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昼目覚める。カーテンを開けることはなく、ほんのり明るく、ほんのり暗い部屋で目覚める。
部屋を出てリビングへ行くと
リビングは陽の光で煌々と照らされていて眩しく、目を細め、眉間には皺が寄る。
私の足に絡みつくような感覚がある。
「なんだよぉ〜空(そら)ちゃぁ〜ん」
うちの家族の一員でもある猫種族の空(そら)ちゃんを抱き上げる。
「空(そら)ちゃぁ〜ん。私はお昼を食べますよぉ〜。
空(そら)ちゃんはもうお昼食べました〜?これからですかぁ〜?今何時だ?」
ポケットからスマホを取り出そうとするが、不安定になったので
空(そら)ちゃんが腕の中からスルリと抜けて床に軽やかに着地した。
時間を確認する。14時11分。空(そら)ちゃんのお昼ご飯は13時。とっくに終わっていた。
今日は母は早めの出勤だったらしく、昼は電子レンジに入っている。
よくドラマやアニメで見る「温めて食べてね」という手書きの紙はない。
別に温めても温めなくてもいいのだろう。ダイニングテーブルの上に置いておくと
空(そら)ちゃんが食い荒らすので電子レンジに入れているのだ。
テレビをつけてnyAmaZon プライムで同席酒場を見ながら、大笑いしながらお昼ご飯を食べる。
家族のことはもちろん好きだ。大好きだ。
でも文句を言われず、ただ笑って過ごせると思うと1人もいいなと思ってしまう。
「ご馳走様でした」
しっかりと手を合わせて、しっかり言う。シンクに使った食器を持っていって洗って水切り台に置く。
「さーてーと。曲作るか」
誰もいないのでリビングにパソコンを持っていって、パソコンで楽曲ソフトを開いて曲を作り始める。
しかし同席酒場がおもしろすぎて集中できない。曲作りは諦め、ギターの練習をすることに。
タオルで消音しながら、今度歌いたい曲を口ずさみながら
ゆっくりとコードを確認しながら弾く。それならテレビを見ながら笑いながらでもできる。
それを日が暮れるまで繰り返す。母が帰ってくる時間の前に部屋に戻る。
なにか言われるのが嫌で。母が帰ってこようが父が帰ってこようが
部屋の扉を閉めてしまえば、私だけの空間。外界の一切をシャットアウトできる。
「まだ今日はお披露目できないな。今週末くらいには弾けたらいいなぁ〜」
なんて呟いているとコンコンコン。夜ご飯。父、母、私でダイニングテーブルで夜ご飯を食べる。
父の事故からもう6年。新しい思い出ができる年月。
しかし私は記憶がなくなった父という現実がどうしても受け入れられず
思い出なんて思い出は1つも作っていない。
今、テーブルを挟んで目の前で笑っている人は父の顔をしているが中身は父ではない。
いや、中身も父なんだろうが、そこに私と共通の思い出は1つもない。
6年経とうがその辛さは変わらない。その辛さを感じる度に音楽に逃げている。
夜ご飯中の会話も愛想笑い。ため息は極力しないようにしているため
代わりにため息のように鼻から思いっきり息を吐き出す。
服を着替える。体を動かす。腕を前後に動かす。肩甲骨が動くのがわかる。
「よっし」
ギターケースの上からギターをポンポンと叩く。
「今日も頼むよ、相棒」
返事は返ってこないが、なんとなく笑顔で「任せとけ!」って言っている気がする。
「行くぞっ」
「ぞっ」でギターを背負う。部屋の扉を開けるとちょうど父がいた。
「おぉ」
「おっ…す」
「今日も歌いに行くの?」
「そう…だね。行ってくる」
「気をつけてね」
「うっす」
どこかぎこちない会話を交わして家を出る。夜。なぜか落ち着く。
夜空を見るとなんとなく「なんでもいいぞ」と言ってくれている気がして安心する。
イヤホンで音楽の世界に入りながら電車に乗って真新宿まで行く。
真新宿には弾き語りしている人がまあまあいる。知り合った「ウキ」ちゃんもその1人。
彼女も夢芽灯(ゆめあ)ちゃんと同じ22歳。
彼女はソロというよりも友達と組んでデビューしたいと思っていると教えてくれた。
私より全然若いのに私より全然ギターも歌もうまい。そんな彼女が私の歌い方がカッコいいと言ってくれる。
