テラーノベル
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菫も後ろにいる大藤刑事も小さく息を呑む。シュートが述べた内容もそうだが、彼
から発されたプレッシャーに気圧されてしまっている。実際この時のシュートは感情的になったことでついスキルを少し発動してしまっていた。
またシュートは自分に酔ってもいた。中里たちに虐められて以降、正義の意味を大きく変えてそれを理想とするようになった。それからしばらくして異世界で力を得たことでその理想が実現出来ると確信し始めた。異世界の力を手にして強くなり、何でも出来るようにもなった自分に、シュートは陶酔するようになった。
今だってシュートは正しいことを述べたのだ、とも思っている。しかしそれはやはりシュートだけがそう思っていただけで、大人の刑事たちはそうは思っていない。
「………年頃の少年が、考えそうなことだな。いや、それよりも未熟、か」
「なんだと?」
大藤の言葉にシュートは思わず反応して、彼を睨みつける。大藤はふんと小さく息を吐いて続ける。
「君はまだ中学生…まだまだ若い。世の中には嫌なことが腐る程にある。そしてそれらは自分に嫌と言う程降りかかる。
虐めは確かに良くないことだ。仕返したい気持ちも分かる。しかし感情のままに動いては、今の君のように罪に問われることになる。君が今日やったことは、下手をすれば殺人になるところだったんだぞ」
「はん、別に死んでくれたって良かったんだ、あんな奴ら」
「………自分が何を言ったのか、分かってるのか?」
「もちろん。あいつらは理不尽に人を傷つけたり陥れたりするような、最低のクズだ。あいつらを復讐で殺さなかったのは、俺があいつらに殺されるまでのことをされなかったから、それだけ。もし俺があいつらに刃物でぶっ刺されて、死ぬ間際まで追い詰められでもしてたら、迷わず殺してやったさ」
「その結果、三ツ木君が犯罪者として扱われて、何十年もしくは一生刑務所で過ごすことになっても、そうするつもりなのかい?」
菫が二人の口論に割って入る。
「もちろん。やられた分を少し過剰にしてやり返すのが復讐だと思ってるから」
「自分の人生…何もかもを犠牲にしてでもかい?」
「それを犠牲にして自分が救われるのなら、喜んでそうしてやる」
シュートの躊躇の無い返答に二人とも眉をひそめる。
「考えもしないで答えるな。後でどうにでもなると思い込んでいるようにしか見えない。傷害だけでも罪は重いんだぞ?ましてや複数の人間にそれをするなど…」
「どうにでもできるんだよ。俺には凄い力があるから」
「まだ中学生とはいえ君はあの名門校の生徒なのだろう?そんな学生が、そんな子どもじみたことを言うとはな」
「……さっきから何なんだあんたは?俺と同じ学生だった頃はどうせ、さぞ不自由なく生きてたんだろうな。理不尽な虐めに遭うこともなく、友達に恵まれたような奴。そんなあんたに、理不尽な虐めを受けてきた俺の気持ちなんて分からないから、そんなことが言えるんだ!」
#執着攻め
15
こはる
シュートはそれだけ言って大藤から目を逸らす。彼とはもう何も話さないつもりでいる。
(頭脳と精神面はまだ年相応…いやそれ以下か。傲慢で、馬鹿にされることを嫌う。そして幼稚な思想……まさに未熟な子供だ)
大藤は少ない会話で相手を見抜くのを得意としている。彼はシュートの未熟さを見抜いていた。
「………大藤刑事の言う通り、三ツ木君はまだ未成年だ。何でも決断を下すにはまだ早いと思う。君が言ったことが本当に正しいことなのか、ゆっくり時間をかけて考えるべきだ」
「……………」
菫の諭しをシュートは内心鼻で笑う。何が正しいかどうかは、自分で決めれば良い。二人の刑事の言葉を、シュートは忘れることにする。そんな彼を菫は複雑な気持ちを抱いて見ている。
(……何が大切なのか。この子が何を大切に想ってるのか。それがきちんと分かってあげれば、もう少し説得が出来ると思うのだけど……)
再び黙って調書を記しながら、菫はシュートのことについて思考する。
