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私は夫の会社のイベントで、顔見知りの社員水谷あかねから
会社での夫の近況の様子などを聞かされた。
どうも夫に付きまとっている女子社員がいるらしく、その彼女の
目に余る言動に黙っていられなくなったのだという。
- 付きまとっている馬場真莉愛という社員が、夫との出張時に自ら起こした
出来事と、これまでの残業中にあった彼女と夫との会話をこっそりと録画し、それをYoutubeにuoloadしているというものだ。-
私はそれでもなんとかその時は平常心でいられた。
けれどその日、予め用意しておいたのだろうブログアドレスのメモを
水谷さんから渡された後では、到底胸のドキドキを止められるはずも
なかった。
帰宅した翌日、はやる気持ちを抑えきれない……そんな心持で
馬場真莉愛のブログを見た。
uploadされていた動画はいくつかあって、馬場真莉愛は水谷女子には
すぐに削除すると言ってたようだが、残っていた。
見た後、とても平静ではいられなかった。
この日は日曜日だった為、日頃の疲れもあってか夫はまだ
ぐっすりと眠っている。
夫が起きてきたら、どんな顔で会話を交わせばいいのか。
いくつもの動画の中の夫は、いつの時も上手に馬鹿な女の
言葉をかわしていた。
だけど、その中にあった動画のひとつは、私にとって人生をかけるほど
拘りのあるモノとなった。
到底看過できるものではない。
8-2
けれどそれは、夫に面と向かって問い詰められるようなことでもなかった。
非常にデリケートな問題だ。
だけど、こんなデリケートな問題を……
こともあろうに、あんな鶏頭の女にあっさりと話すなんて。
それは私が最近ずっと気にしていたことでもあったのだ。
そう、私たちは息子が産まれて数ヶ月になるけれど、夫婦生活が
一切なかった。
どうしたの?
どうして?
私の子育てがひと段落つくのを待ってるの?
何度も喉から出掛かった言葉。
だけど、真莉愛の作ったという動画の中で夫ははっきりと
その理由を語っていた。
もはや、質問する意味はなくなった。
私のことは、もう性愛の対象ではない……と夫は言い切っている。
そんな夫に一体、私から何が出来るのか。
まだこんなに若いのに?
悶々と誰にも言えない問題を抱えてこの先、夫婦でいられるのか?
予想だにしてなかった展開に……
私は出せない答えを抱えながら暮らすことになった。
どうしてこんなことに。
夫の考えが理解できなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
産後のことだった。
1ヶ月里帰りをした時のこと。
父親が病院まで迎えに来てくれて、母があれこれ準備してくれている
実家に向かう道すがら車の中のこと。
カーラジオからたまたま流れていた夫婦のSEXの話。
はっきり覚えているのは、子供を何人か産んだ後、もっともっと
夫婦のSEXは良いものになると医師と誰だかが薀蓄を垂れていた。
はしたないかもしれないが、私は夫婦の営みは嫌いじゃない。
そして肌と肌の触れ合いも夫婦にとっては大切なモノだと
思っている。
そんな私だから……実は産後の夫婦生活を逆に楽しみに
していたほどなのだ。
女性によっては、逆に夫と同じような理由とか、産後特に身体に
触れられるのが嫌になったとかっていう人も中にはいるらしいけれど。
私は違った。
それはそれは楽しみにしていたのだ。
またレスのままだと、夫の浮気の心配も出てくる。
そういった疑ったりすることも嫌だ。
このまま一生レスであるとするなら、夫の浮気もずっと気に掛けて
暮らしていかなければならないだろう。
そんな風に考えながら、私はこうも思った。
真莉愛は鶏頭のいかれた女だが、いい仕事をしてくれたのかも
しれないと。
真莉愛が夫から本心を引き出してくれていなければ
きっと私は延々とその思いを知らずに暮らしていたのかも
しれないから。
そうだよ、悲しいことだけど真実を知ることは……
現実を見ることは……大切だ。
そしてこの後2ヶ月後に、由宇子は夫将康から単身赴任の話を
聞いたのだった。 (一話へと繋がる)
もともと自分には伸び代があって、どこまでやれるか
試してみたいと夫は言う。
そして、赴任後こちらへ戻ってきた時には年収がざっと
約今の2倍位にはなる。
収入のことも理由のひとつであることは否めないと言う。
目をキラキラと輝かせて新天地での仕事のことを語る
夫を見ていると強く反対することも出来なかったっていうか……
何よりこれまでの私たち夫婦の関係を鑑みて、反対する気に
なれなかったと言ったほうが正しいかもしれない。
考えるところがあり、私は夫に言った。
「単身赴任って、リスクがあるよね?」
「例えば?」
「浮気に走る男性が多いって聞くわ。
お互いに浮気したら離婚っていうのは結婚する時に
誓ってるけど、これからあなた単身赴任するわけで
実際リスクが大きくなると思うのね。
その時揉めるの嫌だから離婚届け書いておいてほしいの」
そう言って前もって用意しておいた緑の紙を夫に渡した。
「わかった。
単身先へ行くまでに書かないといけない欄を埋めて君に渡すよ。
俺は平気だよ?
君にこの届けを出されない自信があるからね。
仕事がしたくて君や子供たちと離れてまで行くのだから
君以外の女性に余所見したりするはずないだろ?
世間のいい加減な意見に惑わされないでほしいな」
結局単身赴任を許した形になったけれど、最後まで私は
賛成するとはひと言も言っていない。
なのにそれでもこの人は行くのだ。
交際している時もプロポーズされてからも私のことを
一番に考えてくれた夫が今、私の気持ちよりも自分の気持ちを
優先させるのを目の当たりにし、私は思った。
夫の私への気持ちは、いつの間にか小さなモノになって
しまったのだと。