れながら、りいなの頭をそっとぽんぽんする。その手の重さが、優しさの形になって、りいなの肩に海の体重がほんの少し寄る。
海:「……こんなふうに、力抜いてくれるの、すごく嬉しいかも」 りいな:「力抜いたら、もっと寄っちゃいそう」 海:「寄っていいよ。ってか、寄って?」
すずは画面越しに実況中。
すず:「“肩の間に恋を置いてるペア”爆誕!!!」 女子:「これ、今日のベストシーンかもしれない…!」
第4回戦:王様はすず。命令「①と⑦は“愛してるよゲーム”をして、負けた方が膝枕される」
すず:「はい、きましたー。言葉を使う代わりに、照れずに“愛してるよ”を連呼するやつ〜!」 女子:「え、これ距離感バグるやつじゃん!」 はるき:「⑦か…おれだ……」 りいな:「①……わたし……」 海:「うわ!りいなに“愛してるよ”言われるの…はるき…耐えられる?笑」 はるき:「耐えない。むしろ、沈む」
りいな:「愛してるよ」 はるき:「……愛してる」 りいな:「愛してるよ〜〜」 はるき:「愛しすぎて逆に黙りそう…」 りいな:「愛しちゃえ〜〜〜」 はるき:「無理!沈む!負け!!」
すず:「はるき、沈没ーーー!膝枕、確定です!!!」 女子:「これ、甘えさせ系男子の完全敗北〜〜〜〜!」
りいなの膝に、照れながら頭をのせるはるき。海と透がやや複雑そうに眺める。
海:「そこ、俺だったら絶対泣いてた」 透:「俺だったら静かに夢見てた」
第5回戦:王様は海。命令「③と⑥は“ハグするけど、理由を言わないこと”」
海:「行動だけで伝える回。これは、愛とか恋とかじゃなくて、“一緒にいたい”って証明」 透:「③……俺」 りいな:「……⑥」 女子:「うわあああーーー!!!!それは静かに爆発するやつーーー!」
りいなが立ち上がる。透も立ち上がる。ふたりは言葉もなく、そっと近づく。そして、りいなが手を広げて、透がその腕の中に入り込むように、静かなハグ。
透:「……言わないけど、伝えたい。言ったら壊れそうだから、黙ってる」 りいな(そっと目を閉じて): 「……でも、伝わった。ずっと、たぶん」
すずが感想をつぶやく。
すず:「これはもう、“言わないまま一生抱きしめる恋”だった」 女子:「こんな“沈黙ハグ”、教科書に載せるべき…!」
第6回戦:すず最終回。命令「全員、順番に“ひとりずつりいなに触れる”。どこでも、どうでもいい。ただし、“言葉はなし”」
誰かの声で、そんな命令が部屋に広がったとき、みんな笑うかと思っていた。でも、誰も笑わなかった。誰かが小さく息を呑む音だけが聞こえて、空気がきゅっと張り詰める。
りいなは、部屋の真ん中にいた。驚いたような顔。けれど逃げなかった。微かに目を見開いたまま、みんなを見渡す。その瞳に、灯りのオレンジが淡く映っていた。
最初に動いたのは、はるきだった。
彼はゆっくり立ち上がり、スウェットの裾を引きずるようにして、りいなの前へ出る。言葉はない。でも、その視線ははっきりしていた。冗談も照れも隠さず、ただ“見てる”目。
はるきは、りいなの手の甲にそっと指先を重ねた。それだけなのに、空気がゆっくり揺れた。“言葉じゃない”って、こんなにも伝わるものなんだと思った。
りいなは目を伏せた。こぼれそうになった何かを、まばたきでごまかす。誰も笑っていない。でも、誰も泣いていないわけじゃなかった。
次に動いたのは、海。
枕を抱きしめていた手をゆっくりほどいて、立ち上がる。そのまま歩み寄ると、りいなの髪に指を添えた。耳の裏にかかっていた乱れた束を、整えるみたいに。
その触れ方が、海らしかった。言葉にするには照れすぎていて、でも、触れずにはいられない。すぐに離れた手の先に、残っていた余韻。りいなはふと、指先でその場所をなぞる。
誰にも見せなかった、ちいさな微笑が唇に浮かぶ。
透は、ゆっくりと前に出てきた。
部屋の隅でうつむいていたけれど、やっと決意したように、りいなの前に立つ。目を見て、それから胸元の名札に指を添える。