私なんて足元にも及ばないと思っていた彼女にそんなことを言われると
やる気も出るし、モチベーションも高まる。ウキちゃんに
「今日も頑張ろうね」
と言って別のところに移動しギターを下ろす。マイクやスピーカーなどの設置をする。
この設置しているとき、やはり緊張で心臓がものすごい勢いでドクドクする。
別に私のことなんて見ていないのだろうけど
「これから歌歌うのかな?」
「歌うまいのかな?」
「本当に路上で弾き語りする人いるんだ」
なんて思われながら見られている気がする。スタンドにマイクを固定する。
スタンドマイクの前に立つ。深呼吸を1つ。…。さて今日も度胸試しの始まりだ。
「えぇ〜…失礼します。私Sakaという者で歌手を目指しております。
ほぼ毎日のように真新宿に出現しては歌を歌わせていただいています。
本日も歌わせていただきます。へたくそですが
一生懸命歌いますので良かったら聞いてください」
ふぅ〜…。今一度深呼吸をして、歌わせていただく曲のアーティストさんの名前
曲のタイトルを言ってから軽くギターの端を指の先端でトントンとしてリズムを取り
ギターを弾き始める。私の相棒のこの子の音を鳴らせば私の世界。
コードを間違えないように気を引き締めて集中しているからというのもあるが
ギターを弾き、これから歌う自分に酔いしれる。もうへたくそと思われようがなんだろうが関係ない。
私は私の弾きたいように弾き、歌いたいように歌う。
1曲、2曲、3曲と歌う度に酔いしれ、調子が上がり、歌と歌の繋ぎも緊張しなくなっていく。
そうしているうちにありがたいことに投げ銭を貰い、終電近くなったので聞いてくださった皆様にお礼を言い
ギターケースにギターを入れて、機材を片付けて電車に乗って七幡山へ戻る。
そしていつものようにファミレスへ行って、その日は運利月(ウリツ)さんと話しながら作詞作曲を朝までした。
そして相方の李冒艿(りもに)さんが合流して帰る。
前日知り合った絵師、夢芽灯(ゆめあ)ちゃんは本当に毎日は来ないらしく、たまに会ったりするくらい。
そんな日々を過ごしていたある日、いつも通り路上で弾き語りを終え、ファミレスへ行った。
すると運利月(ウリツ)さんがいて夢芽灯(ゆめあ)ちゃんもいた。
夢芽灯(ゆめあ)ちゃんがいるときは必ずピンクと黄色の派手髪ちゃんも一緒にいた。
そしていつものようにドリンクバーだけを頼んで作詞作曲。
グループLIMEでも「今日ゆめちゃんいるよ」とか「マジか!うり交代してくれ」とか「嫌ですー」とか
「りもにさんバイトなんですねー残念」とか盛り上がっていた。すると夢芽灯(ゆめあ)ちゃんから
夢芽灯(ゆめあ)「あの〜すいません。このグループに1人追加してもいいですか?」
というLIMEが入っていた。
「あれかな?あの派手髪の子かな?」
「だと思いますよ。あの子ゆめちゃんと仲良さげだし」
「ま、別にいいけどね。私は」
「私も全然いいですよ。あの子が22歳とかなら、またりもさん石化すると思いますけど」
「あり得るね」
李冒艿(りもに)「私は全然いいよ!」
紗歌(サカ)「私もよいよ」
運利月(ウリツ)「私もオッケー」
ということで
夢芽灯(ゆめあ)が夕雪星を招待しました。という文が表示された。
「これなんて読むん?」
「あぁ〜…いや、前チラッっと聞いたんだよなぁ〜…なんて読むんだっけ」
夕雪星が参加しました。
夕雪星「初めまして。十亀砂夕雪星です。ゆせせって読みます。よろしくお願いします」
「そうそう!ゆせせだ!めっちゃ珍しいなって思ってたんだ」
「じゃあ覚えとけよ」
「輪郭は出てた」
李冒艿(りもに)「もしかしてあのピンクと黄色の髪の子?」
夕雪星(ゆせせ)「あ、ですです」
運利月(ウリツ)「よろしくねぇ〜」
紗歌(サカ)「よろしくお願いします」
李冒艿(りもに)「やっぱりか!よろしく!」
夕雪星(ゆせせ)「よろしくお願いします」
夢芽灯(ゆめあ)「なんか楽しそうだから入りたいって」
紗歌(サカ)「楽しそう?」
夕雪星(ゆせせ)「なんかいつも顔合わせるとき、楽しそうな顔するっていうか」
李冒艿(りもに)「あ、楽しそうなら良かったわ。私たちだけかと思ってたわ」
夢芽灯(ゆめあ)「そんなことないですよ!
