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白黒蝶の夢

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白黒蝶の夢

1 - プロローグ

2022年01月15日

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 それは一二○○年の昔……。名もない集落の端に一人の人間がいた。

 その人間は大きな「力」を持っていた。僅かの力も入れず人の何倍も大きな岩を動かし、地を削り、天候を操り、人の心を読み、病を治すその人間の噂は、瞬く間にあちこちの集落に広まった。

 やがて神と呼ばれるようになった「それ」は、十二人の人間に「力」の一部を授け、守り伝えていくようにと告げた。その言葉を受け各地へ旅に出た十二人は、ある所では神の子として崇められ、またある所では「異端児」と恐れられながら人々にその力を伝えていった。

 人々に伝えられた力は親から子へ、子から孫へと繋がり、様々に広がっては混じり合い、いつしか「一人の人間はひとつの力しか保持できない」という法則を持つようになった。

 そうして力を持った人間のことを、人々は「異端児―パイオニア―」と呼ぶようになったのだという。


―時は流れ、二○五○年。東京のビル街を見下ろす一際高い建物の最上階で、三人の男女が会話をしていた。

「今日の商談が上手く行ってくれたおかげでうちはしばらく安泰だ。ありがとう、あやめ」

 そう云ったのはこのビルの所有者であり「夜見森グループ」CEOの夜見森誠司。「相手の力量を読む力」を持つ異端児である。

「お礼を云われることじゃありませんよ。私は当然のことをしたまで、です」

 応える声の持ち主は、誠司の養女であり第一秘書、「足元から弾丸を撃ち出す力」を持つ異端児の夜見森あやめ。

「……別に、商談の一つやニつで夜見森の今後は決まらない」

 と云うのは、あやめと同じく誠司の養女であり第二秘書、「物体を重力から解き放つ力」を持つ異端児の夜見森鳴華。

「鳴華は手厳しいですね……まぁ、的を射ていると云えばそうですけど」

「……でも、今回のは確かにあやめのお手柄。私じゃきっと成功しなかった」

「ニ人は本当に仲が良いねぇ…さ、商談の成功を祝して乾杯しよう」

 誠司は赤ワイン、あやめは桜のカクテル、鳴華は白ワインの入ったグラスを持ち、誠司の声に合わせて乾杯をする。

「眠らない街の異端児に―乾杯」


「……そういえば」

 全員のグラスが空になったところで、鳴華が声をあげる。

「どうしました?」

「えっと…『夜鷹』の件、どうなったのかなって」

 「夜鷹」という言葉に、一瞬場の空気が凍りつく。しかし、すぐに誠司が穏やかな声色で告げる。

「彼らはしっかり『処理』したよ……私たちの秘密が知られてしまったら大変だからね」

 その言葉に、あやめと鳴華のニ人はほっと胸を撫で下ろす。

「そう…善かった」

「お養父さんはいつも仕事がお早くて尊敬します…ごめんなさい、本当は私がもっとしっかりしていれば起きなかったことですのに」

「善いんだよ。次から気をつけてさえくれたら、それで善い」

 落ち込むあやめの肩を優しくたたき、誠司は柔らかな微笑を浮かべる。

「そうだよ、仕方ない。あれは防ぎ様がなかった」

「そう……ですね。ありがとうございます、ニ人とも」

 背中に回された鳴華の手に反応して顔を上げ、あやめはもう一度「ありがとうございます」と呟く。

「…しんみりしてしまったね。どうする?まだ呑み足りないなら飲み物を用意するけど」

 「飲み物を用意する」の言葉に、部屋の外から音もなく黒服の男が現れる。それを一瞥したあやめが「じゃあ…もう一杯だけ呑みましょうか」と云うのに頷き、鳴華も「うん、もう一杯」と続ける。ニ人の言葉と誠司の目配せに頷き、黒服は入ってきた時と同じ様に音もなく部屋を出る。


 やがて運ばれてきた飲み物を飲みながら、三人は他愛もない会話を続ける。それは最近新しくできた子会社の商品のことであったり、次の商談の話であったり…そんな談笑はしばらく続き、今日の日本の平和なさまを体現しているように見えた。

 ……しかし、そうではない。平和は決して長く続きはしない。夜の東京は今や、異端児の集まる無法地帯と化している。あちこちの会社は裏で異端児を集めた犯罪組織を囲い、あるいは作り出して支配している。無論、夜見森グループとて例外ではない。 

 鳴華の云った「夜鷹」という言葉。それも異端児から成る犯罪組織の名称である。夜鷹は彼らから、公になれば夜見森グループが転覆しかねない秘密を盗もうとし、そして組織ごと消されたのだ。

 夜見森グループの抱える秘密―それは、裏社会を牛耳る「もう一つの顔」を持っていること。異端児の集まる犯罪組織「月の夢」を支配していること―。

 これは、そんな二つの顔を持つ夜見森の、東京の…そして、異端児たちの紡ぎ出すモノガタリである―。

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