カークス騎士団の毎日行われていた定期報告によれば、彼等が”楽園”に到達した頃には”楽園”の環境は既に元の状態に戻っていたとのことだ。
安全の確認も含めて調査と採取を行っていたところ、宝麟蜥竜人《ジュエルケイルリザードマン》の集団と遭遇したらしい。しかもその後、宝麟蜥竜人の集落を発見したという報告まで入ってきた。
ただでさえ滅多に遭遇することの無い魔物が集落を築き上げていたのだ。希少な素材が膨大な量に手に入るとなれば、国のためになると考え、騎士団は殲滅を選択した。
彼等の最後の報告では八割ほど斃し、その日に決着をつけるつもりだったらしい。だが、その日以降騎士団の連絡は一度も無かった。
ノアはこの街に来た時から、この国の貨幣を相当な量所有していたと報告を受けている。その出所を聞けば、家の近くにいた不届き者を倒した際に手に入れたとのことだった。
蜥蜴人《リザードマン》という種族は、僅かではあるがドラゴンの因子を持つ魔物だ。もし、ノアが私の想像通り”楽園”の奥に住まうドラゴンだったのならば…。そして宝麟蜥竜人達に慕われ、彼等を庇護していたとしたら…。
カークス騎士団がノアの怒りを買い全滅したと考えれば、全てに説明がつく!
慕っている者達の集落へ久々に訪れてみたら、慕っていた者達が多数殺されていた。そんな状況となれば、怒りの感情が沸かない筈が無い…!
今更なことだが、彼女はこの国の言葉を当たり前のように流暢に使用していた…。どうやって覚えた…!?カークス騎士団と対峙した時に彼等の言葉を聞いて覚えたというのならば、それも説明がついてしまう…!
我々では到底使用できないような超高等魔術を、片手間に扱ってしまえるほどの知能があるのだ。異種族の言語を覚えることぐらい容易にできても納得できる…!
駄目だ…!私には既に彼女がそういう存在としか認識できない!考えれば考えるほどに最悪の方向に納得できる回答が思い浮かんでしまう!他の可能性を考えることができなくなってしまっている…!
落ち着こう…。
仮に彼女が私が想像した通り”楽園”の奥から来たドラゴンでかつカークス騎士団を全滅させたとして、この街に来た彼女の態度は実に温厚なものだった…。
いや、醸し出している雰囲気自体は苛烈そのものなのだが、それは感情とは別だからな。直接対峙して分かったことは、彼女から怒りの感情などは感じられなかったということだ。
カークス騎士団を始末して、それで手打ちとなったのだろうか?
とにかく、今後も彼女の不興を買わないようにしなければこの街はおろかこの国が滅んでしまう。慎重に慎重を重ねて行動しよう。
ギルド職員達にもしっかりと注意喚起しておかなくては…。
日が変わって早朝から、彼女は早速やらかしてくれた。
何なのだ!?冒険者ギルド全域を纏めて、しかも短時間で清潔な状態にしてしまう『清浄《ピュアリッシング》』とは!?
聞けば早朝に集まっていた他の冒険者連中が不衛生で悪臭を放っていたから自分のために彼等に向けて『清浄』を施したらしい。ギルドも纏めて綺麗になったのは、その余波とのことだ。
彼女曰く、繊細に範囲を指定してやるほど冒険者達に気を遣う気が起きなかったらしい。つまり、どうでもいい相手だったから大雑把に範囲を指定した結果ああなったというわけだ。
それはそれとして、一体どういう効果範囲をしているんだ!?というかこの範囲は間違いなくギルドだけでなく周辺の住宅にも効果範囲が及んでいる!直ぐに説明のために職員を向かわせなければ…!