歌い手さんとか芸人さんと知り合いになれるなんて滅多にないですし」
夕雪星(ゆせせ)「そんな話をゆめから聞いたから楽しそうだなって」
紗歌(サカ)「りもにさんなんでこんなときにいないかな」
運利月(ウリツ)「それなー」
李冒艿(りもに)「今月も生活費少なくなっていいならバイトブッチして行くけど?」
運利月(ウリツ)「あ、働いてください」
夢芽灯(ゆめあ)「さかさん、うりつさん、そっちのテーブル行っていいですか?」
夕雪星(ゆせせ)「私もお邪魔します」
運利月(ウリツ)「あ、いいよいいよ。私たちがそっち行く。ドリンクバーのついでに」
「行くぞ」
「うーす」
運利月(ウリツ)さんとドリンクバーに行って飲み物を注いで、自分の席に戻らず
夢芽灯(ゆめあ)ちゃんと夕雪星(ゆせせ)さんのいるテーブルへ行った。
「失礼しまーす」
「失礼しまーす」
「どぞ〜」
「どうも。初めまして。十亀砂(トキサ) 夕雪星(ゆせせ)です。あ、でも…」
と夕雪星(ゆせせ)さんは私のほうに視線をズラす。
「あぁ。私は初めましてではないですよね。
ちゃんと顔を合わせたのは2回目で、まあ、たまにここで会ってましたもんね」
「ですです」
「私もーまあ、初めましてー…ではないですよね?」
「あ〜…まあ…初め…てではない?ここでゆめちゃんと話してるときとか
ドリンクバーに行ってたときとかあるんで、一方的には見てはいます」
「あ、同じ同じ。派手髪だなぁ〜って思ってました」
「夕雪星(ゆせせ)ちゃん、私がここ来るときいっつも来てくれるので」
「ヲタ友なんだから。あと創作仲間だし」
「創作仲間?」
「夕雪星(ゆせせ)さん、小説家なんですよ」
「マジ!?」
「すご!!」
「違う違う。違うって言ったじゃん。
あ、違うんです。小説家を目指してるってだけで全然小説家ではないんです」
「いや、でもすごくない?ですか?」
「すごいすごい。書いてるんでしょ?」
「書いてはーいますね。全然箸にも棒にもかかってないですけど」
「それだけですごくない?」
「すごいすごい。物語作るのって大変そう。マジすごい」
「全然大変じゃないですよ。書きたいように書いてるだけなんで」
「お?カッコいいか?」
「これはカッコいいだな?」
「やめてくださいよ」
夕雪星(ゆせせ)さんが照れながらも笑う。
「夕雪星(ゆせせ)さん何歳?」
「あ、私は25です」
「お!マジ!?私26」
「お!マジっすか!近い」
「1個後輩か。全然タメ語いいよ」
「おぉ〜…じゃあぁ〜そうする?」
「中学高校のときは1歳違うって学年が違うからあれだけど
歳重ねるとマジで1歳差ってほんと関係ないから」
「じゃあタメ語で行きますわ」
「派手髪仲間ということで」
「いいねぇ〜。ピアス仲間でもあるよ」
夕雪星(ゆせせ)が横を向く。
「おぉ〜スゲェ」
「サカちゃん何個開いてんの?」
「えぇ〜っとね、左が耳たぶに3つ、軟骨1つ。右が耳たぶ1つの軟骨2つのトラガス1つ」
「8個か」
「夕雪星(ゆせせ)は?」
「私はね、左が耳たぶ2個、軟骨1、2」
と軟骨のピアスを触りながら数えていく夕雪星(ゆせせ)。
「4つ。でトラガス1つ。右はインダストリアル1本、軟骨2個、耳たぶ2個、トラガス1個。…何個?」
