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―――本番が始まる。
輝(ヒカリ)から見た、光石国の兵士達や幹部達の様子は緊張しきっている人が多かった。
まぁ、それは無理もないが。
それでも、緊張しないで欲しい、というのがヒカリの気持ちだ。緊張していると周りが見えずらい。だから、背後から来た相手に対応できない可能性があるのだ。
「さぁ、どれだけ生き残るかな」
もう少し先の話ではあるが、兵士が少なくなれば兵士を募集しなければならない。
兵士は勿論、戦い事があるのだが、募集をすれば応募の数が一万を超えるほど多い。だから選別が大変なのだ。その為、内心募集したくないという思い。
今は関係のない話だけど。
始まって間もないのだが、早速血を流して戦っている兵士達がいるようだった。
それは両国とも言える話で、お互いの国の兵士が強いから、少し劣る兵士が負け気味という事も言える話。
いつもふざける幹部達や兵士達も、今回ばかりはしっかり真面目にやらなければいけないだろう。何故ならば今回の相手が中々の強者だから。
真面目にしておくのは総統も同じ。いつ城内に入ってきて総統室で戦う事になるかわからないからだ。
「幹部達が帰ってきたら死にかけでした、なんて事にならないように祈らないと…」
「いや人の心なさすぎな? あと先に自分の心配しろ」
「幹部達が帰ってきたら」と言っているので、兵士達の事はどうでもいいのだろう。
でも…この人ならどんな時でもハラハラしなさそうだから、よしとしよう。
「ヒカリは何もするなよ? たとえ暗殺部隊やらなんやらがここに入ってきても」
「はいはい、わかってますよ。総統を守るのが、ここに残った書記長の仕事だもんな?」
今のヒカリは、誰もが怯えるようなおぞましい表情をしている。そういう時の顔は、大抵人の心が一ミリも残ってない時である。
だから―――
「やってきた相手は即刻殺せ。話す相手じゃないだろうからね」
「(このヒトコワ…)」
柊(ヒイラギ)が思った事を本人に言うと、逆鱗に触れそうなのでやめた。
「うーん、誰も来ないねぇ」
「それでいいんだけど…」
戦争が始まって数十分。総統室には誰もやって来ない。そもそも他国の気配すらしない。
正直ヒイラギがヒカリを守る事はない、という事になる。それはヒイラギにとって良い事なのだが、ヒカリにすればつまらない、というのが本音である。
「…暗殺部隊の子は大丈夫かな?」
暗殺部隊のする事はその名の通り「暗殺」だ。
戦争をする時、欠かせない存在。敵国の総統をこっそり殺す、それが暗殺部隊に所属する人の仕事だ。
「大丈夫なんじゃないか?あいつも幹部じゃないけど強いし」
暗殺部隊の隊長。隊長は基本、幹部になるのだが、暗殺部隊の隊長はなりたがらなかった。
だが、隊長になるくらいには強い。
「でも、知らせがねぇ、来ないよねぇ」
「それはアウスト国がここから遠いからだろ。それに、総統だってそれなりに強いはずだ。」
部下が強いという事は、上司も強いという事。
部下が兵士ならば、上司は総統。総統も実力はかなりあるはず、とヒイラギは予想する。
それにヒカリも納得はしたようで、気長に待つ事にした。
短距離部隊(メイン タチバナ)
「皆!緊張しないようにね!」
「「はい!」」
もう直ぐ戦争が始まるんだけど、どうも兵士の皆、緊張しきっているようだ。
それは当たり前の事なんだけど…ヒカリくんも言ってたけど、緊張すると周りが見えなくなるから、あんまり緊張しないで欲しいな。
って言っても皆の緊張が解けるわけじゃないんだけど。
【戦争を始める】
「よし、始まったよ! 皆、引き締めて!」
オレが怪我しないようしないとね。隊長であるオレが怪我したら、なんだか面目ない感じがするし。
「…!」
早速敵がやってきた。一人、二人。そんな程度じゃない。凄い大きな音と共に、大所帯で人がこちらへ向かってきた。
よし、やる事はやろう。総統を守れるなら死んでもいい。必死でここを守れ!