まったく、朝っぱらから騒がせてくれるものだ…。
幸い、内容が住民にとっては有益なことだったために驚かれこそしたが、不満に思っている人が1人もおらず、むしろ感謝すらする人がいたぐらいだ。不穏な事態にならなくて本当に良かった…。
早朝の時間帯に集まる冒険者達は大抵酷い悪臭を放っているため、ギルド周辺の住民からのギルドの印象はあまりよろしくないのだ。
だからと言ってあの連中に『清浄』掛けて回る余裕も無ければ、義理も無い。本人達の意識に任せるしかないのだ。
いつもなら注意喚起をしたところで、ああだこうだと言い訳をして改善しようとしないのだが、今回はノアがきつく注意をしたようだ。
それ自体は痛快な出来事だったのだが、またしても頭を抱えてしまうような聞き捨てならないことをやらかしてくれたとエリィから報告が入った。
あのドラゴン、昨日図書館で本1冊を丸ごと複製してしまう魔術を『転写』を元に開発してしまったらしい。
魔術というのはなぁっ!!やろうと思ったところでなぁっ!!簡単に開発できるものじゃあ無いんだよぉっ!!
……いかん、あまりにも常識外れな事をしでかしてくれたせいで興奮しすぎた。感情抑制魔術を掛けておかなければ…。
それと胃薬と頭痛薬も忘れずに飲んでおこう…。
ふぅ…。彼女は、本当に自重しているのか?しているんだろうなぁ…。心臓に悪いなんてものじゃないぞ…。
転写の魔術自体、図書館で紹介されたらしいし、あのエレノア嬢のことだ。ノアが本を複製できるようになると想定した上で『転写』を教えたに違いない。
図書館からも指名依頼が来そう、いや、間違いなく来るな…。
やれやれだ。指名依頼というものは”中級《インター》”の冒険者に対して頻繁に出すようなものじゃないということを分かっているのだろうか…?
気持ちが落ち着いてから少ししたら、ギルド職員から通信が入っていると連絡が来た。相手はダンダードだ。
…嫌な予感しかしない…。私の直感が間違いなくノアが関係していると告げている…。
まだギルドが戸を開けてから四時間ほどしかたっていないんだそ?勘弁してくれ…。
「いっやぁ!君の所で新たに登録してくれたノアさんは、実に素晴らしい女性だねぇ!長年私を悩ませ続けていた問題をポンッと解決してくれたよ!」
「ダンダード、分かっているとは思うが、くれぐれも彼女の不興を買うような真似はしてくれるなよ…?お前にも分かっているんだろう?彼女の異常なまでの力を…」
やはりノアが関わっていたか…。長年の悩みというと、あの山のように積み上がった紙束か…。彼女も大量の紙を欲しがっていたし、互いの利益が一致したのだろうな。
思った通りこのスケベ窟人《ドヴァーク》はノアを絶賛している。通信機越しに鼻の下が伸びている様子が容易に想像できる。タニア女史にシバかれてしまえ。
ノアは他人から情欲の感情を込めた視線を向けられたところで気にしないようだが、それでもしつこいようならば煩わしくも思うだろう。念を押してダンダードに釘を刺しておく。
「勿論だとも!いやぁそれにしても実に美しい女性だ!それにとても理知的で、それでいながら胆力も凄まじい。彼女は王族を前にしたところで微塵も委縮することが無いだろうねぇ!むしろ王族の側が彼女に対して委縮してしまうんじゃないかな?ユージェン、私に言った言葉はどちらかというのならば、王都にいる戯け共に言ってやるべきだと思うぞ?」
「王都のことは王都の連中に任せるさ。私だって暇じゃないんだ。一々面倒など見ていられるか」
人の事を都合の良いメッセンジャーのように言うんじゃない。彼女が王都へと向かうその時には、同じ冒険者ギルドの誼《よしみ》でアイツぐらいには伝えてはやるが、他の連中など知ったことか。
こっちの事情など、碌に知ろうともせずに呑気に構えている連中のことなど、気にするだけ無駄というものだ。どうせこちらの意見など聞きはしないのだからな。
「ハッハッハッ!相変わらず王都の連中には辛辣だなぁ!だが、あの連中がノアさんの不興を買ったとしたら、私達も危ないんじゃないかね?」