「自分で把握してないんか」
「してないわ。10は越えてる。10越えてからあやふや。…13かな?」
「多いなぁ〜」
「へそと舌にも1つずつあるから、15だ」
「あぁ、私もへそ入れてなかった」
「マジ!?へそ開けてんの!?」
「ほら」
と私は大きめのダボッっとしたTシャツを捲り上げ、へそを見せる。
「マジだ」
と言いながら夕雪星(ゆせせ)もTシャツを捲り上げる。
「おそろー」
「イエーイ」
「あんたたちファミレスでへそ見せるって痴女なん?」
「いやいやいや。別によくない?夜のファミレスなんて人いないし。実際見てみーよ。
私たち4人の他…2人しかいないし、こっち見てないし」
「痴女って。そんなエロいことしてないっすよ」
「そういえば夢芽灯(ゆめあ)ちゃんと夕雪星(ゆせせ)ちゃんはなんで仲良くなったの?」
「あぁ」
と夕雪星(ゆせせ)が言った後、夢芽灯(ゆめあ)ちゃんと顔を見合わせ
夢芽灯(ゆめあ)喋る?
いや、夕雪星(ゆせせ)ちゃん喋ってよ
という声が聞こえるくらい顔でやり取りをしてから
「まあ私も李冒艿(りもに)さんと紗歌(サカ)ちゃんと同じで、ゆめちゃんがイラスト描いてるとこ見ちゃって」
「あぁ、りもそういえばドリンクバー行くフリしてタブレット覗いたって言ってたな」
「私もドリンクバー帰りでしたけど、覗くっていうか不可抗力で
ゆめちゃんの隣のテーブルでイス座るときにチラッっと見えたイラストがドタイプで」
「イラストにタイプとかあるんだ」
「あるある。端的に言えば絵柄」
「はいはいはいはい。それならわかる。ウリさん着いてきてる?」
「バカにすんなよ?」
「すんません。謝るからそのヤンキー目やめて」
「んで「うまっ」って声出ちゃって、ゆめちゃんと目が合って「うまいですね」とか
「アニメ好きなんですか?」とか話してったら
好きな作品も結構同じでそのシーズン見てるアニメも割と被ってて
そっからヲタ友として仲良くなってったって感じです」
「オタク友達か。それは仲良くなるね」
「しかもマンガ家志望と小説家志望だもんね」
「そうなんですよ。夕雪星(ゆせせ)ちゃんの物語もおもしろくて」
「ゆーめちゃん!言わないでいいから」
何も言わず、でもタイミングバッチリと運利月(ウリツ)さんと顔を見合わせ
ニヤッっとした表情の運利月(ウリツ)さんの顔を見れば
私と考えていることは同じだと瞬時に理解した。同時に頷き
「「どこで読めんの?」」
と声を合わせて言った。
「ほらぁ〜こうなるじゃんよぉ〜」
「ごめんごめん」
夢芽灯(ゆめあ)ちゃんは夕雪星(ゆせせ)に謝る。
「えぇ〜…教えたくないな」
「なんでよー。どうせ小説家としてデビューしたら読まれるんだから」
「そりゃそうなんですけど、でも知り合いに読まれるのと他人に読まれる恥ずかしさはだいぶ違いません?」
「あぁ〜わかる。私もウリさんとかりもさんに路上で歌ってるとこは見られたくないってか
まあ、見つかっちゃったらしゃーないけど、どこどこで歌ってます!とかは言ってないもんなぁ〜」
「あ、りも、見つからんって言ってた」
「真新宿そんな広くないからすぐ見つかるって思ってたけど」
「真新宿広くないですか?」
「あ、広さは広いけど、なんてーか、歌えるところ?
