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那覇side.
「意外でした」
浦添の発言に、何が?とわたしは首を傾げた。そして数拍おいて、わたしは浦添の発言の意味を理解した。
「…あぁ、わたしがお前を選んだこと?」
はい、と言うように彼は首を縦に振った。別に意外でも何でもない。わたしは勝手にそう思っていたけど、彼からしてみれば違ったらしい。…いまだにわたしが浦添のことを嫌っていると思っているのだろうか。いや、確かにまだ嫌いではあるが。
「合理的に考えたらそうなっただけだよ。名護や豊見、糸満は視野にはあった、けど物足りない。うるまや縄、宜野湾は急に意味不明なところに投げ出されたらパニックになる。元の人口に加えて精神力が伴ってるのはお前くらいだからね。実際、コレが殺し合いって明かされたときに、わたしは最善の選択をしたって思った」
それに、浦添はわたしと同じで、大切なものを守るためには手段を択ばない節がある。今回の殺し合いは勝ち残った一組だけが元の世界に帰れると思っていいだろう。琉球のため、そう言えば彼はわたしたちに合った立ち回りで最適解を使って勝ちに行くだろうから。他の沖縄の都市にはできない芸当。強いて言うなら名護はできるとは思うけど。
「…俺が那覇に対して協力的ではない場合、というのは考えなかったのでしょうか?」
「協力的とか反抗的とか、正直言ってどうでもいいの。沖縄に戻れば結局いつも通り。お前は浦添にこもって、わたしは県庁として働く。戻ることに意味があって、戻ることが最も琉球のためになること。お前はそれをすぐに理解できるでしょ。結局目指す道は同じわけだから」
わたしは県庁。最も県の利益になることを考えて、最も県に損害を出さない方法を考える。その利益の計算に、好きだの嫌いだの、私情を挟んではいけない。
「言っていいなら、わたしはお前のことが嫌いだよ。お嬢様といつも対立してた、わたしの敵。けどお前の琉球を思う気持ちは間違いないから、この間は協力できると思った」
お前は最も琉球のためとなることをする。自分の手から離れた家族を助けるためにはそうするのが一番だと彼自身分かっているから。お互い嫌いあっていても、お互い助け合うしか勝ち残る手段がない。わたしはそれを利用する。
「俺も嫌いですよ」
彼はそう言ったのちに少し溜息をついた。感情の整理くらい必要だろう。大丈夫、わたしたちは両方理性という名の仮面をかぶれる。最も合理的に、最も機械的に動けばいい。それだけなのだから。
「…俺たちは基本、相手から仕掛けられたときのみ攻撃を開始します。それでいいですね」
浦添の提案に頷く。沖縄の土地精霊としては、完全に失格かもしれない。でも、殺し合いで殺さないで、戦わないで、なんてバカな戯言、通用しない。昔の琉球の国だってそうだった。自分の身は自分で守らなくちゃいけない。ここを乗り越えて沖縄に戻れば、平和な日常がわたしたちを待ってるんだから。
名古屋side.
名古屋、まだルール読んでるの?と相方の一宮から声をかけられる。ルールを熟読しておくのに損はないだろ、と彼に返すと、ふぅんと興味なさ気な返答をもらった。あのモニターでのルール説明で、少し気がかりなところがあった。東京都特別区についての話だ。最初の一文でのみ触れられている、個人参加ということ。それからモニターの方には書かれていないが、インカムから開けるメニューのルールの方には書かれていたアイテムとバフという存在。どちらもあまりに簡潔に書かれすぎていて、逆にどういう解釈を取ればよいのかさっぱり分からないのだ。
特別区の方に関しては、特別区が任意での参加となるのか、オレらのように、唐突に飛ばされて半ば強制的に参加させられているのか。任意であるならば物好きな奴ら以外は参加しないとみていい。ただし、半ば強制だった場合は話が変わる。都区部も全力で生に執着してくるわけで、殺し合いが加速するだろう。何せアレの大半は乱世を経験していない生まれなのだから。
都区部の本気を見る機会など早々ないため気になるが、下手すればオレですら逝く可能性がある。特に旧江戸四宿と当たった場合。オレと一宮で正面から力業で負けるようなことは殆どないが、実力が不明瞭な都区部と戦うことは最大限避けるべきだろう。
次にアイテムとバフ。バフの付与条件も記載されていないうえ、アイテムはどのようなものがあるのかが分からない。順当にゲームを考えると、アイテムはそれこそ武器なのだが、武器に関してオレたち精霊は生み出すように取り出すことができる。慣れた武器から変える奴がいないこともないが、変える奴らは恐らく少数。そう考えると武器ではない、と結論付けることこそ最も妥当な気がした。
「ん?読み終わった?」