「分かっているさ。だから、私達だけでも彼女からは好感を抱いてもらわなければならないんだ。万が一王都の阿呆共が彼女の逆鱗に触れたとしても、私達にまで被害が及ばないようにな。それに、あの阿呆共が彼女にシバかれるのだとしたら、それはそれでお互い胸がすく思いになるだろう?」
「ダァーッハッハッ!ハッキリと言うじゃないか!相変わらず見た目に反して腹黒いねぇ!怖い怖い!なぁに、私の目を侮ってもらっては困るというものだよ?こと女性の感情を読み取ることならば、人一倍優れていると自負しているとも!」
分かっているのなら、一々女性に対して誰にでもあからさまに分かるような情欲の視線を送るんじゃない、このスケベ窟人。
コイツは何故か相手の不快感の限界値というものの見極めと引き際が絶妙なのだ。
それ故に、意外にもタニア女史以外の女性から制裁を受けたことが無い。というよりも、女性が不快の限界値を迎える前にタニア女史によってシバかれている、と言った方が正しいのかもしれないが。
だが、彼女にダンダードの見極めが通用するのか?私が懸念するのはそこだ。
今のところ誰にも吹聴するつもりは無いが、彼女はドラゴンだ。しかも我々が知るような気性が荒く好戦的で強欲な者達とは違う。何が怒りの原因になるのかなど、私には皆目見当がつかない。
くれぐれも、余計なことをして不興を買わないでもらいたいものだ。
「で、要件は何だ?彼女を褒めちぎるために通信をしてきたわけでは無いのだろう。大体予想はできるがな」
「ハッハッハッ!君が想像している通りだとも!ノアさんが”中級”に昇級したのなら、是非とも指名依頼を出したくてねぇ!彼女ならば明日にでも”中級”に昇級してしまうだろう?今のうちに予約しておかなければ出遅れてしまうと思ってねぇ!」
やはりそう来たか。
あの紙の山はおそらく商業ギルドが望む量、九千万枚。問題無く捌けてしまったのだろう。つまり、今商業ギルド裏の倉庫にはかなりの空きスペースがあるということだ。
そして、ノアが一度にそれだけの量を『格納』可能ならば、当然頼みたいことは街の別倉庫にある需要の高い商品の移動だ。彼女ならば造作も無いことの筈だ。
「内容は運搬依頼で良いな?」
「ハァーッハッハッ!ユージェンは本当に話が早くて助かるよ!よろしく頼んだよ!対応は私が直接行うからね!安心してくれたまえ!当ギルド自慢の魔導車両で移動しながら、私のとっておきの店で絶品料理を堪能してもらうつもりだよ!」
「お前が対応するから不安なんだよ、私は…」
「アァーッハッハッハッハッ!辛辣だねぇ!なぁに心配はいらないとも!ノアさんのことは一度話をして、我々に対して友好的な関係でいてくれる人物だと感じられたからねぇ!君の気にしすぎだと思うよ?」
何さりげなくノアを食事に誘おうとしているんだ、この男は。彼女が”中級”に昇級したらミネアを通してタニア女史に伝えておこう。痛い目に遭ってしまえ。
「一応言っておくがな、彼女は冒険者としてはあまり活動する気が無いぞ?今回は大量の依頼を受注してくれているが、あくまで私が指名依頼を出したいと申し出て、それを了承してくれたからだ。あまり指名依頼を出して彼女の時間を割くようなことをしてくれるなよ?それと、9日には王都に向かう予定でいるとのことだ。この国に来たのは旅行らしいからな」
「ほほぅ、それは初耳だねぇ。だが、理解できるとも。ノアさんの佇まいは、まさしく自由奔放のそれだったからね。分かったよ。私からの指名依頼は今回の物だけにしておこう」
すんなりと受け入れたのはダンダードにも彼女の不興を買うことは絶対のタブーだと理解しているからだろう。まったく、本当にこういう引き際を弁えているところだけは称賛に値する男だ。
ダンダードとの通信が終わり、しばらくして正午になる少し前、ノアが受注した依頼を片付けて私の所に査定に来た。
待てや。
確か受注していた依頼は10件を超えていたよなぁ!?しかも同じ場所では無く、運搬依頼を含めたら3ヶ所!何でもう終わって帰って来てんだよ!?