マイクとかスピーカーとか設置してってなるとある程度の広さ必要だから、そんなとこあんまないなーって」
「なるほど?」
「運利月(ウリツ)さん芸人さんですよね?」
「うん、そーよ」
「ウリさんは知り合いに見られて恥ずかしいって思わないんですか?
私も割とイラストだけでも恥ずかしいですし、ま、そもそもへたくそだってのもありますけど。
マンガ読ませてって言われたらもう…そもそもマンガになってないですし」
「んん〜そんなに恥ずかしくないかなぁ〜。ま、恥ずかしいっちゃ恥ずかしいけど
養成所のときに友達になった同期の前でネタ見せとかさせられたから、まあ、さほど?」
「マジですか。すごいメンタル」
「尊敬するわ」
「たしかに。尊敬します」
「運利月(ウリツ)さんはなんで芸人さん目指そうとしたんですか?」
「あ、それ私も聞いたことないわ」
「え、それ言う?」
「ダメなん?」
「いやぁ〜ダメではないけど、ネタ見られるより恥ずいわ」
「マジ?私全然…」
と言いかけたところで歌で食べていきたいって思ったわけが
結構暗い過去が原因だということで言いづらいのに気づいて
「あぁ…私もまあ…恥ずくはないけど言いづらいわ」
と言った。
「だしょ?まあ、ザックリ言うと、まあそもそも芸人さん好きで、お笑いが好きで
高校も文化祭で芸人さんのマネしてみんなの前でネタして、その感覚が忘れられなかったって感じかな?」
「マジっすか?文化祭でみんなの前で?すご」
「あれっすか?小さい頃から目立ちたがりだったとか」
「ま、クラスを盛り上げてたほうかもーね」
「男子とコンビ組もうと思わなかったんすか?」
「たしかに」
「高校?」
「高校」
「高校、女子校だから男子いないのよ。ま、共学でもりもと組んでたろうけど」
「あ、女子校なんすね」
「そうそう。アカハナ(紅ノ花水木女学院の略称)」
「あ、アカハナなんですか!私の友達もそこ行きましたよ」
「私の学校からも行った子いる」
「うちの中学からも行った子いたな〜」
そこからしばらく高校時代のことを話しているとあっという間に時間が経ち
「おぉ〜っすぅ〜お疲れい!あ、二度目まして、李冒艿(りもに)です」
と李冒艿(りもに)さんのバイトが終わり、合流した。
「あ、二度目まして十亀砂(トキサ) 夕雪星(ゆせせ)です」
「はやかったね」
「うん。巻きできた。なんの話してたん」
そこから少しだけ今まで話した話や高校の頃の話をした。
「もう出るか」
「そーしよーか」
「ゆめちゃんたちはまだいる?」
「私たちも出ようか」
「だね」
ということで運利月(ウリツ)さんと李冒艿(りもに)さんと私は
元の自分のテーブルに行って荷物をまとめてお会計を済ませ、ファミレスを出た。
「あぁ、夕焼け」
「朝焼けな」
「実際時間わかんなかったら、どっちかわかんないですよね」
「タバコ」
「はいはい」
「ゆめちゃんと夕雪星(ゆせせ)も来る?公園」
「行く」
「お供します」
ということで運利月(ウリツ)さんのタバコタイムに新たに2人加わった。
「毎回公園来てんの?」
「うん。ウリさんのタバコで」
「もうお決まりの流れだね」
「最初紗歌(サカ)のときもこんな感じだったよね」
「あぁ、そうでしたね」
「ガッツリ話して仲良くなった日、一緒にファミレス出て、裏の公園行くけど来る?って」
「運利月(ウリツ)さんが言うと呼び出しっぽいですね」
「おい」
「わかる。でも話したとき、あ、良い人だって思ったから」
「わかる。私も思った」