「やべっ、一人取り逃した! ナギに連絡しなきゃ」
一人だけでも突破されたら、他の人達も奥へと進んでいってしまう。
突破されたので、オレらの後ろ側にいる中距離部隊のナギ達に連絡する事にした。
ビビッ…
「ナギ!敵、突破されちゃった!」
『おーけー。後ろは俺らとカエデ達に任せて、そこは頼んだぞ、タチバナ!』
「任せておけ!そっちも頼んだよ!」
ビビッ…
さて、ナギに任された事だし、それに応えてしっかりやろう。
「よっ、と。やっぱり強いな…」
流石アウスト国。兵士だけでもかなりの強さだ。少し隙ができたから周りを見渡してみたけど、早速兵士達が死んでいる。
こっちの兵士の中で、周りより頭ひとつ抜けた兵士がいるけど、その人も中々辛そう。だからと言ってオレが助けに行けるわけじゃない。
オレだって、命張って戦ってるんだ。周りを助けるとかそんな余裕はない。
「っ…!」
ちょっと油断した。気配もなく後ろから斬りつけてくるとは。隊長であるオレだからギリギリ避けられたけど、頬に傷はついてしまった。
「…これ、暗殺部隊、奥進めるかな…?」
暗殺部隊の人を敵国の城に向かわせる為に、言わば油断させる為にオレ達は戦っているわけだが、アウスト国の兵士は強いし、多い。だから、その暗殺部隊の人が城に行けるかと心配なのだ。
流石に暗殺部隊の人だからある程度気配は消せるだろうけど、ここまで大所帯だと、一人や二人にはバレてしまいそう。
って、人の心配してるより自分の心配をした方がよさそうだ。オレ自身に怪我は少ないが、こっちの人数がちょっと不利なようだ。圧倒的に光石国の兵士の気配が少ない。
まさかの、オレらの方が弱い…!?
オレらの敷地に入らせるわけにはいかないのにな…。でも、オレらの後ろ側には中距離部隊と遠距離部隊がそれぞれ構えてるから、そこは大丈夫だろうけど…。
「…心配」
「人の心配してんじゃねーよ!」
「うるさいなぁ、心配くらいさせてよ!大事な大事な総統様に、仲間なんだから!!」
あれ、なんだか力が漲ってくる感じがする。仲間の力は偉大だ。これで、負ける気がしないぞ。
この部隊は、オレだけでも生き残らなきゃ。じゃないと、ヒカリくん悲しんじゃう。って、さっき言った事と矛盾してんじゃん。
ヒカリくんは狂気者だからそこらの兵士は一ミリも興味なさそうだし。
中距離部隊(メイン ナギ)
俺ら中距離部隊の者達が戦う時は、短距離部隊の者達よりも後だ。
短距離部隊の者達が敵を逃がして城に向かわせてしまった時、その時にタチバナから連絡を受けて戦うのだ。
一人取り逃したら、後に続いてどんどん敵がやってくる。その理屈はよくわからないが、そうやってタチバナら短距離部隊の後ろに向かってくる。
「連絡が来るのも、そろそろってところかな。」
何回も戦争をやっているからか、戦争が始まってどのくらいでタチバナから連絡が来るかというのが掴めてきたのだ。
ビビッ…
『ナギ!敵、突破されちゃった!』
「おーけー。後ろは俺らとカエデ達に任せて、そこは頼んだぞ、タチバナ!」
『任せておけ!そっちも頼んだよ!』
ビビッ…
来るかなって思ってたら早速連絡が来た。
「気を引き締めろよ、皆!」
「「はい!!」」
一喝、部隊の皆に言ってみた。どうやら本当に気を引き締めてくれたようで安心した。
ヒカリも言ってるし、他の奴らも思ってるかもしれないけど、緊張したって何もならないし。
それに、俺が今大声で呼びかけたおかげで、俺自身も気が引き締まって緊張が少しは解れた気がする。
それよりも、タチバナとの連絡で「カエデ達」って言ったよな。って事は、まだ敵が来てないうちに連絡しておいた方がよさそうだ。
ビビッ…
「カエデ。タチバナらが敵取り逃がしたらしい。」
『わかったわ。連絡を入れるって事は、はなとの連絡の時に私の名前も出したのね?』
「…そうだ。兎に角、取り逃した時は任せる」
『任されたわ。アンタの方が先に戦う事になるんだから、今はアンタが気を引き締めないとね』
「そうだな。 それじゃ」
ビビッ…
(※はな=タチバナの事)
どうも、カエデは俺の事は何となくでもわかってるらしい。長々と一緒にいたからか?それでも怖いけど。
「…来た」
俺ら中距離部隊の攻撃方法は、基本的に短剣を使う。偶にピストルなどの銃を使う人もいるが、それは任意だ。
短剣だけではなく太刀や長剣、刀を使う者もいるのだが、正直言って短距離部隊と中距離部隊の違いがよくわからない。
俺は短剣一筋ですけどね。(聞いてない)
「っ!」
戦ってわかる。こいつらは他の国の兵士と比べて圧倒的に強い。戦い方がちょっと違う感じがする。
こいつらも短剣やらを使っているが、力が圧倒的にある。流石に俺は幹部だから負けられないけど、強いのは確かだ。
そりゃあ、タチバナ達も取り逃がすわな。一人一人の相手が大変だし。
「できる限りここから先、向かわせるなよ…!」
「「はい!」」
カエデに任せるとは連絡したものの、直ぐに取り逃がすわけにはいかないよなぁ!