“りいな”って、書いてあるあの名札。その文字をなぞるように、透はそっと触れるだけ。でも、その震える指先が、言葉よりうるさかった。
透のまばたきが、何度も感情を飲み込んでいるようで。りいなは、その名札に触れられてから、ずっと胸がきゅうっと締めつけられていた。
そして、すず。
彼女は最後だった。
誰もが見つめる中、すずは静かに立ち上がる。りいなの前で膝をつき、何も言わずに頬に指を添える。その触れ方が、まるで祈っているみたいに丁寧だった。
昼間、りいなが笑ったあの瞬間。言えなかった言葉も、目をそらしてしまった気持ちも。ぜんぶ、今ここで指先に込めている。
りいなはもう、顔を上げられなくて。ただ唇をきゅっと結び、頬に触れた指の温度だけを、全身で受け止める。
その後、すずは隣に座る。そして誰も、何も言わない。
でも、部屋の空気が、少し柔らかくなっていくのがわかる。誰かが小さく笑い、誰かがふと泣いた。枕の影に顔を隠す子もいれば、目を閉じて余韻に浸る子もいた。
言葉なんていらなかった。触れるだけでわかることが、ある。
それは好き、かもしれない。
それはありがとう、かもしれない。
それはさよなら、かもしれない。
でもきっと、その全部。
修学旅行の夜、第6回戦。あの沈黙の時間は、誰の心にもずっと残る、いちばん“うるさかった”記憶。
バスが旅館を離れる。窓に映る朝の景色は、修学旅行の余韻をそっと引きずっていた。
りいなは、窓際の席。髪をゆるく結び直して、ぼーっと外を見ている。まだ少し眠そう。
その隣に、海がぴょんっと飛び込むように座る。
「りいな〜、隣あいてるから座るね?べつに“選んだ”わけじゃないけどね〜、偶然!偶然!」
りいなはちらっと海を見て、「うん」と素直に返事。海の“わざとらしい偶然”に気づいてない。
海はわざと荷物をぎゅうぎゅう隣の足元に押し込む。
「ちょっと狭いな〜、…なんかさ、昨日の髪、俺が整えたとこ、今日も崩れてないの奇跡じゃない?」
りいな「え?……うん、昨日寝る前にちゃんと結びなおしたからかなあ」
完全にスルー。
海は思わず吹き出す。「そっか、俺の“ゴッドフィンガー”が奇跡起こした説、ゼロか〜。まじか〜」
りいなは「ごっど…?えーと、なにそれ?」と首をかしげる。
海は笑いながら片手でりいなの髪先を指でくるくるっと遊ぶように触れてみせる。
「え、もしかしてさ、俺が今こうしてるのって、“遊んでる”じゃなくて“照れてる”って可能性あるって思ってくれたりする?」
りいな「え……遊んでるんじゃないの?」
またスルー。
海は頭を抱えるふりをして、「天然って……爆弾だね」と言いつつ、頬が少しだけ赤い。
りいなは気づいてないまま、「さっきのコンビニで買ったラムネ、いる?」と海のほうに差し出す。
海は手を伸ばしながら、「おぉ〜、好きな子からラムネもらうとか、青春ってやつだな〜!」とわざと大きめに言って、反応を探る。
りいな「え、海ってラムネ好きなんだ〜、知らなかった!」
スルー of the スルー。
海はもう、笑うしかない。りいなは、無自覚に海を“圧倒的敗北”に追い込んでいるのに、隣でぴょこんと座ったまま、素直で、無防備で、ただのりいな。
その無防備さが、いちばん海を照れさせる。
海はため息をついたふりをして、小さくつぶやく。
「言葉で揺らしても、ぜんっぜん届かないくせに…触ったときだけ、ちゃんと感じてくれるのズルいよ」
りいなは、窓にひとしきり視線を移してから、「ん?なにか言った?」と顔を向ける。
海は、「ううん、景色がきれいって話」と誤魔化す。
だけどその瞬間だけ、りいなが、海のほうにちょっとだけ体を寄せた。
その“何気ない反応”が、海の心には昨日の“髪に触れたあの一瞬”よりも何倍も響いている。
バスは走る。
隣の席のふたりだけ、ちょっとだけ、まだ修学旅行の“続きを”残しているみたいだった。
バスががたんと揺れて、みんなが騒いでる中、りいなは窓の景色に夢中。昨日の夜の余韻をこっそり抱えながら、少しぼんやりしている。
隣には海。いつものノリで座ってきたくせに、どこかそわそわしてる。
