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その日のレオリオは、医師として夜勤にでていた。
医師免許を取得して四年、医療に関わる念を習得して三年ほど。この念のおかげで、レオリオにしかできない手術を成功させることができ、ひそかに人気の医師となっていた。
個人として診療所を開くには金はあるが技術が足りず、先輩医師を参考に勉強させてもらっている身だ。
そんな総合病院に、先ほどまでは急患がつづいてきて、ようやく落ち着いたところだった。
コーヒーでも飲むかとインスタントの袋にスプーンをつっこんだとき、白衣の胸ポケットの、仕事用のスマートフォンがふるえた。
『レオリオ先生。先生の知り合いだという方が一階フロアにいらっしゃっています』
『知り合い? ……どんなやつだ?』
『金髪碧眼の若い女性です。そして、―――――』
『………わかった。すぐに向かう』
レオリオは自身に冷静さを求めながら、それでも波打つ心臓を抑えきることができなかった。
金髪碧眼の知り合いは何人かいるが、このときは、昔求めていた彼女であるという推察が当たっているにちがいないと思ったのだ。
―――――おおきなお腹を抱え、妊娠されています
かつて恋をした、仲間だと。
それは、たしかにおおきな腹を抱え、妊娠した、彼女だった。
「クラピカ………」
呆然とみつめてしまうと、彼女――クラピカの現状が目に入ってくる。
肩より下に伸びた髪、筋の通った細い腕、マタニティ・スカートに包まれた、どうみても妊娠している、からだ。
「れお、レオリオ、すまない。みてのとおりだ。に、妊娠してしまって、ここまでおおきくなってしまった。びょ、病院、など、行けなくて、でも、あいつが、時間をくれたから、おまえの、ところに来てしまった。すまない、すまない……」
スマートフォンもとられてしまって、連絡ができなかった、すまない……。
クラピカはぺこぺこと頭を下げ、おびえる瞳でレオリオの顔をうかがう。
詳細はあとで訊くこととして。
「妊娠してから病院には一度も行っていないんだな?」
「ああ。さ、三回くらい、部屋に医師が来た。それだけだ」
往診しているからといって、産婦人科はやはり病院での検査が必要だ。
とりあえずレオリオは傍らの車椅子を持ってくると、クラピカに乗るように伝えた。クラピカの腹のおおきさでは歩くのも疲れるだろう。
悪阻がひどかったのだろうとあたりをつけると、彼女は逆らわずにふらふらと座った。
その瞳は濁りきっているのをレオリオは先ほど確認した。
*
二日後、レオリオから連絡を受けたゴンとキルアが到着した。
クラピカは二人に知らせてほしくなかったかもしれないが、精神的にレオリオひとりで抱えられる問題ではなかったのだ。それに、二人は絆で結ばれた仲間だ。
クラピカの危機なら、呼ぶべきだと思った。
四年ぶりに出会った二人は、少年期から青年期へと脱し、背もずいぶん伸び、筋肉もついているようだった。なにより、横顔が大人びている。
クラピカにも「ゴンとキルアを呼ぶ」と知らせてあった。クラピカは予想とはちがい、反対などせず、素直に「ああ」と言っただけだった。
レオリオはクラピカが入院している産婦人科の個室に赴くまでに、クラピカは妊娠していて、もうすぐ産まれそうで、悪阻で痩せていることを二人に伝えた。
瞳を見開いた二人とも、なにか言おうとくちを開いたが、部屋に到着してしまった。
レオリオはゆっくりノックをし、扉を開いた。
「クラピカ、ゴンとキルアが来てくれたぞ」
仰向けで眠っていたクラピカは、はっと目を覚ましたようで、のろのろと身を起こしだす。それは、いつもきびきびと動いていた彼女に似つかわしくない姿でもあった。
「すまない。ひさしぶりだな」