隊長として名が知れる!
長距離部隊(メイン カエデ)
「敵、来てるかしら?」
「いえ、ここからだとまだ見えません」
私達、長距離部隊が出動するのはみっつの部隊の中で一番遅い。だから一番緊張する時間が長いのだけれど…。
私の部隊の子達は強いし、皆自信を持ってるのは明々白々だから、安心。
敵が突破されたなどの報せが来るまでは、双眼鏡で敵は見えてこないはず。だけど、それでもここから確認するのは重要な事だろう。
その報せはまだまだ来ないで欲しいんだけどな。ナギ達が逃せば、残りは私達になるから。
私達が敵を逃す事は許されない。
それの所為で最初は緊張するんだけどね。だけど、緊張してられないからしっかりしないとね!
「…皆、怪我してないといいんだけどね」
怪我したらカナタが大変になるからね。セキもいるんだけど、それでも怪我したら大変なのは確実だろうから。
「ふふっ、カエデ様はやはりお優しいですね」
「そんな事ないわ」
そんな他愛のない話をして暇を潰す。
暇を潰すというか、緊張を解している、という感じかしら。
近くにいる私の部隊の兵士ちゃんは、「きゃー!」と、戦争中なのにも関わらず楽しそうにしていた。 全く、危機感がないんだから。
さて、作戦を少々考えておきましょうか。
できれば最初は、やってくる敵から身を隠していた方がよさそう。そして見えていないところから撃つ! それがいいと思うわ。
時が経つにつれてやってくる人が多くなってくると思うけれど、こっそり見えないところから撃つと、結構効果的な気がする。
「だから、隠れながら撃つのよ。少し難しいと思うけれど、頑張ってね」
「「はい!!」」
…意外と連絡も敵が見えるのも遅いわね。今回は一段と頑張っているのかしら?
ま、それはいい事だし警戒しながら待つとしますか。
ビビッ…
『カエデ。タチバナらが敵取り逃がしたらしい。』
「わかったわ。連絡を入れるって事は、はなとの連絡の時に私の名前も出したのね?」
『…そうだ。 兎に角、取り逃した時は任せる』
「任されたわ。アンタの方が先に戦う事になるんだから、今はアンタが気を引き締めないとね」
『そうだな。 それじゃ』
ビビッ…
結構いいタイミングで連絡が来た。
我々、光石国は世界で一位だけど、相手もそこそこ強い。はなやナギがいても奥へ進まれる事はある。
中々防衛したじゃない。後は、守りの最後の切り札である私達長距離部隊に任せなさい!
「敵が来るわ。さっき言ったとおりにして頂戴!」
「「はい!」」
総統室に、護衛であるらぎがいるけど、だからって手抜きはできない。総統様と書記長様を各部隊の私達が守り抜く。それが掟ってものよ!
あら、のこのこと敵共がやってきたわ。私の思い通り、敵は私達がいないって油断しているようね。これが脳筋ってやつかしら。バカしかいないのね。
「光石国の城目前なのに敵がいねぇぞ!総統ぶっ潰して俺らの勝ちだ!」
…貴方達の敵はここにいますけど。それに、私達の総統様は、No.6の貴方達の総統よりも強いのよ。
ヒカリが貴方達兵士に負けるはずがない。総統室に行っても、兵士達が戦うのはヒカリではなくらぎだ。
というか、そもそも総統室に行かせない。ここは、私達長距離部隊が守りきる。城の中には絶対に入らせないから。
パンッ…
「!?」
本当に油断していたようね。本当に私達が城目前のところにいないとでも思ってたのかしら。これだからバカは…
「油断もよそ見も禁物。アンタ達は相当おバカさんだったようね?」
「んだと…!どこにいやがる…!」
誰が自分の居場所を教えるの。戯言なんでしょうけど、バカバカしい。
アウスト国の人達ってこんなにバカだなんて。そんな奴らの相手なんて本当はしたくないんだけど…。戦いなんだからしょうがない。
嫌なものは嫌だから、さっさとこの戦いを終わらせましょうか。その為には暗殺部隊の子が鍵になるのだけど。 少しの辛抱だわ。
パンッ、パンッ。私が攻撃しろと言わなくても部隊の子達は攻撃している。流石私の部隊の子達ね。優秀。
私、何もしなくてもいいんじゃないかと思うくらいね。一方的に攻撃しているわ。
流石のアウスト国の人達でも、銃弾は避けたり弾いたりできないようね。本当に上位TOP10に入る国なのかしら。
今でさえ私達の方が有利なんだけど、油断は禁物。それでも、想像より遥かに弱い。
はなとかナギ達も守りは固く、報告が来るのも私が思っていたよりも遅かった。多分、思い過ごしじゃなくて本当に弱いんだと思う。
さっきも言ったけど油断は禁物。だけど…弱いし、余裕でしょ。
「…あれ?」
ずっと壁に隠れていた為、攻撃をしようと壁から顔を出してみると…なんと、あら不思議。敵なんてほとんどいなかった。
「(本当に弱かったわね…)」
No.6なんて、定めた時の思い違いだったんじゃないかしら。TOP10になんて入らないくらい弱いと思う!!
