コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それと時同じくして、郁斗は樹奈を事務所へ呼び出していた。
「ねぇ、どうしていきなりそんな事言うの? 昨日約束してくれたじゃない!」
そこで郁斗から今日の約束をキャンセルしたいと言われ、樹奈は激怒していた。
「悪いけど、どうしても都合がつかないんだよ」
「何それ? お店に来たと思ったら詩歌ちゃんを呼ぶし、樹奈の扱い酷くない? 」
「本当にごめん、また今度埋め合わせするから」
「そう言ってもう何度も待たされてるんだけど? そんな気が無いなら初めから言わないで! もういい!」
「樹奈!」
郁斗の話に納得出来なかった樹奈は帰るつもりのようで更衣室へと入ってしまう。
「……はあ……」
郁斗自身悪い事をしたという自覚はあるものの、こういう事は他のキャストとも何度かあったので、そこまで深く気にしてはいなかった。
そんな中、
「郁斗さん」
「ん? どうした太陽」
「それが、詩歌ちゃんが桐谷様と何やらトラブルがあったみたいで……」
「トラブル?」
「詳しくは分からないんですけど、ボーイの話によると――」
先程の詩歌たちの出来事を太陽が郁斗に話をしていると、着替えを終えた樹奈が事務所を通りがかり、二人の話を聞いてしまう。
すると、バッグから一枚の名刺を取り出した樹奈はそのまま黙って店を出るとすぐに誰かに電話を掛けた。
「――もしもし」
「あ、大和さん? ねぇ、今から会えません? さっき言い忘れていた事があるから、もう少しお話したいんです」
相手は大和で、あろう事か樹奈は個人的に指名客でもない相手と連絡を取ってしまったのだ。
「――そっか、そんな事が……。けど、仕方ないよ。詳しく説明する訳にはいかないからね。それよりも、樹奈か……太陽、樹奈は帰ったのか?」
「はい、そのようです」
「まあ、今日の事は俺が悪いからな……。勝手に帰った事は大目に見てやってよ」
「はい、分かりました」
「それじゃあ、今日のところは帰るよ。詩歌ちゃん、行こうか」
「はい。それでは太陽さん、暫くの間、お休みをいただきますね」
「ああ。まあ店の事は気にしないで、詩歌ちゃんはくれぐれも、組織に見つからないよう気をつけてね」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
こうして郁斗共に店を後にした詩歌。
実はこの光景を少し離れた場所から見ていた人物が二人居た。
それは――
「ね? やっぱり郁斗さんと白雪ちゃん、一緒に出て来たでしょ?」
「…………」
「郁斗さん、白雪ちゃんの事お気に入りなのよ。白雪ちゃんの方も満更ではないと思うよ」
「……やっぱり、そうなのかよ⋯⋯」
「まあ、白雪ちゃんって男慣れしてないから、ちょっと言い寄られたら付いていきそうだけどね。大和さんの事、気になってるような素振り見せておきながらあれは無いと思うわ」
「……やっぱり、キャバクラなんてろくな女いやしねぇ」
「あら、失礼ね。樹奈は違うわよ?」
「……アンタだってなかなかの悪女じゃねーか。こういう世界では指名客じゃねぇ俺みたいな客と外で会うとか、駄目なんじゃねーの?」
「ま、それはそうだけど。だって、大和さんが可哀想だったから黙っていられなくて」
「そーかよ」
「私……郁斗さんにスカウトされてキャバに入ったのよね。だから、彼に相手にされないならもう店にいる意味もないかなぁ」
「辞めるのか?」
「うーん、どうだろ。でも、辞めるにしても、このまま黙ってっていうのは樹奈の性に合わないのよねぇ」
「……何を企んでるんだよ?」
「企んでるなんて、酷い言い方。でも、大和さんはこのままでいいの?」
「どういう意味だよ?」
「私は、二人には痛い目に遭って欲しいって思ってる」
「怖ぇ女だな、アンタ」
「そお? 実は私の知り合いにちょーっと怖い人が居るんだよね。その人に相談しようかなって思ってる」
「へえ?」
「大和さん、白雪ちゃんの事はもういいの? 好きなんでしょ?」
「……どうしようもねぇだろ、キャバ嬢なんか好きになっても」
「そんな事ないよ。女なんて、危険な目に遭ったところを助けて貰いでもすれば案外簡単に落ちるものよ」
「……アンタもそうだったっていうのか?」
「そう。借金取りに追われてたところを郁斗さんが助けてくれて、その後スカウトされたの。その時から、好きだった。けど、ああいう男は私みたいなのには靡かないみたい」
「…………」
「どうする? 白雪ちゃんの事、諦めたくないなら協力するよ?」
「…………そうだな、頼むよ」
「了解~。それじゃあ知り合いにお願いしてみるから、動きがあり次第連絡するね。バイバイ」
一体樹奈はどんな事を企んでいるのか、裏でこんな事になっているとは知りもしない詩歌たちは美澄と小竹の二人と合流して共にマンションへ戻ると、今後について改めて話し合いが行われた。