「悲しませるくらいなら俺が涼ちゃん奪っちゃおうかな。」
電話越しの若井は戸惑っているようだった。
『元貴、お前・・・。」
別に本気で奪おうなんて思っていない。ただ、こいつは陽キャ特有の楽観主義なところが少しあるから、こうでもしないと危機感覚えないでしょ?
「じゃ、気を付けて帰って来てね♡」
電話を切った後、勝手に電話に出たことに罪悪感を覚えつつ、リビングのソファーで眠る涼ちゃんのところに戻る。限界が来ていたのか、少しくらいの音でも目を覚ます気配はない。
テーブルの上に涼ちゃんのスマホを置き、顔を覗き込む。顔色は若干よくなっているようだ。ずれたブランケットを掛けなおすと、涼ちゃんは少し身じろいだ。
「ん・・・。」
起きた?
「ひろ、とぉ・・・。」
起きてはいないようだが、若井の名前を呼んでふわふわと幸せそうに笑った。
どんな夢を見ているんだろう。
まぁ、悲しい夢じゃないみたいだからいいけど。
「見ててモヤモヤするわ、この両片思いバカップルは。」
多分俺が一番近くで二人の両片思いを見てきた。
二人が同居を始めて、俺がソロ活動でしばらく会っていない間、二人の間の空気感が変わっていた。それまで仲が悪いとは言わないが、盆と正月に会ういとこって感じだったのに、久しぶりに会った時はまるで付き合いたての中学生カップルのように初々しくて、どこかぎこちなくて、でも甘い雰囲気が漂っていた。付き合ってるのかとも思ったがそうでなく、
若井は自分の気持ちに気づいているけど涼ちゃんの気持ちには気づいていない
涼ちゃんは自分の気持ちにも若井の気持ちにも気づいてない
マジな恋愛リアリティショーが繰り広げられている様は、本当に興味深かった。
「若井、涼ちゃん。同居どんな感じなん?」
「楽しいよ!若井と四六時中一緒なのどうなるかと思ったけど(笑)」
「俺も涼ちゃんが女連れ込んだらどうしようって思ってた(笑)」
「しないよ(笑)」
「若井は涼ちゃんのこと好き?」
「え?!あ、いや、まぁ、好き、だけど?」
「涼ちゃんは若井のこと好き?」
「うん!好き。若井話してみたら結構面白いし、趣味も合うんだよ。」
「そっか。だってよ?若井。」
「あ、うん。よかった・・・。」
でも、色んな事があって、色んなことを背負って、子供じゃいられなくなって。
「大人になんかなるもんじゃないね。」
結局乗り越えなければいけないのは二人なのだが、その二人が安心して笑い合える世界、環境を作りたい。
「俺には二人がいなきゃいけないの。帰る場所がないとちゃんと歩けないんだから。」
だからしっかりしてほしい。俺のためにも。
「まったく、俺含めて全員手のかかる奴らだこと。」
自分で言って自分で笑った。
コメント
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(*-ω-)ウンウンいいねぇー
♥️くんの💙💛への愛を感じます🥲💖