りいながかばんをゴソゴソして、小さなラムネのボトルを取り出す。ふたは開いていて、ちょっと中身が減ってる。
「……海、いる?喉乾いてるなら」
海は二度見した。
「え!って、それ飲みかけじゃん!え、ってことは今、りいなの間接的な——え、なに?青春の罠?」
りいなは首をかしげて、「え?ラムネって炭酸だから、開けちゃうとすぐぬるくなるんだよね?早く飲んだほうがいいかなって」
完全に悪気ゼロ。しかも、気遣い全開。
海は頭抱える。「この人、まじで爆弾…天然すぎて俺の照れが片っ端から撃沈してくる……」
だけど、その言葉の裏側で、海はラムネのボトルを受け取りながら少しだけ微笑む。
「うん……もらうわ。ありがと」
りいなは笑顔でうなずいて、また窓の外を見てる。そのほっぺたに、少しだけ寝癖が残ってる。
海はそれを見て、たまらずりいなのほっぺを指先でツン。
「おいおい〜、修学旅行帰りに寝癖残してる女子って、ポイント高いって聞いたけど〜」
りいな「え?どこで聞いたの?そんなランキングあるの?」
海「いや、俺調べなんだけどさ、それ以外の調査ないっていうか、世界で今んとこ俺だけが言ってるっていうか…」
りいな「ふ〜ん。でもね、寝癖は…気づいたらもう遅いの、運命だよ」
その言葉のセンスが、なぜか名言っぽくて、海が吹き出す。
「おい天然…語録の神様か…」
バスの座席。ごちゃごちゃしてる荷物の隙間で、ふたりの距離は“なんでもないけど特別”なまま、揺れてる。
だれが見ても、付き合ってる感じではない。でも、確実に“他の誰とも違う”。
海は、ふとつぶやく。
「さっきのラムネ、俺一生忘れないわ。“飲みかけいる?”って、愛しさの暴力だろ」
りいな「…なんかごめんね?ふつうあげないよね?」
海「いや、いい。俺には、ふつうじゃないほうがいい」
バスの窓から、太陽の光が差し込む。ほんの少しだけ、りいなの髪の先が揺れた瞬間——海の視線がそこに止まった。
“また整えたくなる”って、昨日の夜に言いかけた言葉が、まだ胸に残ってた。
バスの座席。窓側のりいな、その隣にどっかり腰を下ろした海は、すっかり“マイ隣席”感を出してきている。ラムネの飲みかけ事件を乗り越え(忘れられず)、寝癖をいじって(愛しくて)、りいなの天然に悶えながらも、心はほくほく。
でもその空気、秒で崩される。
「おい海〜!隣うちじゃなかったっけ!?」 はるきが背後から乗り出してきて、海の頭をバシッと軽めに叩く。
「いや、昨日の夜、触れた関係者特権でしょ。りいなの隣、俺が予約してたもん」
りいな「え、そんなのあったんだ……」 天然発言に、海&はるきの表情が一瞬だけ一致して“もうこの子やばい”ってなる。
「はるき〜、後ろの席で景色と一緒に反省してきなよ」 海が雑にあしらおうとすると、すかさずもう一人現れる。
「ちょっとまって、それなら俺の方が先に予約してたんだけど」 透、冷静な顔で参戦。
海「おい透、理論攻めやめろ。バスの席に戦略使うな」
透「理論じゃない。“名札に触れた者は最優先権を持つ”って、俺の中の法律で決まってる」
りいな「え?名札タッチってそんな意味あったの?」
はるき「でた、純粋爆弾……天然の神」
海「…てか、りいなって全部真面目に受け止めるよね。逆に守りたくなる……ちょっと好きなんだけど」 小声で言ったつもりが、透とはるきにしっかり聞かれてる。
はるき「はーい出た告白未満!ポイントマイナス3!」 透「同意。でも、正直その発言、りいなの天然フィルターで無効化される未来しか見えない」
りいなは、そんな3人のバトルを「みんな仲良しだなぁ」と微笑んでいるだけ。
ラムネのふたをきゅっと閉めながら、「あ、さっきの残り、やっぱ冷えてきたかも。誰か飲む?」とまた爆弾を投下。
透「その温度感で、また恋が爆発する人いると思う」
海「俺もうさっき爆発済みなんでいいです…てかむしろもう好きって言いたい…無効化されるけど…」
はるき「おーい!そのセリフ、俺が先に言う予定だったんだけど!」
バスの中、空気が騒がしくて、笑いすぎて少し暑い。
