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第3章 帰らずの門と南の幻影 上
そう、あの時僕は周りの子達から嫌がらせをされていた。ここ最近流行っている「帰らずの門」の噂は既に知っていた。最も怖い場所とされるパルベニオン帝国の南地区の門だ。
件の門がどんなに恐ろしいかを表すために、僕が住んでいる所を伝えておかなきゃならない。
僕ら、というか一般市民はこの直径50kmからなる円内と、それを囲い込むようにある城壁のような円縁(高台のようなとこ)に住んでいる。円の縁の幅は約100mからなる。上空から全体を見れば、綺麗な二重丸の形になっていることだろう。それがパルベニオン帝国なのだ。
円内の直径50kmには、さまざまな商店街や建造物などが存在していて、住宅は主にその円内か、円の縁100mほどのところまで建てられている。
僕は盛り上がっている円縁の幅約100mの所に住んでいた。住んでいるそこは、主に城壁としての機能もあるためか、位置が高くなっている。
そのため、城壁ほど高さがあるところに住むと、中心部の様子がよく見渡せるのだ。夜になると、中心部の街々は輝きを放って、まるで別世界のような姿に変わるのが見える。それを僕は毎夜見続けているわけなので、絶景を一望できる。
また、パルベニオン帝国のど真ん中に、一際大きな大木の様な建造物?が空に向かって垂直に立っている。 その木から生えている太い幹、根の様なものが、中心部から放射線状に僕の住んでいる城壁の所まで伸びてきているのだ。
ここだけの話なのだが、なぜあんな建造物(木の様なもの)があるのか、未だに解明されていないらしい……。
次に僕らの反対側、つまり、円の外側には、城壁から見渡せるところまで山と森が広がっていた。時々、よその同盟国から人が来たり、放浪者が来たりしている。
ここパルベニオン帝国には、北、南、西、東の地区に分かれており、それぞれ北門、南門、西門、東門がある。
(ついでに、宮殿があるのは西区。僕が住んでいるのは西区でも西門に近い外れの方だ。)
基本的にこの門を通して、外部の人間が入ってくる。
けれど、南門だけは「入ってくるものはいないが、出て行く人々は多かった」と過去に聞く。 出て行く者のほとんどが、犯罪者や探検者であり、その後、どうなったかは分からないという。
そのため皆想像が膨らむのだ、主に悪い方に。「出たら最後、帰ってきたものはいない」とうのが決め手だ。だから、南門は別名「帰らずの門」や「枯骨の門」とも言われていた。
南地区周辺はその門に近づくにつれて、住む人々が少なくなっている。
元々、気味が悪い場所と有名なのに、立ち入り禁止の柵の向こうにあるその南門から、最近何やら不吉な声が聞こえるやら、悲鳴やら、亡霊やら化物が見えだなんだと言われているのだから、噂に拍車がかかっているのだ。
けれど、真実なのかどうかは定かではない。
――話を戻そう。
その日、僕はいじめっ子達3人の謀で、南門、別名「帰らずの門」へ連れていかれた。
「逃げよう」と当然思った。
だが奴らは、その門の周辺近くまで、僕を無理矢理連れていった。
僕は奴らに見つかった瞬間逃げたが、呆気なく捕まったしまったのだ。あいつらは、僕がその門に同行する間も見張っていた。当然、僕に行かないという拒否権などない。多勢に無勢だ。
「(何て卑怯な奴らなんだ!)ぼっ、僕、絶対に行きたくない!」 と、必死に暴れた。
自分はここまで大きめの声が出るのかと言うくらいには抵抗した。骨の白さがわかるくらいまで、気づいたら握りしめていた。
「そんなこと言っていいのか、お前は俺たちのいい奴隷みたいなもんだ!もし約束を破って逃げてみろ、そんときゃお前を殴ってやる!」
「そうだ、そうだ、泣き虫ポッド!いつもおどおどしてうざいやつ!そのくせ、変に反発しくるとこがムカつくんだよ!」
「お前は言われた通りに従えばいいんだぜ!お前が行ってくれなきゃ!俺たちは明日、帰らずの門の真実をみんなに話せないじゃないか!」
ガシィ!と、やつらに捕まえられて連行されていく。
「(何で僕だけこんな目に遭うんだ!)」と心の底から思った。
君たちで行けばいいじゃないか、とも思った。だがそれを言うことは無駄であると僕は知っていた。
なぜこんなに目に遭わなきゃいけないのか、ある時彼らに勇気を出して尋ねた事があった。理由は、僕自身の行動が気に入らないらしい。
(回想)
僕は、町で重たい荷物を背負って歩いている年老いた老人を助けたり、迷子の子供や探し物を届けたりすることを日頃から行ってきた。僕はこんな性格だから誰かに自慢して話したりもしていない。陰で隅っこ暮らしを徹底している。そんな事を続けていたある時、周りの大人達や老人たちに「良い子だね」とか、「あんたみたいな子が将来支えてくれるんだね」とかで、よくお礼をもらったりしていた。
※一応言うが、見返りが欲しくてやっているわけではない!
その様子を、こっそり誰かが目撃していたらしい。そこら辺でちらほら噂されている程度で、僕自身当たり前の行動だったからその行為を辞めるつもりもなく、気にしていなかった。
だが、奴らにはそれが気に食わなかったらしい。「良い子ちゃんぶって気に入らない」とのことだった。才色兼備なやつならまだしも、何の特技もない見た目がパッとしないいつもオドオドしてる奴だから、と言う理由だけでだ!僕が周りの人達から良い様にされてるのを見て、何であいつだけって思ったに違いない。自分より劣って弱いやつが、見下してやりたい対象が、でしゃばってると感じたのだろう!何て迷惑な話だろうか!
