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rt side
ある日。
テツは久々に俺と仕事休みを合わせることができ、俺の家に一晩泊まりに来ていた。
泊まることが決定したときのテツはそれはもう目をキラキラと輝かせ、俺と何をするか嬉々とした様子で考えていたようだった。
実際テツが家に来た時大量のお菓子やコーラなどの飲み物が入ったコンビニ袋を持ってうずうずした様子で家に上がった。
そしてソファに座ると俺と見たいという映画ややりたいゲームなんかをスマホにリストアップしたものを俺に嬉しそうに見せてくるもんだから、俺は内心「かわい〜コイツ」と思いながらテツの頭をわしゃっと撫で回した。
「えぇ〜…劇中歌良くない?
つかリト君絶対似合うだろこの曲」
「マジ?でも最初の曲もめっちゃいいから
テツに歌ってみてほしいわ」
「っへへ、そんな褒めても何も出ませんて兄さん〜」
「褒めたのはお前じゃなくて曲ね」
「こんっのガキャァ…!」
「テツ〜?お前今何位〜??」
「へっ、誰が教えるあ”いってぇ”!!」
「オッケー安定の最下位ね
ミニマップの最後尾にケツアゴいるわ」
「いや、俺はそこからサンダーとキラーで
這い上がってくるから」
「www
じゃあ上で待ってるw」
と、こんなふうに映画やらゲームやらで時間を潰した。
風呂に関しては最初一緒に入ろうかと思ったが、テツにもキャパはあるだろうしと踏みとどまった。
俺とキリンちゃんがテツに家主だからと促され先に入り、上がった後入れ替わりでテツが入った。
上がったテツはTシャツと半ズボン、肩にかけたタオルという格好でおまけに髪を乾かさずにリビングに入ってきたので、流石に風邪引くぞと注意して俺が髪を乾かしてあげることになった。
「…テツ?テツー?」
「…ん、」
「寝かけてんじゃんお前」
「いや…俺リト君に髪乾かされるのヤバいわ
なんか気持ちよくて寝そう」
「…っお前なぁ…」
座った状態でこじんまりとして、ぽやぽやといった様子でそんな事を言うテツに少しのキューアグをぐっとこらえながらそのまま髪を乾かした。
その後の晩御飯は某配達によるピザで、テツが買ってきたコーラとともにお腹いっぱい食べた。
食べ終わって諸々片付けた後別のゲームをすることになった。さっきのようなバチバチレースゲームではなく比較的のんびり出来て雑談だって軽くできる程度にちょうどいいゲームだ。
俺達は雑談もそこそこにゲームを進めて、ふとある疑問が浮かんできた。
「そういえばテツさぁ…
俺になんかしてほしい事とかねぇの」
「…はい?」
テツは驚いた様子でこちらに顔を向け口をぽかんと半開きにして固まった。これが所謂たまにテツが言う「宇宙猫」状態か。と一人で感心しているとテツは「ど、どうしたよ急に」と喉から絞り出すような声でこちらに問を返した。
「俺ら付き合ってるじゃん?