それでも、りいなは何も知らず、ただ無防備で、みんなの中心に座っている。
そして海は、こっそり小声で言う。
「ねぇ、邪魔されるのも含めて、好きになりそうなんだけど」
りいな「え?今“好きになりそうな席”って言った?」
海「……うん。そんな感じ」
天然に振り回され、妨害にも負けず、それでも好きがじわじわ浸透していく。
それが、修学旅行の帰りのバスだった。
バスの中。修学旅行の帰り道、ざわつく空気。
窓側に座ってるりいな。その隣は今、海がすべり込んでご満悦中。でも、はるきと透がすぐ後ろの席からプレッシャーかけてきてる。
「いやそろそろ席交代タイムじゃない?回してこ、回してこ」 はるきが、ノリ半分・本気半分の声で攻めてくる。
「公平を期すなら、触れた順で並ぶべきだと思う。俺は名札に触れてるから最優先で」 透は何故か真面目モードで戦略的アピール。
海は、「はいはい、じゃあこのままじゃんけんでもしますぅ?」って軽口叩きながら、内心ヒヤヒヤ。
そんな空気のなか、肝心のりいなはというと——
持っていたラムネのボトルをふと見て、小声で言う。
「……あ。なんかこのラムネ、さっき飲みかけたまま放置してたかも……」
そしておもむろに、隣の海に差し出す。
「海、飲む?喉乾いてるならどうぞ」
一同、沈黙。
はるき「まって!?それ飲みかけじゃん!?」
透「間接的に好意の表明と受け取っても…?いいのか?それで…!」
海はすでに固まってる。「…いや、ありがたいけど…今この空気で!? 逆に俺が死ぬ!!」
りいなはニコニコしながら、「え?なんで?これって普通に“人類共有”って感じじゃないの?」と純粋な発言。
透「りいな…それは…愛が深すぎる…」
はるきは頭を抱えながら、「この子は…マジで恋愛兵器だよ……」
海はラムネを受け取りながら、「……うん、好きになっていいっすか?」
りいなは、「え?ラムネのこと?」って言いながら笑ってる。天然、無敵。
三人の男子は、それぞれ別の意味で崩れ落ちる。
バスは、ただ進む。外の景色よりまぶしい、窓際のりいな。争奪戦の中心で、まったく自覚なしに爆弾発言を連打していくその存在は、修学旅行最大のイベントだった。
バスの中、はるきは立ち上がった。
席はすでに決まってるはずなのに、りいなの隣に座る海をじーっと見つめて、唐突に宣言する。
「りいな、ちょっとだけ外、散歩しよ。サービスエリア、あと5分止まるって!俺の今しかないタイム!」
海「ちょ待って!?“今しかない”って俺の今なんだけど!?」
透「理論上、全員に“今”はあるので、言い方が不適切です」
はるき「黙れ、名札法!今は感情のターン!」
りいなはぽかんと聞いていたが、はるきが腕を引きながら「いこっ」と言うと、のんきに立ち上がってついていく。
海「ええええーー!こんな自然に連れ出される!?」
透「強引力…恐るべし」
そして、バスの外。はるきとりいなが並んで歩く。空気はどこかぎこちないけど、はるきはニヤついてる。
「さっきのバス、さぁ……なんかもう、海が調子乗っててさ。俺、りいなのこと……いや、まぁ、その、なんていうか」
ちょっと遠回しに照れながら話しかけたその瞬間。
りいな爆弾、落下。
「ねえねえ、はるきの制服って、洗剤変えた?さっきからずっと“あ、修学旅行の匂いだ”って思ってて…すごい“旅館”って感じする!」
沈黙。
はるき「……ちょっと待って。俺今、告白の入口だったの」
りいな「え?洗剤の話だったよ?」
はるき「いや告白の方だったよ!?制服から旅館って何!?俺の気持ちが旅館泊!?」
透(後方ベンチ)「爆発音、聞こえた」
海(イヤホン外し)「今の、死ぬほど可愛かったんだけど、俺の席、戻ってくる可能性ある?」
りいなは、そんな三人の思惑を一切気にすることなく、「ね、あそこの自販機、“恋みくじラムネ”って書いてあるよ〜!ご利益あるかな?」と無邪気に走り出す。
透「……神って、たまにこうやって地上に降りてくるんだな」
はるきは、自分の制服を見ながらぽつりと呟いた。