夕雪星(ゆせせ)の隣で夢芽灯(ゆめあ)ちゃんもコクコク頷いている。
「でも見てみ?タバコ吹かしてる横顔。完全にヤンキーのそれよ」
という李冒艿(りもに)さんに軽くポンッっと頭を叩く運利月(ウリツ)さん。
「お、本業」
「ほんとだ」
「本業では叩くツッコミはしないけどね」
「しないね。痛そうだし」
「運利月(ウリツ)さんカッコいぃ〜」
夢芽灯(ゆめあ)ちゃんが呟く。
「どこが?」
「おい紗歌(サカ)おい。どこがじゃないどこがじゃ。あ、でも私も気になる。どこが?」
「気にはなってる」
「いや、タバコ吸う横顔が絵になるなぁ〜って」
「ほお」
「単にゆめちゃんがタバコフェチなだけじゃない?」
「それはー…あるかも」
「あるんかい!」
運利月(ウリツ)さんのツッコミにみんな笑った。短くなったタバコを携帯灰皿に押し入れて
「んなら解散しますか」
「しましょーかー」
「お2人の家に遊びに行くって案もあるけど」
「あ、お2人って一緒に暮らしてるんですか?」
「そーよー。でもその案はなし。狭いし汚いし」
「なしよりのなしだね」
「じゃあ今度みんなで行くんで片付けておいてくださいよ」
「聞いてた?狭いっつってんの」
「いや行くんで」
「なにしに来んの」
「え?溜まり場?アジト?」
「溜まり場、アジトはガスイドね」
「いいじゃないですかぁ〜この5人の仲でしょー?」
「お前いつもへーきでタメ語使ってくるくせにこんなときだけ媚び諂いおって」
「あ、この5人の仲は否定しないのね?」
「うるさい。タバコ押し付けるぞ」
「あ、根性焼きは勘弁してください」
そんなバカバカしいやり取りをしてみんなそれぞれの帰路へついた。
イヤホンを耳に突っ込み、スマホで音楽を流す。前奏で一気に世界が変わる。音楽の世界。
運利月(ウリツ)さんから聞いた芸人さんを目指したきっかけ。
改めて私も音楽なしでは生きていけないだろうと思った。
自分の子どもをおんぶするように相棒の入っているギターケースを
「よっ」
っと言いながら軽くギターケースを浮かせて背負い直す。
頭と体を揺らし、ノリノリで音楽の世界に浸りながら家へと帰った。
静かに我が家に侵入し、部屋へ戻る。ギターケースを置き、着替える。スマホを出す。画面をつける。
李冒艿(りもに)「明日来る人ー」
夢芽灯(ゆめあ)「はーい」
運利月(ウリツ)「明日はバイトだから」
李冒艿(りもに)「てか明日じゃなくて今日か」
運利月(ウリツ)「たしかに」
夢芽灯(ゆめあ)「たしかに」
グループLIMEが動いていた。
私たちが集まるファミレスの名前のグループ名「ガスイド」の隣にカッコで(5)と書いてある。
なんか嬉しくてニヤけた。
紗歌(サカ)「帰りに寄りまーす」
夢芽灯(ゆめあ)「待ってまーす」
夕雪星(ゆせせ)「みんな行くなら私も行く」
李冒艿(りもに)「みんな集まるならテーブル一緒にする?」
紗歌(サカ)「別で」
夕雪星(ゆせせ)「右に同じく」
李冒艿(りもに)「今、うりにそれ言ったら
お前もネタ作りに集中できないだろって言われた」
紗歌(サカ)「ごもっともすぎる」
夕雪星(ゆせせ)「たしかに」
夢芽灯(ゆめあ)「たしかに」
運利月(ウリツ)「同じテーブルじゃないにしても近くに固まれば?」
夢芽灯(ゆめあ)「そーしますか」
夕雪星(ゆせせ)「いんでない?」
紗歌(サカ)「賛成ー。ま、空いてたらだけど」
夢芽灯(ゆめあ)「たしかに」
そんなやり取りが楽しく、気づいたらスマホを握りしめたまま眠りに落ちていた。