オレが顔を上げると一宮が覗き込むようにオレの顔を見てくる。終わった、そう返すと一宮はなら良かった、とだけ言ってモニターに表示された読了をタップした。暇をしていたのか一宮はどこからともなく糸を取り出してミサンガを編んでいた。相変わらず器用なものだと思う。即興で作り出したにしては妙に長いそれを見ていると、一宮から声をかけられる。
「名古屋、手、出して」
一宮からの要望に応えて彼の方に手を向けると彼はそのミサンガをくるりとオレの手首に巻いた。
「…え?」
「…?どうしたの?お守りだけど?」
ピッタリだね、よかった、と見当違いなことをほざく一宮に疑問符を隠せなくなってくる。
「いや、お守りって…、え、いつから用意して」
「1週間前かな。守山や熱田にお前のことを相談したら、お守りを作ってやったらどうだって言われて」
俺、尾張国一宮だし、少なくとも霊力をちょっと込めればお前を守る効果くらい出てくれないかなって思って作ったんだ。そしたらちょうど、俺もお前も危険にさらされるような状況になったから、ある意味タイミングが良かったのかもしれないって思ってね。ただでさえお前って身の危険に晒されること多いだろ。
一宮からそう言われてぐうの音も出なくなる。正直言って嬉しかった。そして、いつも一宮にどれだけ苦労と心配をかけているのかを理解した。
「…ありがとう」
どういたしまして。頑張ろうね、一宮がそういったタイミングでモニターに変化が生まれる。壁の一部も変形し、姿を現したのは扉だった。つまり、あの奥が…。
正直、生き残れるって高をくくってた部分はある。でももう決めた。絶対このゲームを勝ち切ってやる。これ以上、心配をかけないためにも。
青森side.
モニターに表示された読了を押して、むつと共にインカムのメニュー機能の確認を行う。特に把握しなければならないのは政令指定都市と中核市が組んでいるところや中核市同士が組んでいるところ。そことの接敵だけは避けなくてはならないから、そうむつと話してメニューから情報収集に勤しむ。ルールは粗方頭に入れてはいるが、途中からルールを追加してくる意地悪いゲームの可能性はある。途中その都度確認していけばいいという結論には至っているものの、不安な気持ちは心から離れてくれない。
ふと、むつに違和感を覚えた。彼はあまり口数が多い方じゃないのは確かだが、ここまで黙ることもあまりない。つい先ほどまで、一緒にどこが政令指定都市と中核市が組んでいる~とか話していたのだから。
気になって彼の方を見てみると、ほんの少し眉間にしわが寄っている。何か悩むようなことにあたったのだろうか。少しして、彼は溜息を吐いて俺に話しかけてきた。その目は、何か見てはいけないようなものを見てしまったような、驚きと違和感と、恐怖に染まっていた。
「あの、青森。僕の勘違いの可能性があるので確認をさせていただいてもいいですか」
ん、どうした。むつの言葉にそう答えると、彼は恐る恐るといった面持ちで口を開いた。
「青森県の中核市は、2つですよね。青森と、八戸さん」
「そうだね。それがどうしたの」
その通りだ。青森県の中核市は俺と八戸の2つ。軽量特定市となっているのが、弘前の1つ。それは事実としてここにあるわけで。ただ、むつから告げられた次の言葉はその事実を、このゲームが前提として話していた参加条件をひっくり返すようなことだった。
「…メニューから見ることができる参加枠に記されているのが、青森だけなのですが…」
これは確か、政令指定都市と中核市ならば事前にどの都市がいるのか確認できる代物でしたよね、とむつが再度確認するように俺に聞いてくる。そういう説明があったからそれは間違いない。しかし、その中に八戸が表示されないのは明らかにおかしいものだった。
もしかしたら見逃しているだけなのかもしれません、むつはそう言って再度ブルースクリーンと見つめ合う。俺もさすがに気がかりで参加都市の一覧を調べだした。…見つからない。どれだけ探しても見つからない。困り果てていたところ、気が付いたのはワード検索欄の存在。むつと一緒に、八戸の名前を検索してみた。
見たくなかった。
ワード検索を使って調べた結果、見つけたのは赤文字を黒の斜線で消された八戸の名前。つまり、最初は参加予定だったのだ。何らかの原因で、八戸は消された。それが俺とむつの導き出した結論だった。
後味が悪い。そう思って話題を変えようとしても、上手い変え方が思いつかず二人して黙りこくる。
そうして少し経って、むつから青森、と声をかけられた。
「勝てば帰れるはずです。勝ち残って、帰って、八戸さんを探しに行きましょう」
無言を貫いてしまった。帰りたい、生きたいのはそうなのだ。ただ、俺たちで勝てるのか、そう思わざる負えないのだ。自信はないし、無駄な希望を持つだけ苦しくなるのではないか。
「人事尽くして天命を待つ、でしたっけ。僕たちにできる最大限を頑張りましょう。あとは結局のところ、運なんですから」
あぁ。俺がむつに対して返すことができた返事はそれだけだった。