少し予定外のことが重なっている。それは彼女、七海千秋さんのせいとしか言いようがない。
「日向くん!私のことは七海って呼んで!
はい、リピートアフターミー!」
「…そういった要望には応えかねます。」
私のことを日向くんと呼び、何度も何度も私のことを聞いてくる。正直、調子が狂うのだ。江ノ島さんとも違う性格の持ち主。彼女から聞いていた話よりも七海さんはずっとしつこくうるさい。「日向創」に対する異常なほどの執着心からだろうか。
「七海さんは、日向創くんのことが好きなんですか?」
一度だけ問うたことがある。けれども、
「…よくわかんないんだけど、大切なの。」
と答えるばかりだった。ついこの間、担任に騙されて死にかけたとは思えないほどの精神力。
「日向くんは、まだ私のことわかんないんだよね?」
「はい。想像以上にうるさいということしか」
「それは心外だな。」
いつからか、彼女から日向くんと呼ばれることに抵抗しなくなってしまった。まだ彼女は目覚めて1週間も経っていないというのに。これが江ノ島さんからの命令ならば、拷問なりで黙らせるのに。こればっかりは、私の勝手でしていることなのだから…。
「そもそも、なぜこんなことをしているんだ…?」
だけれど、最初は彼女に日向くんと呼ばれることを嫌悪していたのに、今は彼女の大切な人として扱われることが嫌ではない。明日もきっと私を日向くんと呼ぶだろう。就寝前に、七海さんの包帯を一度替えに行こう。
「うぅっ…日向くん……」
彼女の部屋から、微かに啜り泣く声が聞こえた。日向くんと呼んでいるが、それが私ではなく日向創のことであるとは流石にわかった。
「こんな時…日向創だったらどうするのだろう…。」
私は何も考えず扉を開いた。七海さんは私の顔を見るなり驚いて、急いでその顔を隠そうとしている。私は、そんな彼女の横に軽く座り、肩を抱き寄せた。
「七海。」
そう呟くと、彼女の表情は大きく崩れて私の胸元へ飛び込んできた。
「日向くん…会いたいよ…!」
「ごめん、七海。でもオレ…」
脳を介さず、思わず言葉がまろび出てくる。これは一体なんだ?
「オレ、七海のそばにいてもいいような
人間になりたかったんだ。」
「日向くん…、私はそのままの日向くんだって…」
彼女はそこで電池が切れたように眠り込んでしまった。私は泣きながら眠る彼女の背中をさすり、頭を優しく撫でてやることしかできなかった。
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こんにちわなりきりしませんか?