テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
…かといって、30分後に10時を迎えるので
ナースステーションに戻ってすぐに
楡井は採血準備に取り掛かった。
楡井「針は翼状針で、消毒とシリンジと…
…駆血帯はどうしましょうか」
採血時、血管を浮き出させて血を採りやすくする
腕に巻く紐のようなものだ。
小児科やそのような病院では子どもの不安を和らげるために
キャラクター物の駆血帯を使うことがある。
楡井「アニメのキャラ知らなそうですし、
かといってただの駆血帯と言っても…」
うーん、と楡井は唸った。
蘇枋「何してるの?にれくん」
そこへ消毒済みの体温計をいくつか持った
蘇枋が表れた。
楡井「蘇枋さん。実は桜さんの駆血帯どれにするか迷ってまして… 」
蘇枋「駆血帯?
複数個持っていけばいいんじゃないかな」
楡井「さっき確認したんですけど
10時からの採血、3件入ってまして…」
蘇枋「なるほど。
持っていくと足りなくなっちゃうからひとつに搾ってしまおうってことだね」
楡井「そういうことです」
でも桜さんの好みが分からないんですよー、と
蘇枋に助けを求める楡井。
蘇枋「うーん。前に桜くんの母子手帳を見させてもらったんだけど、
今まで予防接種とか打ってなかったみたいだし、
注射自体見たこともないんじゃないかなあ」
楡井「えっ、今5歳ですよね」
蘇枋「本当に、どんな人間なのか顔を見てみたいよ」
蘇枋はにっこり笑った。
楡井「…蘇枋さん、顔。笑顔が怖いです」
楡井が冷静にツッコミを入れる。
蘇枋は駆血帯の入っているケースを見て、
ふと目に付いた柄があった。
蘇枋「にれくん。これならいいんじゃないかな」
楡井「…!確かにいいですね!」
楡井の手にはピンク色のものが握られていた。
10時ちょうど。
蘇枋と楡井は桜の病室に入った。
楡井「桜さーん、こんにちは〜」
蘇枋「こんにちは、桜くん」
桜「!…すぉーと、にれ!」
2人が来たことを自身の目で確認すると、
彼らを指さしながら、名前を呼んだ。
蘇枋「すごい、桜くん。
名前覚えてくれたの?」
桜「ずっとくるから、おぼえた」
蘇枋「嬉しいなぁ。ありがとう」
さっきの黒い笑みとは比べ物にならないくらい
眩しい笑顔でそう言った。
桜は少し頬を赤らめ、そっぽを向いてしまった。
桜「さっき、にれーのいってた
“さいけつ”っての、する?」
楡井「するために来ました。
聞いたことありますか?」
楡井の問に、桜は首を横に振る。
楡井「じゃあ最初から説明しますね!
採血っていうのは────…」
楡井は分かりやすく、砕いた言葉で桜に説明する。
小児だけでなく、大人や高齢者にも
丁寧な説明は医療現場では欠かせない。
ㅤ⠀
楡井「…──です。なにか分からないことありますか?」
桜「…いたい?」
蘇枋「少し痛いけど、
桜くんが思っているよりは痛くないと思うよ」
桜「…ぱんちとどっちがいたい?」
蘇枋「絶対に採血の方が痛くないよ」
即答。
楡井「できますか?」
桜「…コクッ」
まだ顔に不安の色が残っているが、
桜は勇気を出して頷いた。
桜「すぉ、…だっこ」
ぎこちなく蘇枋に抱っこをねだる桜。
蘇枋は驚きながらも、はーい、と
桜を軽々持ち上げ膝に向き合う形で座らせた。
楡井「では、両腕を見せてもらえますか?」
指示に従って桜は両腕を楡井に見せる。
楡井「(うわあ…
稀に見る本当に血管見えないタイプだ…)」
オレこういうの苦手なんだよな、と心の中で呟いた。
楡井が腕を凝視していると…。
蘇枋「…にれくん、代わろうか」
楡井「…お願いしますッッ」
選手交代。
蘇枋「…うん、こっちにしようか」
左右の腕を少し見比べたあと
左が選ばれた。
蘇枋「手のひら上に向けて、ここに置いてくれる?
そう、上手」
優しく話しかけながら、
ゆっくり進めていく。
蘇枋は素早く手袋をはめ、
駆血帯を手にとる。
蘇枋「腕にヒモ巻くよ。
少しキツくなるけど痛くないからね」
キュッと駆血帯は小さな腕に巻かれた。
桜は経験したことの無い不快感に顔をしかめる。
楡井「桜さん。この花、なにか分かりますか? 」
桜「…?…ぁ、さくら!」
楡井「そうです!同じ名前です!」
蘇枋「桜くんは素敵な名前だね。
…ここにしよう。冷たいのつけるよ」
桜「ビクッ」
楡井「大丈夫ですよ」
消毒を穿刺部分に塗り、乾くのを待つ。
蘇枋「じゃあ桜くん。3つ数えたら刺すよ 」
針を取り出しスタンバイOKの状態に。
桜は怖さが一気に増し、
楡井の服を掴む右手の力が強くなる。
桜「…グスッ…ぃゃ」
楡井「大丈夫です。オレがいますから」
蘇枋「いくよ、
いーち、にー、さん」
桜「ビクッ うぅ”~…グスッ」
楡井「頑張りましたね桜さん!もう痛いところ終わりましたよ!!」
蘇枋「はい、おしまい。
ここギュって押さえててね」
桜「グスッ…ヒッグ…ぃたかった」
蘇枋「本当?それはごめんね。頑張ったね」
目を赤らめ、ひゃっくりを繰り返しながら泣いている桜。
初めて(意識がある時)の採血を頑張った証として、それから看護師ふたりは
ずっと頭を撫で、褒め続けたそうな……。
蘇枋「…さて、桜くんは頑張ったことだし、
にれくんはオレと採血の特訓でもしようか」
楡井「……え”ッ」
これはまた別のお話で……。
さかな
1,622
#WB夢
紅葉 転生
53
コメント
1件
このエピソード、すごく優しくて温かい気持ちになりました……!桜くんの「ぱんちとどっちがいたい?」って質問、子供らしくて思わず笑顔になっちゃいました。蘇枋さんの即答「絶対に採血の方が痛くないよ」も、楡井くんのフォローも、本当にいい看護師さんたちだなあ。最後の「特訓しようか」で楡井くんが固まるオチも好きです(笑)桜くんが泣きながらも頑張った姿に、こっちまでじーんときました🌙