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万事屋最高👍
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「金時ー!!神楽ちゃーん!新八くーーん!元気にしとるかのー?!」
快援隊の私設艦隊が江戸に寄港した際、真っ先に万事屋に転がり込んできた坂本辰馬は、いつもの調子で豪快に笑いながら、神楽の隣を陣取っていた。
「あっち行けネ、声がデカすぎて酢昆布の味がしなくなるヨ」
神楽は面倒そうに鼻をほじりながら、自分の膝の上でくつろごうとする大男を、むんずと掴んだ傘の先で押し返す。だが、坂本はそんな扱いを「照れ」だとポジティブに解釈し、さらに距離を詰めた。
「はっはっは! 手厳しいのう! だがそこがええ、そこが神楽ちゃんの魅力ぜよ! 万事屋のおまんらに土産と思ってのう、特製の高級酢昆布を持ってきたがよ。一緒に食べんか?」
「……。もらうネ」
高級という言葉に即座に反応し、神楽がパッと手を出す。坂本はその小さな手に、これでもかとばかりに菓子を詰め込んだ。歳の離れた妹を溺愛する兄のようである。
「おーい坂本〜あんまそいつ甘やかすなよ。ていうか俺にもそれよこせ」
「あはは!金時は厳しいのう!こがなめんこい子おるっちゅーのに!」
「誰が金時だ!いつになったら名前覚えるんだよ!」
「銀さんうるさいです」
銀時と言い合いながらふと、神楽が幸せそうに酢昆布を頬張る姿を見て、坂本はサングラスの奥の目を細めた。
「……本当におんしゃあ、見るたびにええ顔をするようになる。金時も、ようやっとるようじゃ」
ふと漏れた真面目なトーン。神楽が「あん?」と顔を上げると、坂本はまたすぐに、あははは!と能天気に笑って、彼女の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「神楽ちゃん! 陸奥にバレる前に、もうちょっとだけわしと遊んでくれんか? 今なら肩車もサービスするぜよ!」
「お前が私の馬になるなら考えてやるヨ。ほら、しゃがむネ、辰馬!」
「がはは、喜んで! さあ、どこへでも連れて行くぜよ、神楽ちゃん!」
万事屋のソファでその光景を眺めていた銀時は、「どっちが保護者だか……」と呆れながら、ジャンプをめくる手を止めた。その口角はわずかに上がっている。
銀時が依頼で出払っている昼下がり、万事屋のドアを豪快に蹴破らん勢いで開けたのは、快援隊の艦長だった。
「金時ー! 久方ぶりぜよ! 宇宙の珍味を持ってきた……ん? なんじゃ、神楽ちゃん一人か」
ソファで一人、退屈そうに酢昆布を噛んでいた神楽は、入ってきた大男を一瞥して鼻を鳴らす。
「銀ちゃんはパシリに出てるヨ。辰馬、お土産の珍味だけ置いてさっさと帰るネ」
「はっはっは! 相変わらず手厳しいのう! だが金時がおらんのなら、わしとおんしゃあでこの珍味を独占できるというものぜよ」
坂本はいつもの調子で笑いながら、神楽の隣にどっかと腰を下ろした。神楽は「狭いネ」と文句を言いつつも、彼が広げた得体の知れない干し肉(宇宙の珍味)を迷わず口に放り込む。
「……これ、結構うまいネ」
「じゃろう? 辺境の星で見つけた、元気が湧く肉ぜよ」
賑やかに笑い合う二人。だが、不意に神楽が「……ふう」と、小さな溜息をついて膝を抱えた。
「銀ちゃんも新八も、最近忙しそうネ。私だけ置いてけぼりみたいで、たまに……ほんのちょっとだけ、つまんないヨ」
夜兎の少女が、ふと見せた寂しげな子供の顔。
いつもなら「わしが遊び相手になるぜよ!」と騒ぐはずの坂本が、その時ばかりは静かにサングラスの位置を直した。
「神楽ちゃん」
呼ばれて顔を上げた神楽の頭に、大きな手が置かれる。
「あいつらが忙しくしちょるのは、おんしゃあを『子供』のままでいさせてやりたいからぜよ。……背伸びして、あいつらと同じ重荷を背負おうせんでええ。神楽ちゃんは、わしら大人が作った平和な屋根の下で、お腹いっぱい食べて、お腹いっぱい笑っておればええがよ」
その声は、海よりも深く、凪いだ風のように穏やかだった。
坂本の瞳には、戦場を知る者特有の悲しみと、それを乗り越えた者だけの優しさが宿っている。
「……辰馬は、お節介ネ」
神楽は少しだけ顔を赤くして、坂本の太い腕に頭を預けた。
銀時たちの前では「戦力」として振る舞う彼女も、坂本のこの規格外の懐の深さの前では、ただの「守られるべき少女」に戻ってしまう。
「はっはっは! 商売人は、価値のあるものを守るのが仕事じゃきに。わしにとって神楽ちゃんは、宇宙のどの宝石よりも価値があるぜよ」
大きな背中に寄りかかり、神楽は少しだけ目を閉じる。
やがて銀時が「おい、うるせー声が下まで聞こえて……」と戻ってきたときには、坂本の膝の上で、子供のような寝顔で眠りこける神楽の姿があった