しかも、早朝から行ったわけじゃない!ダンダードとの取引が終わった後に依頼を片付けに行ったから、掛かった時間は推定4~5時間だ!何したらそんなに早く片付くんだよ!?
いかん、彼女の機嫌を損ねないためにも落ち着いた対応をしなければ…感情抑制、感情抑制…。胃薬、頭痛薬もだ…。
薬草類に関しては、相変わらずガラス容器に収めてくれていて全く問題無かった。品質も良好だ。問題は鉱石の方だな。
やたらデカい。というか、人工鉱床から生えている鉱石の塊をそのまま取ってきたようにしか見えない。聞けば鉱石の生え際に手刀を叩きこんで、根元からへし折ったらしい。
まぁ、うん。”一等星《トップスター》”級ならできるだろうな。ましてや彼女はその”一等星”すら歯牙にもかけない存在だ。できて当然だ。意外にもあまり驚くことは無かった。
それよりも、だ。あえて彼女には聞かなかったが、手ごろなサイズに砕かれている鉄鉱石の一部に、極めて滑らかな断面を持った鉄鉱石が含まれていた。しかも魔力は一切宿っていない。
何してこうなった…?まさか伝説の名工が作ったような極めて頑丈で鋭利な刃物でも所有しているとでも言うのか?
待てよ?彼女、常に尻尾の先端にどうやって作ったのかまるで分からないような木製の尻尾カバーを取り付けているよな…。
まさか、そういうことなのか…?あのカバーの内側はそうなっているのか!?
だとするのなら、一応は彼女は私達に敵対する気は無いという意思表示として受け取って良さそうだな。あくまで私の予想に過ぎないが、少しは安心できる内容ができたのは僥倖だ。
尤も、だからと言って彼女が私の心を煩わせているのは変わらないのだがな。
いや、何だよ。ワイバーン瞬殺して解体も終らせてるって…。そんなの”一等星”でも1人じゃできねぇよ…。
“一等星”の中でも実力にはそれぞれ差があるが、それでも単独でワイバーン瞬殺できる奴なんていねぇよ…。
コイツ、ドラゴンも瞬殺できんじゃねえのか?それも”ドラゴンズホール”にいるヤベェヤツ等…。
つーかよぉ、ワイバーン片付けて解体して、それで帰って来るのが2時間近く遅くなったってことはよぉ、本来なら半分程度の時間でこの街に帰って来れたってことじゃねぇかっ!?
しかも午後からは寄り道もしないから今から依頼を片付けに行けるだぁっ!?
ふざっけんじぇねぇよっ!!少しは休ませろっ!!俺達はアンタみたく飲まず食わずで動けるようにはできてねぇんだよっ!!いや、飲まず食わずで動けるかどうかなんて知らねえけど!どうせできるんだろ!?
いかん…。内心ではあるが言葉遣いが汚くなってきた。気を付けなければいつ口に出てしまうか分からない。それがノアの不興を買ってしまったらアウトだ!
…はぁ…しんど……。
決めた。今夜もミネアに甘えよう…。彼女に抱きしめてもらいながら、甘い声で労ってもらおう。そうでもしなければやってられない…。
このペースだと、ノアはもう今日で”中級”へ昇級してしまえるな。今夜あたりにでも指名依頼の内容を話しておくか。どうせ図書館からも本の複製依頼が出るだろうしな。
思った通り、昼食を終えて少しした頃に図書館からノアに対して指名依頼が届いていた。内容は予想していた通り本の複製依頼だ。
それと時をほぼ同じくしてミネアから、というか魔術師ギルドからもノアが使用した、
『我地也《ガジヤ》』なる魔術の実施、解説依頼頼が届いた。あの魔術には私もかなり興味がある。当日は私も参加させてもらうとしよう。
あのドラゴン、案の定、午後の間に30件近くの依頼を片付けて来やがった。
これで”中級”に昇級だ!良かったなぁ!チクショウメッ!おかげ様でこちとら大忙しだよっ!!マジで勘弁してください…。
いかんいかん、感情抑制、感情抑制…胃薬、胃薬、頭痛薬、頭痛薬…。
明日から指名依頼を受けられるようになるために、エリィには今晩私がギルドマスターとしてノアに指名依頼の件で説明がしたいことを伝えてもらうように頼んでおいた。
で、ノアと夜に指名依頼の件で私の元まで来てもらったのだが、私がギルドマスターと知ってもあまり驚いてはいなかったな。彼女にとってはあまり気にすることでは無いのだろう。
まぁ、それは良いとして、私は彼女の正体についてどの程度まで言及して大丈夫なのかを考え、本来の尻尾の姿を確認させてもらうことにした。
一言で言ってヤベェ…。伝説の剣なんて目じゃねぇよコレ…。てか伝説の剣もスパッといけるぞコレ…。
こんなん振り回されたら防ぎようがねえぞ…。しかも、報告によればやたら精密にしかも高速で扱えるんだろ…?どんだけ盛れば気が済むんだよ…。魔力を込めていない状態でコレなら魔力を込めたらどうなるんだよ…?
