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目を開けても、体が重い。
寝ても、 疲れが取れない。
食欲もなく、
話しかけられても返事が遅い。
「なっちゃん、ご飯食べて?」
みことが差し出した皿も、
なつはただぼんやりと
眺めているだけだった。
「……いらない」
「すっちーが作ってくれたやつだよ」
「ごめん…」
「また夜中まで寝てたんだろ?」
LANが心配そうに眉を寄せる。
「最近ずっとそれだよ、なつ。
俺たち本気で心配してるの」
「……別に……いいじゃん」
「よくない
顔色やばいしお前鏡見たか」
呆れてるようにLANが声を出している時
なつはゆっくりと顔を向けた。
「……いるまが、いるから」
「……は?」
「夢でいるまに会える。
俺が泣いても、怒っても、
全部受け止めてくれる。
あいつだけがわかってくれるんだ」
「夢だろ、それ」
LANの声が低く響く。
「違う……あれが現実でここが夢」
「なつッ!」
LANが机を叩く音が響く。
こさめとすちが息を呑んだ。
「なっちゃん、それは……」
みことが止めようとした瞬間――
「うるさいッ!!”」
なつの叫びが部屋を震わせた。
「お前ら何も知らないくせに!!
“夢”とか“幻覚”とか勝手に
決めつけんなよッッ!!」
LANの拳が震えた。
限界まで溜め込んでいた感情が爆発する。
次の瞬間、
“パシン”という乾いた音が部屋に響いた。
LANの手が、なつの頬を叩いていた。
全員が動けなくなった。
なつは一瞬目を見開いて――
そのまま、何の反応もなく座り込む。
頬を押さえもせず、
ただ、呆然と虚空を見つめていた。
「ちょ!らんくん!!…」
こさめが勇気を出して足を入れ込む。
「俺だって、もうどうしたらいい
かわかんねぇよ……」
LANの声がかすれた。
けれどなつは、もう聞いていなかった。
頭の中では、
ただいるまの声がリフレインしていた。
『なつ、もう戻らなくていい。
こっちにいれば、
誰もお前を傷つけない。』
涙が頬を伝っても、
なつは瞬きすらしなかった。
LANは少し目醒してくるといい
外に逃げ出すように行った。
みこととすちがLANの後を追う。
頬にまだ赤みの残るなつは、
ソファに膝を抱えて座っていた。
静かな部屋。
明かりは一つだけ。
そこに、残ったこさめがそっと
入ってきた。
何も言わず、なつの隣に腰を下ろす。
「……こさめ、」
「なつくん……ごめんね。
辛かったよね……。 LANも、なつのこと
誰よりも心配してるからでちゃった
感じだから」
なつは答えない。
ただ、空っぽの目で床を見つめていた。
こさめは小さく息を吐いて、
そのままそっとなつの肩に手を回した。
「……ごめんね、
ずっと寄り添ってあげれなくて」
その言葉で、なつの唇がわずかに震える。
「……寄り添ってくれなんて頼んでない」
「それでもだよ」
こさめは少しだけ笑って、
なつを抱きしめた。
あたたかい体温が伝わってくる。
けれど、そのぬくもりの中で――
なつの頭には、“もうひとりの”ぬくもりがよぎっていた。
『なつ、泣かないで。俺がいるだろ?』
――いるま。
こさめの腕の中にいても、
胸の奥は冷たく、満たされない。
「こさめ、」
なつは小さな声で言った。
「優しいね。ほんと……でも、」
「違う。」
「……なつくん」
こさめの表情がゆらぐ。
なつの目には、
涙と虚ろな光が混ざっていた。
「優しさって……苦しいね」
こさめは抱きしめる腕を少し強くした。
けれど、なつはもう、その腕の中にいなかった。
心だけが――もう、
“あっち側”に行っていた。
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