でもテツってあんまおねだりとかしねぇなって」
「オネダリ…」
テツがぼっと顔を赤くしてオウム返しになっていて、抱きしめてぇ〜、と内心考えるが今は俺がテツのおねだりを聞きたいのでぐっと耐えた。
「…ぁ〜…そのですね…
初っ端カップルがするみたいなのは無理だからさ…
けど…じゃあ一個、いいっすかね…」
「おう、言ってみろ言ってみろ」
「俺がさぁ、___」
そこで、目が覚めた。
数日前の夢を見ていた気がする。随分と鮮明に映し出したもんだ。
そんな呑気な事を考えていると、ズキリと激しい痛みが電流のように全身に走った。おまけに片方の目には額から出血した血を被ってしまっていて開けない状態だった。
思考を巡らせて、俺はOriensのメンバーと共に特殊なKOZAKA-Cと戦闘中、後一体という時放たれた攻撃によって吹き飛ばされ壁に叩きつけられたのだ。それで気絶して今目が覚めたことを思い出した。
多分、西あたりの妖魔などの力を吸収したのだろう。異質な光を放つような攻撃を会得したKOZAKA-Cは俺だけでなくマナやウェン、テツをも瓦礫や地面に叩きつけそれを楽しんでいるようだった。
俺は痛みと壁に打ち付けられた衝撃で未だに体がビリビリと痺れていて指一本動かせなかった。
そんな中KOZAKA-Cはケタケタと嘲笑うようにニヤリと顔を歪めた。このままでは一般人までもが襲われてしまう。
「…うごけよ、」
ぽつりとこぼれた俺の独り言のような言葉は誰にも答えられることはなく、ただただ消えていくだけだった。最終手段である雷だって毎回それなりに体に負荷がかかる。こんなぼろぼろの状態では自殺行為だ。
くっそ、と内心舌打ちしているとどこからか歯を食いしばるような苦しげな声が聞こえてきた。
「ぐッ、は、ぁ…ッ」
テツだ。テツは傷だらけで服もぼろぼろな状態で立ち上がった。その足取りはあまりにもふらふらだった。恐らくテツももう限界が近いのだ。
「て、つ…?」
俺が絞り出した声も聞こえなかったのか、テツはふらふらのままナイフを握り直した。その手も力なくふるふると震えていて今にもナイフが落ちそうだった。
それでも雄叫びのような声を上げるとKOZAKA-Cに切りかかった。
が、それに気づいていたKOZAKA-Cは自身の腕でナイフを受け止めた。ガキン、と硬い金属同士がぶつかるような音が鳴り時々火花のような光が散った。
「ぐぅッ〜〜…ッ!!」
ガチガチと金属音があたりに鳴り響く。テツは踏ん張ってはいるものの押し負けそうだった。
俺は未だ体を動かすことが出来ない。ウェンやマナも気絶していて動く気配がない。ただただ見ていることしか出来ない。
悔しい。苦しい。テツはあんなにも勇敢に立ち向かってくれているのに。どうしたら。どうすれば。
ぐるぐると思考がぐちゃりと歪んでいく中で、ふと、あの日のテツの言葉の続きと会話を思い出した。
『俺がさぁ、負けそうになったり、
くじけそうになったりとか…まぁ、そんな時にさ』
『応援…してほしい、かな』
『応援…?』
『頑張れ、負けるなみたいな感じの…
ヒーローって応援で力が湧いたりするだろ?』
『多分俺、リト君に応援されたら
絶対無敵になれると思うんだよ』
「くっそコイツ…!無駄にかってぇ体
しやがって…!!」
目の前では未だにKOZAKA-Cとテツの攻防戦は続いていて、テツはKOZAKA-Cに悪態をつきながらそれでも立ち向かい続けていた。
俺は意を決して大きく息を吸い込んだ。
がんばれ。がんばれ。
「負けんな、テツ!!」
唯一動く口で力の限り叫んだ。
テツは俺の声に一瞬体をピタリと止めると、次にはニヤリと犬歯を見せて笑った。
「ッぁあ”あぁ”ぁぁぁ”あッッ”!!」
テツは大きくナイフを振りかぶると、KOZAKA-Cの脳天を捉え全部を振り絞るような声を上げながら貫いた。
KOZAKA-Cは声にならないような断末魔を放ちながらもともとそこにいなかったかのようにさらさらと消えていった。
テツはそこでぷつんと糸が切れたようにその場にバタリと倒れた。
「ッテツ!」
俺はまだ思うように動けない体に鞭を打って、半ば引きずるようにテツのもとに駆け寄った。
口を小さく開いたままにして肩で息をし、どこかボーっとした表情のテツは俺の姿を瞳に映すと、何も言わず己の拳を天に向かって力強く突き伸ばした。
俺はその様子を瞬きしながらみて、ふは、と吹き出すように笑った。
「お前、マジで無敵じゃん!」
END.