「ここの、Xに、“8”、を、代入するわけですね!」
数学の教師が、何かをホワイトボードに表記する。クラスメイトは、それを必死にノートに写している。
………バッカみたい。そんなのして、将来何の役に立つって言うのよ。
「山辺さん?書いてますか?」
数学教師が、こちらを見る。すると、クラスメイトも教師の声につられて一斉に私に視線が集まった。
「書いて、ません」
正直に答える。だって、嘘つく理由ないし。
すると、数学教師は、
「ちゃんと板書して下さいね?ノート、テスト期間になったら提出してもらいますからね」
と言った。
へぇ。それで?提出するからちゃんと書けと?ふぅん。まあ、書きませんけど。書いたところで、無駄だし。
「皆さんも、ちゃんと書いて下さいね」
教師のその一言で、私はイラッときた。私を利用すんじゃねぇよ。たまたま書いてなかっただけでしょ。私をネタにして、他の生徒を注意しないで。
私は、結局板書はしなかった。先生も、もう呆れたのかなにも言ってこなかった。
「雪ちゃん、次音楽だよ。行こっ♪」
ニコッと笑顔を浮かべて、私に駆け寄ってきた渡辺玲。一応多分、私の友達。
「うん」
立ち上がって、教室を出ようとすると、クラスの男子が話しかけてきた。
「なぁ、山辺ぇ」
ニヤニヤと意地悪く笑う男子たち。えっと、なんだったっけ、こいつらの名前。
「小林くん、宮村くん」
玲がそう口にする。
あぁ、そうだった、そうだった。小林と宮村か。
「何」
「お前、なんで板書しねぇの〜?」
明らかに私をからかってやろうというような口調。絶対面白がっている。そらそうか。
「無駄だから」
小林と宮村が、は?と声を漏らす。
私は構わず続ける。
「聞こえなかった?無駄だからだよ。板書して、将来特別何か役に立つ?Xの代入とか、将来使う?」
「………………」
小林と宮村が沈黙する。お互いの顔を見合わせ、負けじと口を開いた。
「でもよ、板書するのは当たり前の事だろ。常識だろ、常識」
「常識?へぇ。じゃあ、常識って決めた人教えてよ。常識だって言えるんなら、もちろん知ってるよね」
今度こそ、何も言わなくなったふたり。
「それ、屁理屈って言うんだぜ」
悔しそうに歩いていった小林と宮村。
「雪ちゃ………」
「気分悪い。保健室でサボるわ。先生にはお腹痛いとでも言っといて」
一方的に言い残して、荷物を玲に預けた。
スタスタと廊下を歩く。
あー、ホントアイツらバカすぎんだろ。あんな簡単なことも分からないのか。
イライラしながら、保健室ドアを開けた。
「チィースッ………ってあれ」
保健室のドアを開けると、そこには誰もいなかった。
「なんだ…… 。誰もいないじゃん」
まあ、そっちの方が楽か… 。
そんなことを考えていると、丁度授業の始まりを告げる鐘が鳴った。
「……寝てよ」
ベッドに近づく。
毛布を引っ張りあげた時だった。
「____誰?」
男の声が聞こえたんだ。
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数学教師実はうちの担当の先生