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美紅がそう叫ぶとお婆ちゃんから渡されたあの棒がオレンジ色の光を発し始めた。まるでスターウォーズのライトセイバーかガンダムのビームサーベルだ。その光る棒を両手で変幻自在に操りながら美紅は純のお母さんに突進した。
純のお母さんの手の中のナイフも青白い光を放った。あれも彼女の超能力なんだろう。もうそこからの二人の戦いは俺の、そして母ちゃんの想像をも絶していた。
二人は軽く数メートルは宙を舞い、光る棒とナイフを何度も交え、お互いに跳び下がって間合いを取り直し、そしてまた激突する。それが何度繰り返されただろう? その間俺は呆けたように突っ立ったまま、その光景を見つめている事しかできなかった。
霊能力者と超能力者。一人は愛する者の仇を討つため、もう一人は愛する家族の命を守るため。女同士の、この世の物ではない力をぶつけ合う壮絶な死闘。
だが、やがて純のお母さんの方の動きが鈍り始めたのが傍で見ている俺にも分かった。あの人の超能力はそのパワーが無限ではないらしい。だから力が段々強くはなるけれど、一人殺す度にパワーを使い果たし、それを取り戻すのに三週間ほどかかる。
それに対して今の美紅の霊力は無尽蔵と言っていい。美紅自身の霊力がこのフボー・ウタキという聖地によって何十倍にも増幅されている。しかも、これは後で知った事だが、キジムナーというのは沖縄の目に見えない精霊のような物で、これもまた霊的存在だ。美紅はあの棒を使ってそのキジムナーからも霊的エネルギーを受け取っている。
美紅の光る棒の先が純のお母さんのナイフを一本手から弾き飛ばした。ナイフはウタキの端に飛ばされ青白い光が消えた。やっぱりだ。美紅の方が押している。
「なぜだ、なぜだ、なぜぇえええええええええええええ!」
突然純のお母さんが血を吐くような叫びを上げた。
「あたしの一族はキリシタンとして二百年もの間迫害を受けて来た。明治の世になっても、差別や嫌がらせは陰で続いた! 一族の男たちは何人も戦争で命を落とし、祖母は原爆で一生をめちゃくちゃにされた! やっと平和な時代になっても被爆者として嫌われ、蔑まれ、化け物扱いされて……」
純のお母さんは残ったナイフを両手で握り直し美紅に力の限り斬りつける。だが、美紅はあの光る棒で相手の体ごと跳ね返す。純のお母さんの絶叫は続く。
「あの子に、純に、あたしの化け物としての体質が遺伝していない事を知った時、あたしは死ぬほど喜んだ! あたしの子供の代になって、やっと誰からも迫害も差別もいじめも受けずに済む……あの子にはそういう人生が待っているはずだった。あたしの一族が何百年も望んで得られなかった普通の幸せな人生が純には送れるはずだった。それなのに、それなのに、それをこいつらが……こいつらが……」
俺は今さらながら自分のしでかした事の重大さに気がついて体がぶるぶると震えた。今さら後悔したって遅いのは分かる。そんな事知らなかったと言えば言える。でも、純の一族にはそんな長い、つらい歴史があったなんて。
いくらガキだったとはいえ、俺の小六の時のクラスメートたちはなんて事をしてしまったんだ。そして俺自身も、積極的に加担しなかったとはいえ、なんてとんでもない事をしでかしちまったんだ。
「おまえたちの様な、こんな南の島でのんびり暮らしてきた連中に、あたしの想いが分かるか? 分かってたまるか!」
その瞬間美紅の動きがぴたりと止まった。純のお母さんの話に気圧されたのか?いや、そうだとしても無理はない。なら、もういい、美紅。たとえここで殺されるとしても、それは俺の当然の報いで……
「……なら……も……きた」
美紅は下を向いたまま小さな声でそう言った。なんと言ったのかよく聞こえない。少し離れた俺たちはもちろんすぐそばにいる純のお母さんにも聞き取れなかったようだ。
「小娘……今なんて言った?」