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僕と仙人 ガロウの間で話が進む中、アズマは静止させるように、ガロウを睨んだ。
「ダメっすよ……。もう、貴方はほとんど歩けもしない……。ヤマトには悪いけど、仙人様に無理はさせたくねぇ……」
僕たちは、何も言えずに立ち尽くしてしまう。
そして、アズマは続ける、
「さっき、ヤマトが操られてた時、俺、素手でヤマトの炎の剣とか、水魔法とか受け止めてただろ? アレ、俺の水魔法なんだけど、防御魔法とかではないんだ」
すると、ピクンっとアゲルが言葉を返す。
「アレが防御魔法じゃなかったらなんなんですか!? ヤマトの『神の加護』魔法級の防御魔法じゃないですか!!」
確かに、普通の防御魔法ですら、物理攻撃を弾くことは出来ても、僕の水魔法 アクアガンを消滅までさせるのは、『魔法を消滅させる魔法』としか思えない。
「最初にも言ったが、俺は戦闘は出来ない。ああやって少し壁にはなれるけどな。俺の魔法は治癒魔法なんだ」
「治癒魔法……?」
「ああ、俺は魔法の発動が出来ない。だから俺の魔法には名前がない。水の魔力があるだけなんだ。ただ、その代わり他の人とは違う扱い方を仙人様から教えてもらった」
すると、アズマは立ち上がって手を広げた。
「俺の身体を見て欲しいんだが、隅々まで水の薄い魔力に覆われてるんだ。最初はこの状態を維持させるのは難しかったが、今は自動的にこの状態になってる」
「な、なんですか、その魔力操作は……」
アゲルは、初めて見る魔法の扱い方に戸惑いの声を上げる。
確かに、アズマの身体には、目を凝らしてよく見ると、薄い水色の膜のようなもので覆われていた。
「普通は、武器や装備を介さないと魔法は発動でき……」
アゲルが細目で分析していると、アズマは言葉を遮って訂正に入る。
「ああ、だから魔法は発動してない。これは、単純に『魔力が漏れ出ている』だけなんだ。この状態なら、小さな攻撃や怪我も直ぐに治癒されるんだ」
「凄い! 無敵じゃないですか!」
興奮して反応すると、アズマは困り顔を浮かべる。
「いやぁ、こんなもん日常生活が少し安全になるだけで、魔法攻撃はこの膜を一部に集中させて厚くしないと、ヤマトの攻撃魔法も防げなかったよ」
「それなら尚更、治癒で消滅が分からないです」
アゲルは改めて、初めて見る魔法の扱い方に興味津々だった。
「ああ、それは、俺の『治癒の仕方』なんだ。身体の膜が薄い理由も同じ理屈なんだが、俺の治癒の仕方は『物の状態を前の状態に戻す』ことになるんだ」
「『消滅させた』のではなく、『魔法攻撃自体を発動前に戻した』。つまりは、発動したこと自体をなかったことにさせた、と言う解釈で合ってますか……?」
「ああ、天使さんの言う通りだ」
アゲルは改めて口元に手を持って感慨深く見つめる。
「えっと、その治癒で仙人さんのご病気? は治せないんですかね……?」
僕は少し手を挙げて恐る恐る訊ねる。
そんなことが叶うならとっくにしているだろうことは、考えられなくなっていた。
「仙人様は病気じゃない。『呪い』なんだ」
「呪い……?」
「そう。龍に掛けられた呪い。呪術魔法だな」
その言葉で、様々な合点が行った。
仙人 ガロウは龍に会ったことがあり、呪いを受けた。
その説明をアズマにしているから、アズマも龍や龍族の存在を聞かされている。
そして、僕に協力的なのも、龍との因縁なのか……。
恐れ知らずのアゲルは表情を変えずに話す。
「アズマさんの治癒が『元に戻す』ものだとしたら、『呪いに掛けられる以前に戻す』ことが出来るのでは?」
すると、アズマは俯く。
「ふっふっ、長生きもしてみるものだ。こんなに人間や天使族に私の心配をされるとはな……」
そう言うと、仙人 ガロウは包帯を剥がし、自らの肩を見せた。
そこには、黒く禍々しい印が浮かび上がり、包帯を剥がした途端にドロドロと血が溢れ出した。
「印……?」
「印が刻まれているのは、人体の奥なんだ。俺は、触れられないものは治癒させられない」
そんな重い空気の中、僕は一人キョトンとしてしまう。