やつれたクラピカを前にして、二人とも「謝ることないよ」「ひさしぶり」とつとめていつもどおり返す。しかし、その目線は、膨らんだ腹に向けられている。
「おまえたちは、ハンター活動は順調か?」
クラピカはレオリオが再会してはじめて、ちいさく笑みをもらした。
ゴンやキルアがハンターとしての実績を積んでいる話に、うん、うん、と頷いている。
やはり、二人を呼んでよかったとレオリオは心から思った。
「わたしの……はなしを聞いてくれるか」
いよいよそのときがきた。
クラピカの身の上になにが起こったのか。誰の子どもなのか。
彼女は、「みなが揃ったら話そうと思う」とレオリオに言っていた。
「約一年間……わたしは監禁されていた。幻影旅団の頭領にだ。
あいつは、除念が終わったあと、わたしのもとに来た。
あいつの除念がなされたことは、無論わたしにもわかったので、警戒していた。
しかし、奴には敵わなかった。奴はすばやくわたしを気絶させ、さらった。
それから私はいままで、あいつに……いや、監禁というのはちがうのかもしれない。たまにはともに外にでて、どこかに赴くときもあり……わたしの気を紛らわせた。
わたしはいっさいを奪われ、念のかけられたそんなに大きくない家に閉じ込められ、装飾品や嗜好品が山ほど積まれたが、それだけだった。
それから……おそらく、精神に関与する念もかけられていたと思う。
でないと、説明がつかない部分がある。
―――わ..わたしがあいつを、好んでしまったからだ。」
わっ、とクラピカは顔を両手で覆うと、泣きだした。
頬から星のような大粒な涙が伝っていた
予期せぬ――望まぬ妊娠といったところか。しかしもう堕胎するには遅すぎる。
「あいつは、む…むしやり私を….、しかも徹底的に避妊しなかった。避妊薬がほしいと言っても無視をして……!おそらく、狙っていたにちがいない。わたしを苦しませるために。わたしに、いのちの、尊厳を、迫らせるために!」
三人は静寂の部屋で、クラピカの慟哭が終わるときを待つほかなかった。
それほど、クラピカの話は重かった。
「すまない。すまない。すまない。おまえたちに迷惑をかけるつもりなんかじゃなかったんだ。た、ただ、感情さえ信用できない自分で、どうしたらいいのかわからなかった。
奴は、留守にすると言って、念を切ってでていった。
そしてわたしはここにいるんだ……」
飛行機、船を乗り継いで、なんとかレオリオの病院までたどり着いた。
「こわい。おそろしい。わたしはこの子を愛せるのだろうか。
あいつの子どもを?考えただけで、おそろしい。
あそこに帰る気はないから、父親だっていない。
この子に緋の目が遺伝したらどうする?
もう、もう、わたしは死んでしまおうと思って………
しかし死ねなかった。命は大切にすべきものだ。
わたしひとりの過ちで犠牲にしていいものではない。
しかし、どうすればいいのか、もう……」
*
油断しているといえば、油断していた。
マフィアのボスになってからはそればかりに集中していたし、なかなか緋の目の奪還に割く時間が思ったようにとれずにいた。
礼拝堂に並べることができるくらいに取り戻してはいたが、それだけだった。
クラピカは日々虚しさを感じるようになっていった。
緋の目をぜんぶ取り戻したら……わたしはどうなるのか。
こんな空っぽな毎日を送るくらいなら死んでしまおうか。しかし、自害はクルタ族の掟で禁忌とされている。クルタ族は生死には厳しい戒律と価値観を持っていた。
寝起きしている部屋に戻ると、人の気配を感じた。
男は人のソファに腰がけて人の本を読んでおり、クラピカの気配に気づくと、瞳でこちらを射抜いた。
おまえは、と発するまえに、手刀がクラピカの首に叩き込まれた。