やってくる敵も本当に疎ら…というか、いない。やってくる人がいない。ガラガラね。
さっきまで行列ができているみたいだったのに、今では人気がない店かっていうほど人がいない。
「そこそこ強い」って話じゃなかったっけ…?
まだはな達の部隊らへんに敵はいるはずなんだけど…。もしかして、既にそこで殺してます?
【カエデ、動揺中】
ビビッ…
『―――光石国の勝利。戦いをやめよ』「…あっという間に戦いが終わっちゃったわね…」
私が思っていたよりも敵達はとても弱く、呆気なく今回の戦いは終わってしまった。
特に、私何もしていないんだけど。言うなれば傍観者って感じだったわね。皆が優秀すぎたわ。
「皆、中に戻りましょう。ここで突っ立ってても仕方がないわ」
せめて、隊長である私が声をかけて皆を城の中に入れた。私の役目がこれだけって、隊長、なのかしらね?
城の中組(ヒカリ・ヒイラギ)
「聞く限り、かなり弱そうだね?」
「ですね。多少苦戦はしているものの、怪我もかすり傷程度でしょう。」
どこから、どうやって見ているのかは知らないが、城の中にいる総統 ヒカリと書記長 ヒイラギが様子を伺っていた。
どの部隊も思ってる事は同じ。敵はかなり弱い、という事だ。
これほど弱いのに、何故トップ10入りしたのか、一切わからない。理解し難いのが現状だ。
たしかに最初はこちらの兵士も血汗流しながら必死に戦っていた。だが、相手が中距離部隊を突破したあたりからは?
どのこちら側の兵士も「あれ、弱くね?」と思っているだろう。段々、血汗は相手側一方にしか流れていない気がしてきていた。
「…何か裏があるのだろうか」
やはり、これだけ弱いと裏があるのかと考えてしまう。それが人間。というより、総統の考えだ。
また、これも違くて戦場に立つ者が考えるような事だ。人を、決して信用してはならない。
裏を考えておいて損はない。別に裏がなかったら「よかったね」でお気楽に済ませればいい話なのだから。
裏表がはっきりするまでは、警戒しておく。それが総統、ヒカリの判断で教えだ。
「総統様、もうそろそろ終わるかと」
「首、もうすぐ取れそうなの?」
「そのようです」
「早いねぇ」
終戦の判断は総統の首を取るか取らないか。相手の総統の首を体から離してしまえばこちら側の勝利。 また、逆も然りだ。
その首を取るのは、光石国では先程から挙がっていた「暗殺部隊」が行うのだ。他の国がどうかは知らないが。
その暗殺部隊から首を取ったと連絡があれば、我々の勝利が確実となる。
今回特攻の隊長は、総統が他の兵士達とは別で特別可愛がっている人。死なないで欲しい、という思いと首を取って欲しい、というふたつの思いでいっぱいの総統。
後者の思いは、全然サイコパスの考えだと思うのだけれども。まぁ、これがヒカリである。
もう、ヒカリについて行く時点で、サイコパスだのサイコパスじゃないだのを考えるのはやめている。
ザザ…
『敵国総統の首を斬った』
「了解、お疲れ様。戻っていいよ」
『承知』
ザッ…
「今回の戦い、いつもよりホントに呆気なく終わったね」
「そうだねぇ。じゃあ、勝った事だし、連絡しよっか」
最初は皆、悪戦苦闘したもののかなりあっさりと終わってしまった今回の戦い。
相手国がどのような思いで我々に挑んできたのか、それは総統や書記長、兵士達がほぼ皆死んでしまった今、聞く事は出来ない。
「小説を書こう」からテラーに移行する作業、楽しくて沢山やっちゃいます。
一旦、次で連載ストップです。第五話まだ書けてないので。
次回も、その次もお楽しみに♪