コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
直弥side
ゆっくりと瞼を開けると、
見慣れた天井が目に入った。
点滴の機械の電子音が、
規則正しく鳴っている。体がまだ少し重い。
そのときだった。
扉の向こうから、
嗚咽混じりの声が聞こえてきた。
哲「……っ……直弥……っ……!」
哲汰の声だった。
聞いた瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。
何を言われたか、誰から聞かされたか、
想像するまでもなくわかってしまう。
(ああ……俺、もう長くないんだな)
そう思うと、不思議と恐怖よりも
静けさが先にやってきた。
窓の外を見る。
夕焼けがゆっくりと夜に溶けていく。
哲汰が毎日色をつけてくれたこの病室も、
今は真っ白に戻ってしまったみたいだ。
しばらくして、扉が開く音がした。
哲汰が目を赤くして入ってくる。
哲「……目、覚ましたんだ。よかった……ほんと、心配したんだからな」
直「……ごめん。心配かけて」
いつものように笑って返したけど、
どちらの笑顔もどこか薄っぺらい。
空元気ってこういうことを言うんだろう。
それでも、いつもの調子を崩したくなくて、俺たちはいつもみたいに話した。
哲「ほら、今日の授業ノートも持ってきた。俺頑張った」
直「ふふ……ありがと。」
哲「どういたしまして。直弥に見せないと俺のやる気がなくなるし」
直「……うるせぇよ」
笑いながら言い合う声は、
どこか遠くに聞こえた。
心のどこかで
「あと何回こうして話せるんだろう」
と考えながら、俺は頷くだけだった。
面会時間が終わり、
哲汰が「また明日も来るからな」
と言って病室を出ていく。
扉が閉まる音が、
今日はひどく重く感じた。
夜。
俺はベッドの上でノートを開き、
ペンを持った。
哲汰に宛てた手紙を書こうと思った。
まだ渡すつもりなんてなかったけど、
今の気持ちを残しておきたかった。
書いていくうちに、ペン先が震えだす。
言葉を並べているうちに、
気づけば頬を伝っていた。
直「……っ……」
涙が紙に落ちて、文字がにじんでいく。
滲んだ文字が、
まるで自分の心みたいに歪んで見えた。
涙が枯れるまで泣いた。
病室の窓の外には、
もう星がいくつも瞬いていた。