それから目を覚ますと、知らない天井が目に入り、知らない家にいた。
隣では先ほどの男――黒髪黒目で額に包帯を巻き、ダークスーツを着た――クロロがクラピカを抱き寄せ、ベッドに寝転んでいた。
「起きた?そろそろ起きると思ってたんだ」
クラピカは瞬時に鎖を発現しようとしたが、できなかった。
それどころか。
「もう念能力は使えないよ。それに……オレの目を見たよね? どう思う?」
それどころか、この仇の男に、攻撃することは間違っていると思っていた。
男は、この家からは出られないこと、対象者の瞳をみると精神に作用して恋愛的な好意を持つことができる念をクラピカにかけたこと、クラピカの鎖の念能力を奪ったことを告げた。
たしかに、クラピカは男の腕のなかからでる気にはならなかったし、どきどきと甘い鼓動が波打っているのもたしかだった。
屈辱かといわれればそれは疑問だった。それも念能力の作用かもしれない。
「なんでおまえを攫ったかって? 知りたいって目をしてる」
クロロはなかなか饒舌だった。大一番の宝を手に入れ、上機嫌のようすだ。
「いいよ、ぜんぶ教えてあげる。まず、オレはおまえが好きだ。おそらく愛するようになるだろう。そういうわけで、おまえはオレのものにすることにした。一生な。おまえはうつくしいし、飽きることは絶対ない。オレのことはクロロと呼べ。そこの机のうえには緋の目が三対置いてある。おまえへの土産で捧げものだ。だが、それを捧げるまえに――」
クロロが体を動かし、クラピカにのしかかる。クラピカは目覚めたときから全裸だった。
「味見をしないとね、クラピカ」
「や…やめ、」
クラピカは抜けたくても抜けられない腕の中で出来る限り、抵抗した。
だが、その状況はクラピカには恐ろしくもあり、声が出なかった
気づいたら頃にはもう遅かった
クラピカはクロロの念に堕ちていたからだ。
そこからクロロはクラピカのからだをあまくていねいに愛撫し、犯した。
クラピカは初恋の相手であるレオリオと想いを通わせ、これから裏の世界に身をうずめる自身を想うならどうか抱いてほしいと彼に頼み、初めてを貰ってもらっていた。性行為は結婚の証なのだというクルタ族の厳格な戒律を破っても、どうか初めては好意を持った相手がよかったのだ。
レオリオはクラピカを恋人だと思っていたが、クラピカはそのようには思わなかった。ただ一晩を甘く過ごした仲間。それだけにしないと、クラピカは平静が保てなくなると思った。
もし、からだを使うことになっても、そんな身を堕とすことをしても、緋の目を取り戻せるならなんでも使おうと思っていた。
しかし二回目の性交がこの男――クロロになろうとは。
クロロは殊更ていねいにクラピカのからだを愛撫して、クラピカを何度も達かせた。
「相性が最高にいいね、オレたち」とのクロロのことばには、涙が流れた。
それでも、念で操作されているかぎり、クラピカはクロロのことばも愛撫も、むりやりのこととは思えなかった。
数時間にわたる甘い性行が終わりを告げ、眠りから覚めたクラピカは、ソファで読書しているクロロに目を移した。シャツにスラックスと、きわめて動きやすい服装だった。
本から顔をあげ、「起きた? シャワーを浴びたらいいよ」と気軽に言ってくるものだから、クラピカは返事もせずにベッドから抜け出した。膣から滴る精液が気持ち悪い。たしかに、シャワーを浴びてすっきりしたかった。
シャワーから出ると、手ずからクロロにドライヤーをかけられた。クラピカはあいかわらず無言でじっとしていた。ただ、このやさしい手は癒される、と思っていた。
それからは激しく、やさしい監禁がはじまった。
スマートフォンは取り上げられ、クラピカはなにをするのにもクロロの許可が必要になった。許可といっても、クロロはそこまでクラピカを縛ることもなく、ほとんどのことには、許可をだした。