「俺…旅館の匂いって言われた男として、生きていくのか…」
海(遠くから)「俺なら“ラムネの渡し手”って肩書きで生きてくから、はるきの人生、ちょっと勝ってるかも」
そしてバスに戻る頃、りいなはまだ無自覚で、隣に座る海を見てニコッと笑う。
「はるき、なんか疲れてたね…海もラムネ飲む?」
また飲みかけ。
透とはるきは、後ろの席で静かにぶつぶつ言い合ってるけど、それもなんだか遠くに感じるくらい、りいなと海の間には、やわらかい空気が漂ってた。
りいなは、窓の外を見ながらぽつりとつぶやく。
「なんかね、帰るって不思議。たしかに行く前は“旅行”だったのに、帰り道はもう“思い出”なんだね」
海はその言葉にちょっとだけ目を丸くして、ゆるく笑う。
「……え、それめっちゃいいこと言うじゃん。ねえそれ、俺のこと好きなときに言うセリフ?」
りいなは「え?」ってふり返って、真顔で首をかしげる。
「好きなときって、どういうときだっけ?あ、でも昨日のラムネは好きだったかも」
海「ラムネが勝者だった……!」
でもその天然のやりとりに、海は照れてるというより、ほんの少しだけ、りいなの横顔に見とれていた。
バスが揺れて、窓からの陽射しが、りいなの髪をやさしく透かす。
「昨日さ、みんな順番に触れたでしょ?……俺、あれ、正直めっちゃ緊張したんだよね。でも、今の方が…なんか、もっと緊張してる」
その言葉に、りいなはほんの少し照れたように笑う。
「え?なんで?今は普通に隣に座ってるだけなのに」
「そう、“普通に”がいちばんドキドキするって話」
りいなは“ふつう”の意味を考えるみたいに少し首を傾げて、それからふわっと笑った。
「じゃあ、わたしが“ふつうに好き”って言ったら、それもドキドキ?」
海は反射的に固まって、それからゆっくりうなずく。
「うん。…爆発するかも」
ふたりの間には、昨日とは違う“静かなやりとり”があって、でもどこかで、ほんのり甘い“好きの予感”が広がってる。
争奪戦の余韻が後ろでくすぶる中、りいなと海だけが、修学旅行の帰り道にひとつだけ、“これから”を見ていた。
バスがゆっくりトンネルに入る。窓の外が暗くなって、一瞬だけ、ふたりの距離が、光から守られた。
そのとき、海はふと手を動かす。周りには気づかれないように、制服の袖で隠すようにして、りいなの手の近くに指先を寄せた。
りいなはそれに気づいていたけど、すぐには反応せず、窓の方を向いたまま、ちょっとだけ口角を上げてみせる。
トンネルの中、バスが微かに揺れる。その拍子に、ふたりの小指が、ほんの数ミリだけ、かすった。
海「あ……」
りいな「……わざと?」
海は“バレた”顔をして、慌てて前を向いたけれど、その耳がゆっくりと赤く染まっていくのを、りいなは見逃さなかった。
りいな「じゃあ…今度は、わたしが手を伸ばしてもいい?」
海はびっくりして、またりいなの顔を見る。その瞳の中には、昨日の騒ぎじゃなかった“静かな勇気”が宿っていた。
りいなは、おそるおそる、海の手の上に手を置いた。ほんの数秒だけ。すぐに離すけれど、海はその余韻に、何度もうなずいていた。
「爆発してないけど……心臓は暴れてる」
りいなはくすっと笑う。
「よかった。じゃあ、次のバス停まで暴れててもいいよ。わたし、そっと見てるから」
バスの窓から差し込む光は、少し眩しい。外の風景は見慣れた町に近づいてるはずなのに、りいなには、なんだか“帰る”実感がまだ湧かない。
でも、となりにいる海が、ちょっともぞもぞと体を動かしてるのを感じた瞬間—— “あ。ずっと一緒にいたんだな”って思う。
隣でふざけたり、冗談言ったり、ラムネの飲みかけを渡されたり…いろんなことがあったのに、不思議と疲れてない。むしろ、心だけがやさしく温まってる。
りいなが首をちょっと横に傾けると、海の肩に髪先がふれて、海はドキッとする。すぐにそらされるかと思ったのに、りいなはそのまま、自然に寄り添っていた。
そして、ゆるく、ぽつり。
「ねえ、ラムネってさ。…一緒に飲むと仲良くなるって、聞いたことある?」