見ておいてよかったのか、見なけりゃ良かったのか分かんねぇ…。
1つ言えることは、ノアが俺達を気遣ってこの尻尾の刃を人前に見せないでいてくれるってことだ。
つまり、人間達に対して今のところ敵対する気は無いってことの意思表示とみて間違いないだろう。しかも今後もその方針でいてくれるようだ。マジでホッとする…。
だが、俺は1つミスを犯したてしまった。
俺が彼女のことを”楽園”から来た存在だと想定していると気取られてしまったようなのだ。
俺が[思い知らされた]と発言した直後、ノアの瞳にほんの僅か動きがあった。
動揺のそれではない。思い返すような、思索するような反応だった。
そして、その直後、彼女からじっとりと見つめられた。
心臓が止まるかと思った…。
これは、駄目だ…。間違いない…。彼女は、俺が予測した通り”楽園”の奥から来ているし、カークス騎士団を始末したのも彼女なのだろう。
だが、俺がその事実に気付けたことに対して、言及はしてこない。
彼女は分かっているのだ。お互いに口に出さなければ、あくまで確信止まりであり、確定にはならないことが…。そして、それは彼女が自身の正体を吹聴されることを良しとしないという意思表示であることも理解できたた。
口では建前として冒険者としてこの街に留まって欲しいと言ったが、とんでもない!俺個人としては、できることならサッサとこの街を出て行って欲しいまである!
正体を知っている身としては、いつ逆鱗に触れてしまうか分かった物じゃないんだ!いくら矮人《ペティーム》でも心労でハゲるわっ!
幸いなこと、にノアは今回来た指名依頼を終えた後は依頼を受ける気が無いらしい。
本当に助かる。それでゆっくり街で過ごしてくれるというのならこちらとしても安心できるというものだ。
ノアとの会話を終わらせた後、図書館と商業ギルドへ彼女の意思を伝えることに加えて、彼女の機嫌を損ねないようにきつく言っておいた。
「それでぇ、ダーリン?そのノアちゃんって娘は人間なの?」
「ごめんよミネア。私には直接会って自分で判断をしてほしいとしか言えないんだ…」
「あらぁ~。大変だったわねぇ~。昔っからダーリンはぁ~、知らない方が良い事に気付いちゃう人だったものねぇ~。今はゆっくりと休んで頂戴ねぇ~」
私は現在、ミネアに抱きしめられながら彼女に慰めてもらっている。
あぁ、癒される…。彼女はとても聡い人だ。今の私の答え方で何となくノアの正体を察することができただろう。
尤も、ミネアはノアを危険視してはいないようだ。直接会っていないからか、もしくは彼女が私達に危害を加えるつもりが無いと思っているからか。
どちらでもいいし、それでいい。ノアに対して警戒して心労を抱えるのは私だけで十分だ。ミネアにまで背負わせるわけにはいかない。
大分気持ちが楽になってきた。今日はこのまま彼女の胸の中で眠らせてもらおう。
明日もきっと、大騒ぎになることは間違いないのだからな。
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