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栞奈は片手を腰にあて、もう片方の手の人差し指を立てると前に出し、周囲をぐるりと見回すと言った。


「良いですか? 皆さん。あの崩落事故の直後に、アザレア公爵令嬢とこの老人が話をしているのを目撃したものが何人もいます。その証言を得た私は、この老人を調べました。ところがありとあらゆる手段を用いても、この老人の身元が全く分かりませんでした。私の調べ方がいけなかったのか? いいえ答えはノーです。そもそもこの老人はサイデューム国に存在していない人物なのです」


そして、ノクサとアザレアを蔑むように一瞥し、カルに向き直る。


「それがあの崩落事故の犯人だと言うことを物語っているとは思いませんか?」


そう言うと、一呼吸して続ける。


「さて、本来聖女でもなんでもない、自分の利益のためになら人命も厭わず、神聖な場所で事件を起こすようなこの女を聖女扱いしてしまったために天罰が下りました。皆さんご存じだと思いますが、先日結界が一部消失したあの事件です」


栞奈は人差し指を顎にあて小首をかしげた。


「今までこのような現象が、過去にあったでしょうか? 私はありとあらゆる文献を調べましたが、見つかりませんでした。そして気がつきました。かつて本物の聖女をないがしろにし、偽物の聖女を崇めた、こんなことがあったでしょうか? いいえ、一度もありません。それこそがあの結界の一部消失の原因だったのです」


そこまで栞奈が話したところで、部屋がノックされた。カルが答える。


「入れ」


許可がでると、ドアが開き執事のホルンストが一礼し部屋に入った。


「お話し中のところ大変申し訳ありません。お客様がおいでになってます」


そう言うと、突然ドアから勢い良く


「聖女、来たよ! 面白いことやってるって?」


と、待ちきれないとばかりにファニーが入って来た。栞奈はファニーを見ると満面の笑顔になった。


「ファニー、私のために来てくれたのね! 嬉しい。良いところにきたわ! 今この女を断罪していたところなの。貴方もこの女についてなにか情報をつかんだって言ってたじゃない? 証言してもらって良いかしら?」


するとファニーさんは声を出して笑いだした。


「本当に面白いねあんた、最高だよ!」


そして、大きくため息をついて肩をすくめる。


「でも、僕、実は王妃殿下に雇われてるから、あんたの味方するのは無理だなぁ」


その場にいた全員がファニーの顔を驚きの眼差して凝視した。ファニーは全員を見渡す。


「あれ? もしかしてここにいる全員知らなかったのかな? そもそも、僕、王妃殿下に拾われてデザイナーやってんだし、考えれば分かるもんだと思うけどなぁ。王妃殿下が『アテクシのアザレアちゃんをいじめる奴はコテンパンにしておやり!』とか言ったからさぁ、聖女の味方するふりしたりして、色々動いてたわけさ。今日もこの騒ぎを知った王妃殿下が『お前、行ってアザレアちゃんを救出してきなさい! 今すぐ!!』って半ギレで言うから見参しました〜」


途中、裏声で王妃殿下の声色を真似をしながら言うと、アザレアの所へやってきてアザレアと腕を組む。


「それに、王妃殿下がご令嬢を気に入るの、僕分かるなぁ。だってさ、ご令嬢えらい素直だし。僕も気に入ったんだよなぁ」


そして、聖女に向かって言う。


「あんたの欲望に忠実で、傲慢で、そんなところ嫌いじゃないけど、灰汁が強すぎてお腹いっぱい。ごめんな」


|栞奈《かんな》はぷるぷる震えだす。


「こっちだって、あんたみたいな気持ち悪い奴はお断り!」


ファニーは、にんまり笑う。


「そっかぁ、良いんじゃない? でも、困るのはそっちだよな~、だってマフィンに添えられてる手紙、王妃殿下から借りてあんたに渡したの、僕だし」


すると、栞奈は切れた。


「この男の言っていることは全部嘘です! 私をはめようとしているんです。その女の仲間なのです」


と、アザレアを指差した。そこでカルが口を開いた。


「嘘かどうかは王妃殿下に伺えば分かることだ、後で確認させてもらおう。そう言えば君はこの部屋に入って直ぐにマフィンに毒が入ってると言ったね? なぜわかったのかな?」


栞奈は自信満々に答える。


「私には特別な力があります。絶対にそのマフィンは毒入りです。わかるんです! なんと言っても聖女ですから!」


そう言うと、胸を張った。カルは微笑む。


「なるほど、聖女とはそう言うものなのか。ではその力を皆の前で証明しようではないか」


そう言うと、フランツに前に出るように手で合図した。


「フランツ、そのマフィンを食べろ」


栞奈は慌てる。


「王子、何を言ってるんですか? そのマフィンにはあの女が入れた毒が入ってるんですよ? やめてください。私のフランツが死んじゃう!!」


フランツはそんな栞奈の様子も構わず、マフィンを手に取るとぱくりとかぶりついた。


「イヤァァァ!!」


栞奈の叫び声が執務室内に響いた。フランツは微笑む。


「普通のマフィンです。味はまずまずといったところですね」


そう言って、指で口元を拭った。栞奈は呆気に取られる。


「嘘よ、嘘、嘘、だってそのマフィンには毒が入ってるはずなのに」


と泣きそうになった。カルはフランツに下がるよう指示を出す。


「確かに預かったマフィンには毒が入っていた」


すると、聖女の顔がパッと明るくなる。


「ですよね!? ほら、やっぱり毒入りだったじゃないですか!」


それを受けてカルは栞奈を見据えて言った。


「私はそのマフィンを最初から、毒の入っていないものと入れ替えてここに置いていた。なのになぜ聖女は毒の入っていないマフィンを毒入りだと断定できたのだ?」


と訊いた。聖女は青ざめる。


「えっ? えっと、それは、あの、毒が入ったマフィンを持ってくるあの女が、頭の中で見えたからです」


そう小声でぼそぼそと言った。カルは鼻で笑う。


「そもそもマフィンを持ってきたのは、アザレア公爵令嬢ではない。更に言えば、アザレア公爵令嬢は王宮の厨房を使用する許可を取っていない。なのにマフィンを手作りして持参したら怪しまれるとは思わないか? 彼女は王宮により保護されている立場だ。どこかでマフィンを作ってくるということもできない」


栞奈は黙りこんでしまった。カルは続ける。


「それに崩落事件のことについても、とんでもない考え違いをしている」


そう言ったあと、カルは立ち上がりノクサの前まで行くと、跪く。


「倪下、お久しぶりです」


ノクサは苦笑すると残念そうに言った。


「なんだ、バレてしまっていたのか……」


カルは立ち上がって振り返り栞奈を見る。


「お前が犯人と言ったこの方はアゲラタムの教皇だ。お前は教皇があの崩落事件を起こしたと言うのか?」


アザレアはカルの顔を見たのち、ノクサの顔を見た。ノクサはアザレアと目が合うとイタズラっぽく微笑んだ。栞奈は意味がわかっていないのか、きょとんとしていた。


死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

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