「そんなに人のことを言うなら、自分達も同じようにやればいいじゃないかっ!」
と、ある日僕は奴らになけなしの勇気を振り絞って言ってやったのだ。
結果、殴られた。
あいつらは楽をして地位や名声みたいなものを得て、弱い奴を見下して支配したいのだと、その時気づいたんだ!僕はそんな事のためにしてないのに!
だが残念な事に、僕に対してそう思ってる奴らが結構いると言う事実に虐めてくる奴らを見て内心、ショックを受けた。
その度に嫌がらせがエスカレートしてくるんだ。なんだか僕自身、間違った事をしているように感じてくるし、自分自身を否定されている気がした。精一杯の反抗をしてみても無意味で、だから、何やかんやオドオドしながらも無視を決め込んだ。反抗するだけ奴らの思う壺だと思ったからだ。
僕は僕なりに自分を鼓舞していつも通りでいる事を選んだ。
けれど、それがさらに奴らの行為を助長させてしまったらしい。それからは僕も意地でも負けたくなくて、喧嘩と言う名の殴りあい、蹴り合い(一方的過ぎるのだか……)になり、ユーラに介抱されることが増えていったのだ。
「(はぁ…)」
今でも、こんな奴らのいいなりに嫌々なって、いいように利用されている。けど、1番嫌になったのは、自分自身への嫌気さと弱さと悔しさの三拍子だった。これからもずっとこうなのだろうという、未来の自分の惨めさに泣きたくなった。
でも、もしここで泣いたら彼らの思う壺だし、意地でも泣きたくなかったのだ。
そうして、僕は奴らに引きずられるように、「帰らずの門」まで行くことになったのだ。
ゴンドラに揺らながら、歩きながら、とうとう僕は南地区まで来てしまった。道すがら、どんどん人の気配がなくなっているのを僕は感じていた。
周りの建物は、空き家ばかり。どこか廃墟の様にも見える。
帰らずの門は、目の前の曲がり角を過ぎれば見えてくるらしい。
ジャリ、ジャリと歩いていていった。角を曲がって見えたのは、まず、少し錆び付いている鉄格子の柵だった。
「えー、何で柵があるんだよ!」
「こっから先に進めねぇーじゃん」
いじめっ子らは、何やら文句を言っている。少しそばで聞いていたポッドは、その言葉を聞いて内心安堵していた。
僕の背以上ある鉄格子の柵は、よく見たら道の端から端に連なって通せんぼしていた。まるで、ここから先は通るな、先には行くな、と言ってるような気がしてならない。
ここから見える向こう側の雑木林の、そのさらに奥に、件の門があるはずなのだ。
「(た、助かった!)」
これより先へ進む前に鉄格子の柵を見て、一時はもう駄目だと思っていたが、今この時だけはポッドは柵に感謝した。
「(ふぅ、これでもう門まで行けないんだから、引き返すだけだろう)」と。
だが、そんな感謝の気持ちは、数秒と立たないうちに終わりを告げた。
「おっ!ここ通れるじゃん!ラッキー!」
「よし!よく見つけた!」
「狭い隙間だ……でも1人通るには十分だな」
「(なんだって?!)!」
ポッドは、その隙間を二度見してしまった。奴等は別の所から入り口を見つけてしまった!鉄柵!ちゃんと役目を全うしろよ!と心の中で叫んだ。
それだけにとどまらず、あいつらは更なる追い討ちを掛けてきたんだ!
「ポッド!お前1人、この先に進んで写真撮ってこい!」
下されたのは、僕にとっての死刑宣告だ。
*
いじめっ子達は、安全な場所で高みの見物が如く、ポッドを逃がさないように見張っていた。ポッドにカメラを渡し、ドンッと背中を押す。柵の向こうに行けと促していた。
僕は1人で目の前の柵を通ってここからでは見えない鉄柵の先、薄暗い道の向こうにある門まで行かなければならない。
残念なことに、目の前の立ち入り禁止のためにある鉄柵は意味をなさなかった。
……きっと行っても最悪、行かなくても最悪(殴られるだろう)なことは、目に見えて分かった。殴られたくないし、かと言って1人だけでこの先に進みたくない!じゃあどうする?!
そんな自問自答を繰り広げている間、ポッドは柵の向こうに、震えながら向かった。
恐怖より痛みの恐怖が勝ってしまった。やはり、自分は臆病者だと痛感し、情けなくなった。
*
鉄柵の先で、薄暗く続いている道。それを通り過ぎて数分進むと、道なりの途中から岩肌が現れ、木々が所々飛び出ていた。さらに奥へ進むと、暗闇ので待ち構えているのは大きな門。その門は、鉄製の両扉でできており所々錆が目立った。大きさは10メートルほどで中央に大きな鍵がかかっていた。両脇と背後にある岩壁へ、門は、嵌め込んであるような造りだった。
ポッドが少し離れた所から見るその門は、厳つく重たそうな扉が二枚あった。まるで、大きな南京錠と鎖で頑丈に門を封印しているような状態だ。
けれども、よく見ると扉と扉が重なっているところに少し隙間ができていた。
その隙間から覗くのは、闇だ――。
辺りは暗いし、雑木林が広がっている。
その門は、特に何もない筈なのに、異様な雰囲気を醸し出していた。
何処からかせせ笑う声!人影も見えた気がした!それに寒い気もする!鳥肌が治らない!
「うゔぅっもう、帰りたい!っ。」
ポッドは涙ぐみながら「帰らずの門」に来ていた。