(正義…この子にとっての正義が大切なものだとするなら、厄介ではあるね……。この子は自分を傷つけようとする者を、手段選ぶことなく排除して良いと考えている。
破壊願望のある思春期の子どもも、世の中にはそれなりにいる。けれど大抵の子どもは年を重ねて大人へ近づくにつれて思い描いていた行いが物理的・常識的に不可能と分かるようになり、浅はかだったと理性が働いて、描いていた破滅的な考えは次第に消えていく。それが“普通”だ。だけど……)
菫はちらとシュートを見る。そしてわずかな汗を滲ませる。
(だけど……この子から伝わる自信、この目で見ていないから分からないが、この子が持つとされてる未知の力…。さらにこの子にある傲慢性と破滅的思考、それらによる危険性。
この子は将来、幼い頃…というか今思い描いている危ない願望を実現させてしまうかもしれない。
この子はまだ思春期の年頃だから、純粋さがある。何でも吸収して、影響されやすいところもあるかもしれない)
菫はこれまで非行に走った何人もの未成年を補導し、犯罪を犯した未成年を取り締まり、相対したことがある。その中でもシュートはこれまでの問題児を凌駕するやもしれない超問題児なのかもしれない、と彼女は危惧するのだった。
異世界の力があることなど知りもしない菫たちにとって、シュートは大口をたたく子どもとしか思っていないが、菫はシュートが口に出したこと全てが少なくとも嘘ではなく本心から言ったことであると推測していた。
菫が調書を記し終えた直後、電話が鳴って大藤がそれに応じる。そして二人に聞こえるよう内容を告げる。
「君の両親が署に来たと報告が入った。事前に勤め先に連絡していたとはいえ、早い到着だ」
そのことを聞いたシュートは大して意外には思わなかった。子どもが警察にいると聞けば流石に放置してられないだろう。何よりも自分たちの沽券や世間体にふれることになる。
「というか、このまま留置とかされると思ってたんすけど。そっから下手すれば少年院に送られたりもして」
「残念ながらお前が生徒たちに暴力を振るったという物的な証拠が一つも挙げられていないからな。それらが一つでも見つからない以上いきなり少年院へぶち込むことは出来ない。もっとも、お前の口から犯行を認めることを聞いた以上、覆ることも十分あり得るがな」
お前には聞いてねぇよ、とシュートは大藤を内心で罵る。
「あーあ、あの二人(=両親)に何言われるやら」
「とにかくまずは心配や迷惑かけたことに謝ること。親御さん方に連絡を入れてからまだ一時間程度しか経っていない。慌てて署まで来てくれたんだろうね」
菫がまた諭すように話しかけるが、シュートは別のことで困っていた。それは急成長した自分の体見た両親がどう思うのか、である。二人はまだ成長したシュートを目にしていない。まさかこんな形で二人に初めて見せることになるとは、とシュートはやや苦い思いをしていた。
「さぁ行こうか。事情聴取はひとまずこれで終わりだ。親御さんと家に帰って、じくり話し合うんだよ」
ぽんと菫はシュートの背中を優しく叩く。彼女からは香水ではない何か良い香りがして、シュートは彼女をチラ見する。
(この女刑事はまともで良い人間…なんだと思う。異世界のサニィとは違った、何となく親しめそうな感じもする。この女には嫌味が全く無かったし、割と親身になってくれた気もした。子どもの俺に目線を合わせて話して……悪い感じはしなかった。
まぁ、もう一人の中年刑事は、クソだったな。虐められてた人間の気持ちなんて知ろうともしない、警察という地位を持っていい気になってるだけの、偽善野郎だ)
この瞬間、シュートは二人の命の価値を定めた。花宮菫は善人であり今後窮地に陥ってたら救うべき人間、一方の大藤は自分にとって価値が無くて何の益をもたらさない人間で、死にそうになってても助ける必要は無い、と。
署の一階のロビーに降りるとそこにシュートがよく知る人物が二人…彼の父親と母親がいた。
まず母親…三ツ木羽佳理が花宮に頭を下げて、息子が迷惑かけたことの謝罪をする。次いで隣にいるシュートに目を向けた途端、ギョッとした顔になる。
