報道陣に囲まれた会見場。
角名倫太郎は、相変わらず落ち着いた顔で座っている。
『角名選手、ご結婚おめでとうございます。
まず、今のお気持ちは?』
「んー……まぁ、やっと、って感じですね」
淡々。
まるで今日の昼ごはんの話でもしているかのような口調。
『けっこう以前からお付き合いされてたんですか?』
「そうすね。
この人以外は考えられなかったから、時間の問題でした」
『“この人以外は考えられなかった”…ですか?』
「はい。
……俺、あんま興味ないこと多いんですけど。
嫁だけは別なんで」
眉一つ動かさないまま、重い台詞をスッと差し込む。
『奥様のどういうところに惹かれました?』
「全部。
顔も、声も、性格も。行動も。
……寝てる顔とか、めっちゃ好きっすね」
記者が一瞬ペンを止める。
『寝顔…ですか?』
「本当に可愛すぎて困るんですよね。
起こしたくないから、しばらく眺めてるし。
俺、ああいう顔見ないと生きていけないんで」
会見場
(ざわ……)
角名は無自覚に追撃する。
「この前なんか、結婚発表見て倒れたんすよ。
テレビの前で、ひっくり返ってて。
……可愛かった」
『た、倒れたんですか?』
「はい。
だから“あ、俺、この人絶対手放せないな”って思いましたね」
淡々と“重い結婚の決め手”を述べる。
『奥様は、発表を知らなかったんですか?』
「まぁ、推しの結婚報告なんて彼女からしたら重大発表なんですよ。まあ、その推しが俺なんですけど」
『それで倒れたと……?』
「そう。写真撮った。
家宝にします」
軽い口調で“重い”。
『では最後に、奥様へメッセージを』
角名はマイクに少しだけ口を近づけ、
感情のないようでいて奥にだけ熱がある声で言う。
「……逃げないでね。
俺から離れたら、困るから」
会場、沈黙。
「ずっと隣にいてくれたら、それでいいっす。
俺もずっと面倒見るんで。
……嫁が倒れたら、俺が起こすんで」
淡々、優しい、そして完璧に重い。
記者
(これ……愛重すぎないか……?)
(いや角名選手が言うと余計怖い……)
しかし当の本人は微動だにしない。
「まぁ……俺の嫁、可愛いんで。
それ言えただけで満足っす」
――翌日、SNSは騒然。
「角名の愛が重い」「言い方が静かすぎて逆に怖い」
「奥さんの安全が世界一保証されてる」
など、トレンドを席巻した。
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