土産と言っていた緋の目は、初日は三つ、それからはぽつりぽつりと持ち帰って来て、クロロがともにいるのなら外出も可能なので、礼拝堂にそれらを置いた。
外に出ても、クラピカはクロロを攻撃しようという気は起らなかった。好意がむくむくと日に日に膨らみ、完璧に彼を好むようになっていたからだ。
家の一室は書庫になっていて、しかもその本たちはどれも金庫に入れて保存するのが適切なほど貴重すぎる物だったりしたので、クラピカの知的好奇心が途切れることはなかった。ともに読書をしたり、意見を交わしたりもした。
問題は、仕事に行けなくなったことだった。クロロはクラピカがこれ以上裏の世界でちからを持つことを望んでおらず、許可をとり、センリツに連絡をとり、リンセンに仕事の回し方を告げ、辞めざるをえなかった。クラピカは仲間のことを思うと胸がすこし痛む気がしたが、クロロのいうことが絶対だとも思った。センリツに「あなた精神を犯されているわよ。うその鼓動がひろがっている」と言われようと、だろうな、と返すしかなかった。
掃除はクラピカが、料理はおもにクロロが行い、クロロはにこにこしながらたまにでるクラピカの料理を食べたあと、ぬけぬけと出かけることがよくあった。旅団と密談を交わしているのだろうと思うと、クラピカのからだの底から怒りがわいてくるのかと思うと、そうではなかった。むしろ、クロロにはやく帰って来てほしいと思った。
さみしい。
クロロがいないこの家はさみしい。
三か月ほどが経ち、クラピカは月経がまったく来ていないことに気が付いた。
まさか。いや、でも、だって、顔を合わせれば性行為をしていた。それはそういうことになるだろう。でも、でも。
クロロから貰った検査薬で調べると、陽性を示した。
「待ってたよ、クラピカ。家族になろうね」
そう笑顔で言われて、ぐにゃり、と世界が歪んだ。「家族ってものを持ってみたかったんだ、おまえと」
クロロが言うことはいつもただしい。でも、これは? 命に係わる出来事を、クラピカは抑えきることができず、その場で嘔吐した。
それからの悪阻はひどいものだった。起き上がることも叶わず、食事も固形物はもどしてしまうので、ゼリーなどの流動食でしのいだ。
クロロが幾度か医師を連れてきたが、悪阻以外の答えを得ることはできなかった。点滴を受けながら、どうしてこんなことになったのだろう、と思った。
クロロはクラピカを心配して、出かけることがなくなった。ときどきは電話で連絡をとっているようだが。
そんな彼を、愛しい、と感じるくらいには、感情が混濁していた。
あいかわらず身体も心も病人のような状態だが、すこしずつ固形物が食べられるようになり、腹は膨らんでいき、自分自身の力だけで歩けるように――しかしからだは重い――なったころ、クロロは外出した。クラピカになにも告げずに。
チャンスだ。なぜかクラピカは思った。
クロロが出かけているあいだに脱出して、逃げなければならない。
そしてこの重みを産みだして、なにもかも吐きださなければならない。
*
クルタ族の戒律では堕胎は絶対の悪であった。
それはわかっていたし、もうそうするには遅すぎる。
いまとなっては愛している男の子どもを産むのは当然だとも思う。念がクラピカの感情をがんじがらめにしていた。
しかし、男は偽りをもってして愛せても、その子どもを愛せるのだろうか。愛情を持てなかったら。
ひとりでも子どもを育てる方法はさまざまある。しかし、しかし……。
ぶつぶつとクラピカが呪詛のようにつぶやいていると、
「おれたちが父親になるよ!」
病室に響いた声はきっぱりしていて、透きとおっていた。
「ゴン……」