羽佳理のリアクションに花宮が首を傾げる中、父親…三ツ木彰司は三白眼の瞳をシュートに少し向けるだけで何も言わずに、母親と同じく頭を軽く下げるだけだった。
父親は成長したシュートを見ても大して動じてはおらず、母羽佳理の方は今のシュートを見て明らかな違和感を示していた。小声で「柊人なの?」と何度も問うて、目の前にいる少年が自分たちの息子…柊人であると分かるまで時間を要した。
「……………」
そして父彰司が急成長したシュートを目にしても何のリアクションを見せなかったのは、彼が我が子への関心が薄過ぎるのが理由である。シュートが中学校へ通うようになってから、彰司がシュートと顔を合わせることは滅多に無くなっていた。家に帰ったとしても彼はシュートの顔をあまり見ることもしなかった。
それが積み重なった結果、彰司はシュートの顔をちゃんと覚えておらず、急成長した姿を見ても「こんなものだったか」としか思っていないのである。
母親と比べて父親はシュートへの関心がかなり薄いとされている。
「はい……では、これで」
菫との話を終えるやいなや、彰司はシュートたちに背を向けてすたすたと署から出て行った。羽佳理も刑事たちに一礼してからシュートに行くよと帰宅を促して彰司の後を追う。
(はぁ……帰ったらめんどい話をやりそうだ。久々の家族の会話が、そんなめんどいことになるとは)
溜め息をついてシュートも家へ帰るべく署を出ようとする。そんな彼に菫が声をかける。
「三ツ木君、学校に行くことがあれば紅実と仲良くやってほしい。それと、これ以上行き過ぎた事を起こしてはダメだからね」
シュートは無言で菫に一礼してから立ち去っていった。菫がシュートの背をしばらく見つめていると大藤刑事が声をかける。
「あの少年、将来的に野放しにするのは危ういと思える……。彼の犯罪予防について考える必要があるな。それよか花宮よ、彼のことが気になってるみたいだな?」
「はい……。これまでたくさんの未成年を補導・取り締まりをしてきましたが、あんな子は初めてでしたから。これまでの子たちとは……何かが違って見えるんです」
菫はそう答えてからシュートの今後に少し懸念を抱く。
(あの子が今回以上の事件や騒動を起こすことはあまり考えたくないけど、放ってもおけないな。親御さんたちはどこか彼と上手くやれてるようには見えなかった……。
あの子が将来的に正しいバランスを保てるのかどうかが気になって仕方がない)
どうしてシュートをこんなに気にかけてしまうのかと、菫は自分に少し戸惑っている。姪である紅実と同じ学校に通っている子だからなのか、それ以外の何かに引き寄せられたのか、彼女にはまだはっきり出来ないことだった。
(正しい方向に導いてやれるかは分からない。けど大きく外れた方にいかないようにはしてあげたいな…。今後あの子と関わりがあれば、の話だけど)
そう考える菫は、シュートとまたどこかで会えること(取り調べ室以外で)を少し望んでもいた。
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花宮菫……27才 身長169㎝ バスト:Eカップ 典型的な出てるところは出て引っ込むところは引っ込んでいる体型 黒い髪のポニーテール(解くと背中半分かかるくらいの長さになる)
花宮紅実の叔母(紅実母の妹)にあたる 他県から都内に転勤 刑事歴約2年
中学から剣道部に入り、大学生時代ではインカレで優勝、日本選手権と国体でともに賞を獲得したことがある。
趣味は映画観賞(恋愛系がお気に入り)
非行少年・少女を何人か更生させた実績があり、上司・同僚・部下全てから厚い信頼を得ている。
コメント
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おお、42話読み終えたわ。シュートの正義感が暴走しそうでヒヤヒヤしたな…。「♡♡♡ても良かった」って台詞、彼の心の闇の深さがガチで伝わってきて怖かった。でもその一方で、菫刑事がちゃんと向き合おうとしてるのが救い。親父の無関心っぷりも胸クソ悪いけど、それでますますシュートの孤独が際立ったわ。この子、誰かに止めてもらわないとマジでやらかしそうで、続きが気になる🔥