「えっ、と……呪術魔法ってことは、それって結局は魔法なんですよね……?」
「そうだ。魔力が込められているからな」
そして、徐に僕はアゲルの元に近寄る。
「アゲル、光剣、貰える?」
「そうか! その手がありましたね!」
すると、アゲルは早速、光剣を僕に手渡した。
「な、なんだ!? 剣で刺したりなんかしたら、大量出血で取り返しが……!」
「大丈夫です! この剣は光魔法で僕が作った光の剣。光なので、物体を切ることが出来ないんです。ただ……」
“炎神魔法 ラグマ・ゴア”
「魔力を込めたら、最強の剣ですかね……!」
僕は、光剣でガロウさんの肩の印を突き刺した。
その瞬間、灰のように印は消えていった。
「す……すげえ……」
アズマさんは露骨に呆然としている。
「アゲルの説明の通り、光剣は光で出来ている為、人体を刺すことは出来ない。そこに僕の炎神魔法 ラグマ・ゴアを付与させれば、身体の内部に光が届いて、呪いを蒸発させられると思ったんです。よかった、成功して……」
仙人 ガロウは一筋の涙を溢す。
そして、
「ンッハハ……ガッハッハッハ!! 大したもんだ! 君なら本当に龍族に勝てるかも知れないな!!」
そう言いながら、立ち上がり、腕を回した。
「こりゃあ尚更、仙術魔法を、なんとしてでも彼に譲渡させなければならないな!」
そう言うと、ガロウさんは僕に向き直した。
仙人がこの世界で編み出した、アゲルですら知らなかった仙術魔法。
「よろしく……お願いします……!」
受けない手はない。
「早速始めよう。そこに楽にして座ってくれ」
「は、はい。普通に座ればいいんですかね……?」
僕が座った対面にガロウさんは座ると、掌を合わせて目を閉じた。
やがて、真っ白な蒸気のようなものが、ガロウさんの身体から溢れ出し始めた。
ゆっくりと目を開き、僕と目を合わせる。
「あれ……?」
ガロウさんと目が合った途端、僕の視界には立っている僕とガロウさんが、上も下も左右のどこを見ても真っ青な空間にいた。
「やはり、異郷の君ならここまで来れたか」
「ここは……なんなんですか……?」
「ここは空間の狭間だ。目を閉じ、他に感じたことのない魔力をしっかりと肌身に感じてみてくれ」
僕は言われた通り、目を閉じる。
初めて感じる感覚……意識が途切れそうだ……。
「君は今、どこへ行きたい?」
暗闇の中で、ガロウさんの声が響く。
行きたい場所……?
そうだな、最初にアゲルに召喚された草むら。
あそこから見える自然が綺麗で……。
「想像はできたか?」
「はい……。すごく、綺麗な場所です」
「私の後に続けて、魔法を唱えるぞ」
「え? あ、はい」
『 仙術魔法 神威 』
「 仙術魔法 神威 」
肌で分かる。さっきの空間にはもういない。
小さく風が吹いている。ここは外だ。
僕は恐る恐る目を開ける。
「え……?」
僕は、初めてアゲルに起こされた場所、自然の国の手前にある森林にいた。
「幻影……じゃない。洗脳……でもない……」
実感として伝わる。樹にも触れられた。
もしかしてこれは、空間を移動する魔法。
ガロウさんの姿がない。
そうか、別に同じ想像をしたわけじゃないから……。
優しい風が、僕の身体を包む。
分かった。
同じ手段で、自力で帰って来いってことだな……!
僕は再び目を閉じ、先程の空間で感じた魔力を自分の底から探り出す。
これは……炎……風……水……。
この、不思議なエネルギー……きっとこれだ……。
そして、想像……。
自由の国の洞窟で、中には灯りがあって、布団が二組と机があったんだ……。
「よし……やってやる……」
“仙術魔法 神威”
「うわっ!!」
すると、みんなの驚く声が僕の耳に飛び込んだ。
僕もゆっくりと目を開ける。
「無事、戻って来られたようだな。習得完了だ」
微笑むガロウさんと、目を丸くしているみんな。
「ガロウさんの言っていた通り、本当に突然姿が消えたかと思ったら、再び現れた……」
アゲルが真剣な表情で考え込む中、僕はアゲルにピースサインを向ける。
「また一つ、強くなったぞ!」
ニシッ、と笑い掛けると、アゲルは一瞬目を細め、クスッと笑みを零した。