「おれたち三人が父親になればいいよ。だいじょうぶ。クラピカは悩む必要なんてないよ。おれたちがついてる。元気な赤ちゃんを産んで」
ね!キルア! とゴンが声をかけると、「お、おう」と勢いに押されてキルアが返答した。
「たしかに、ハンターが三人もいて父親になるんだったら、なにも心配いらないな」
金ならある。母親であるクラピカを守る実力も充分だ。
「レオリオは彼氏だもんね!」と笑顔で言われると、応えざるをえない。
「よっし、三人父親大作戦、いくか!」
「なにそれ。ダッサ」
キルアの辛口にレオリオが吠えていると、クラピカはぽろぽろと涙を零しはじめる。それはどんどん滝のように流れる。
「すまない、すまない………ありがとう」
ちいさく微笑むクラピカに、レオリオは心底安堵した。
一か月後、クラピカは男児を出産した。
黒髪で、緋色の目を瞬かせて泣く元気な子だ。
名前はまだない。
「かわいいね」
「うん、かわいいな」
「クラピカに似りゃ美人になるぞ」
眠るクラピカの隣で寝かされている幼子をみなでのぞき込む。
父親に似れば……蜘蛛の頭はどんな容姿だったろうか。三人は首を傾げた。旅団を追い追われていたときは容姿なんて気にしたことはなかった。ただ、悪くはなかった気がする。
幼子は、産まれたときのように泣きもしない、しずかな子であった。
レオリオはただ、保証人の欄にサインをした。
*
夜。
キルアはぴくりと目を覚ました。
とくべつにクラピカの部屋で寝起きをしているゴンとキルアだが、キルアはある神経に触れて、目をあけたのだ。
それは、かつていた裏の世界の匂い。甘ったるく、触れれば切れてしまう危険な匂いだった。
目のまえにいたのは、かつて自分たちが追いつめ、追いつめられた盗賊の頭。
しい、と口もとにひとさし指をあててキルアに見せ、クラピカを腕に抱いていた。
―――来たか。
キルアは、ぴゅうっと口笛をふいた。この念の口笛が合図で、ゴンも起き、レオリオも駆けつけてくるだろう。ゴンとキルアの念は熟達していた。
今夜訪れて来た者は、キルアでなければ拾えない気配をしていた。
その二重の瞳は窓からの明かりをおびて、爛々と輝いている。
―――だめだ。
キルアは理解した。自分たちより強い者の気配だ。三人でも勝てるわけがない。
こんな、しずかな湖面を沿うように隠れた禍々しいオーラを放つ闇の者を誰が倒せるというのか。隙なんてない。
しかし、この男に狙われた仲間をみすみす捨てるというのか? それは人間としてどうなんだ? でも……。
「クラピカを連れて行かないで」
レオリオが扉を開けて入ってきたタイミングで、ゴンが言った。
「クラピカと子どもの父親にはおれたちがなるって決めたんだ。だから、出て行って」
ゴンの歯がかちかち震えているが、言うことはまっすぐだ。
けれど、クロロはふるふると首を振った。
「おまえたちは勘違いしている。オレがわざとクラピカを逃がしたとは考えなかったのか?」
そんなわけない、とキルアは思った。
クラピカをわざと泳がせたのだ。
自分がいなくなった身重のからだで、いったいどこに行くのだろうと。誰を頼るのだろうと。
「自害はしないだろうと思ったけどね。ずっとあとをつけていた。そうしたらやはりおまえらのもとへ来た」
ちょっと妬けるね、と笑った顔は好青年のそれで、三人はぶるりと身震いした。
「適切に産んでもらわないといけなかったからね。おまえのところに行くと思ったよ。元恋人さん。医師でよかったよ。安心した」
「出てって。出てっててば……!」
冷や汗をかくゴンがくりかえせば、にこりとクロロは笑った。
「もちろんでていくさ。迎えに来たんだから」
右手にクラピカ、左手に赤子を抱いて、男は窓辺に寄った。
次の瞬間、風がぶわりと吹いてカーテンを揺らしたあとにはもう誰もいなかった。