海は吹き出しそうになりながら、必死にこらえてる。
「マジそれ、最強の告白じゃん…!いや、俺もう告られたってことでいいの?今の」
りいなは「え?」と目をぱちくり。
「だって、ラムネ飲んだの海だけじゃないよ?透とかはるきも飲んだし……あ、そっか。私、全員と仲良くなっちゃったんだ」
天然すぎて好感度爆弾が大爆発。
後ろの席で透とはるきが顔を見合わせる。
透「……認めるしかない。“告白未満で沼らせる天才”って」
はるき「俺もう“修学旅館の匂い”で生きていく覚悟できたよ」
その様子に気づかないまま、りいなは空のラムネボトルを振って音を聴いてる。
「カラカラしてる。…なんか好きかも、この音。なんか、夏っぽい」
海は目を閉じて、言葉にならない好きがまた1ミリ増えていく。
そして、バスが軽く揺れた拍子に、りいながふと手を伸ばし、海の袖を軽くつまんだ。
「ねえ、もしまた修学旅行行けるなら、次も隣、海がいいな」
その何気ない一言が、どんなキラキラのセリフよりも威力ある。
海は、言葉を飲み込みながら、少しだけ手を動かす。そしてそっと、りいなの小指に自分の指を添える。
りいなはくすぐったそうに笑って、「これって…小指結び?」と小声で聞く。
海「うん。次も隣って約束…ってことで」
指先だけの約束。誰にも見られてない、でもふたりだけは確かに結んでる。
後ろの席。
透「バレてないと思ってるの、あのふたり」
はるき「いや俺、旅館の匂いを引きずったまま消えゆくわ…青春って、こんなにも残酷だったっけ?」
バスはゆっくりと目的地へ近づいていく。
でもりいなと海は、指先の結び目に「このまま着かないでいいのに」って思っていた。
ふたりだけの修学旅行が、まだ終わらないように。
窓の外、夕方に近づく光。景色が少しずつ日常に戻っていく。
でも、りいなと海のあいだには、まだ“非日常”が残っていた。指先はちょっと触れていて、でもそれ以上には進まない。お互い、言葉にしないまま、ただずっと心臓の音を感じてる。
海は、ふと顔を伏せながらつぶやいた。
「ねえ…昨日さ、触れてみてわかった。言葉ってずるい。言える人が勝ちみたいで」
りいなは、その言葉の意味を少し考えて、それから首をかしげる。
「でも、触れるだけでも、気持ちって伝わったよ?わたし、昨日ちょっと…胸が熱くなった」
海は反応しかけて止まる。今、“好き”って言っていいタイミングだったかもしれない。でも、うまく言葉が出てこない。怖いわけじゃない。ただ…言ったら、この時間が変わってしまう気がして。
後ろの席で透が、はるきに小声で言う。
「…告白、来るぞ。たぶん今、秒読み入ってる」
「俺、もし“好き”って聞こえたら、一人でバスから降りるわ。もう無理。無理なんよ、好きって音」
でも、その“好き”はまだ来ない。
海はゆっくりと、りいなの髪に目をやる。そして手を伸ばしかけるけど、途中で止まる。
りいなは、その視線を察して、少しだけ肩を海の方に寄せる。
それだけで、言葉以上のあたたかさが広がった。
海「…なんかもう、言わなくてもわかってくれてる気がする」
りいな「うん。でも、たまには言ってみてもいいよ。たとえば、“今日隣に座れてうれしかった”とか」
その言葉に、海は笑ってしまう。
「それ言ったら、たぶん“好き”が出ちゃう」
りいな「じゃあ…“ちょっと好き”で止めてもいいよ」
“ちょっと好き” その甘すぎるワードに、透とはるきが悶絶してる後ろで、海はうなずいた。
「うん…“ちょっと”で、世界変わったかも」
りいなは、隣でぽそっと言った。
「わたしも。“ちょっと”好きだなって、思ってたよ。ずっと、遊びみたいなのばっかりだったのにね」
その声は静かすぎて、バスのエンジン音がかき消してしまいそうだった。けど、海だけには届いていた。
バスが停車する。
このまま降りたら、もう“学校のふたり”に戻るかもしれない。でも、あのトンネルで交わした小指の結び目。今ここでの、“ちょっと好き”のやりとり。
それは修学旅行の終わりじゃなく、“これから”の始まりだった。